「日本野生植物寄生・共生菌類目録」 農環研資料第26号 p. 169, 2002/3

月星隆雄・吉田重信・篠原弘亮・對馬誠也

農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター 微生物分類研究室

 植物に寄生・共生する菌類については,生態学,菌学や植物病理学など様々な分野で精力的に研究が行われてきた。特に植物病理学分野では日本植物病理学会による日本植物病名目録など,植物寄生性菌類データベースの蓄積がある。しかし,記載されているのは主に栽培作物,樹木など有用植物に寄生する菌類に限られ,野生植物(草本類)に寄生する菌類の目録としては不十分である。また,記載は植物寄生性菌類に限られ,エンドファイト(植物内生菌)や菌根菌などの共生菌類,植物体上で常在的に生息する菌類,あるいは枯死茎上に腐生的に発生するキノコ類などを含めて記載した例はない。
 
 一方,生物生息環境(地球環境)の変化に伴う絶滅危惧生物種の激増により,近年生物多様性維持の観点から絶滅危惧生物種リスト(レッドデータブック)の整備が急がれている。また,産業未利用生物の洗い出しなどを目的とした生物種インベントリー(財産目録)作成が世界各国で急ピッチで進んでいる。わが国でも動植物ではこれらデータベースの整理が進み,国内各地域ごとに完成しつつあるが,糸状菌類,細菌類などの微生物では全く手が着けられていない。
 
 そこで本資料では,これまで日本国内で報告された野生植物寄生・共生・生息菌類を体系的に目録化し,菌類インベントリー作成の端緒とすることを目的とした。対象菌類はエンドファイトや菌根菌などの共生菌類を含めたわが国の野生植物上で発生が報告されている糸状菌類および細菌類とした(藻類寄生性菌類は除く)。対象寄主植物は野生草本類のみとし,日本植物病名目録で寄生菌類がよく整理されている樹木,木本性のつる植物およびタケ・ササ類は除いた。文献としては各種菌類目録,図鑑,原著論文等の他,農林水産省の微生物ジーンバンク事業による微生物遺伝資源配布目録も参考にした。
 
 なお,本稿の入力にあたり,インターネットで公開されていた三重大学生物資源学部のうどんこ病菌宿主範囲データベース(http://www.bio.mie-u.ac.jp/docs0/seisan/byori/)をダウンロードして利用した。また,文献情報を提供していただいた大畑貫一博士,名城大学稲垣公次教授,農業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター宮川久義博士に,さらにデータ入力をお手伝い頂いた鈴川亜由美,鍾 文金,石塚妙子の各氏に厚く御礼申し上げる。

T.凡例

1.この菌類目録には,わが国で報告された野生植物体内および体上で寄生・共生・生息する糸状菌種および細菌種を記載した。野生植物からは栽培植物,木本植物(樹木),つる性木本植物,タケ・ササ類および藻類を除外し,野生草本植物に限り菌種を記載した。

2.この菌類目録に収録した菌種は312属1302種(亜種等を含む),寄主植物は95科1626種(亜種等を含む)である。配列順序は宿主植物を自然分類により配列し(科以下は学名のアルファベット順),これに寄生する菌類を菌和名ないし学名のアルファベット順で配列した。

3.記載した菌種は,日本国内で現在までに発生が報告されているものを可能な限り網羅した。樺太,台湾,朝鮮半島,中国東北部など国外での記録は除外したが,採集地不明等により一部混在することもある。

4.各菌種については菌和名があるものはこれを記載し,加えて学名[異名(synonym)],発生植物和名,文献を記載した。また,必要に応じて各菌の学名についての疑義,中間寄主等を備考として記載した。文献は必ずしも初出文献を記載していないが,各菌種について十分な情報が得られるものを挙げている。

5.各菌種の学名は原則として小林ら(1992)によったが,以下に示す菌類の学名については一部下記の参考文献によった。

 クロボキン類:Vanky, K. (1994): European Smut Fungi, 570p., Gustav Fischer Verlag, NY
 分生子果不完全菌類:Sutton, B. C. (1980): The Coelomycetes, 696p., CMI, England
 糸状不完全菌類
  暗色線菌科:Ellis, M. B. (1971): Dematiaceous Hyphomycetes, 608p., CMI, England
          Ellis, M. B. (1976): More Dematiaceous Hyphomycetes, 507p., CMI, England
  Cercosporaとその類縁菌:Guo Y.-l. & Hsieh, W.-h. (1995): The Genus Pseudocercospora in China, Mycosystema monographicum series No. 2, 388p., IAP, China

6.各菌種が原著あるいは日本植物病名目録で,当該植物の病原菌として記載されている場合には,菌種名を「〜病菌 英名」とし,そうでない場合には「〜菌 (英名)」と記載した。

7.記載例

 キオン類 Senecio spp.         −−→寄主植物属和名,属学名
 ハンゴンソウ S. cannabifolius Less.     −−→寄主植物種和名,種学名
 サワオグルマ S. pierotii Miq.

 Albugo tragopogonis (Pers.) Gray(白さび症状) −−→菌種学名(寄生症状)
 [発生植物] サワオグルマ        −−→発生植物和名
 [文献] 伊藤, 147, 1936a          −−→文献著者名,記載ページ,発行年


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