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17.山形

果樹と水稲を基幹とした農業の新たな展開

 <1985年6月16日観測画像>

山形県は南北にやや長い「人の横顔(日本海をながめる)」のような形をしており,山形盆地はその耳下部に当り2,166平方キロの広さを有する。

東が蔵王をはじめとする奥羽山脈,西が月山,朝日,白鷹山系からなる出羽丘陵の間に広がる山形盆地には,西の吾妻山地に源を発する最上川が北に向って流れ日本海に注いでいる。山々のすそ野には蔵王,姥湯の硫酸泉と天童,上山,東根,赤湯などの食塩泉の良質の温泉が分布し,温泉場として500年ほどの歴史がある。

本盆地は,第四紀後半の数10万年間に特に激しく沈降したと言われており,現在も山辺町の須川沿いを中心に沈降を続けている。この中心に向って東側からは馬見ヶ崎川,立谷川,乱川,西側からは寒河江川,樽石川などの扇状地が発達しており,乱川扇状地は県内では最大規模である。

気候的には,夏は高温多湿で,地形的に南または北よりの風が吹きやすい。山脈を越えて吹きおろす南風はフェーン現象を引き起こし,昭和8年7月には40.8℃の異常高温を記録している。また,冬は県内でも比較的雪が少ない地域で,積雪が1メートルを越すことはほとんどないが,月山や朝日山地に近いところでは4〜6メートルにもなる。なお,年降水量は県内でも少なく,1,200〜1,400ミリ程度である。

土壌の母材は第三紀〜洪積世の半固結または非固結堆積岩である。盆地は周辺の山々から運ばれてきた土で埋め立てられたもので,特に盆地の中央部より西側で厚く最大500メートルに達する。耕地は42千ヘクタールで,その60%は低地の水田(画像の黒色部)として,残りは畑地で,主に果樹園として利用されている。

本盆地を生産・生活の場としている村山地域の農業粗生産額は1,185億円で,うち果実が34%,米が32%と,果実と米で全体の約70%を占めている。

果実では,山形特産のオウトウ,西洋ナシをはじめ,リンゴ,ブドウ,モモ等の高品質果実が生産されている。近年,オウトウでは,収穫期が6〜7月の梅雨期にあたり実割れして商品価値を失うこともあるため,雨よけハウス栽培が普及した。また,西洋ナシ(ラ・フランス)の生産が急速に伸びており,これを原料としたゼリー,ジュース,アイスクリームなどは消費者にも好まれるなど本県の新たな特産物として注目を集めている。

一方,米は全国に先駆けて開発した水稲生育診断予測技術の活用によりササニシキの高品位米が生産されてきているが,本年から農家の期待を担った新品種「山形45号」が本格的に作付けされるなど「多収穫」から「高品質・良食味」へと一層の転換が図られているところである。

農家数はどの地域とも同様に減少しつつあり,特に第一種兼業農家の減少が著しく専業農家と第二種兼業農家へと二極分化してきている。経営的にも果樹と水稲の複合経営が最も多く,高収益作物として果樹,野菜,花きの導入が積極的に進められている。このため,農業者の高齢化の進行と相まって,労働力の確保と果樹及び水稲等の省力栽培技術の開発がこれまで以上に強く求められている。

しかしながら,市街化や道路の建設により農地の農地外転用も年々増加しており,国民の食糧生産と環境保全に果たす農業の役割は,今後ますます重要になってくるものと思われる。

神保恵志郎(山形県立農業試験場)

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