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19.筑波(茨城)

21世紀を創造する茨城農業

 <1985年1月23日観測画像>

茨城県は関東平野の北東部に位置し,八溝山地などを除いて,ほぼ平坦である。年平均気温13゜C,年降水量1300〜1400ミリで,比較的温暖な地域といえる。総面積609千ヘクタールの内,耕地面積は204千ヘクタールあり,耕地率(33.5%)は全国一高い。そのうち水田は113千ヘクタール,畑は91千ヘクタールを占めている。本県は首都圏にありながら農業粗生産額が全国第2位の農業県である。

このような中で,茨城農業は新しい技術を取り入れた園芸や畜産などに意欲的に取り組む農家が各地に育ち,規模拡大による土地利用型農業の芽も育ちつつある。さらに,コシヒカリをはじめとして常陸牛,ローズポーク,常陸ソバなどの銘柄化が進んでいる。また,首都圏における人口の増加,カーフェリーや高速道路等の交通網の整備が進み,全国に向けての販売拡大の可能性がより一層高まっている。加えて,葯培養,組織培養による新品種の育成や優良種苗の供給,受精卵移植による優良牛の増殖普及などバイオテクノロジー等の高度技術の開発への取り組みや,農業技術情報センターの設置など,21世紀へ向けての新しい茨城農業の発展条件が整備されつつある。

この画像はランドサットが観測した茨城県筑波地域の冬の景観である。八溝山地が半島のように関東平野へ突き出し,その南端には筑波山(画像中央:標高876メートル)がある。筑波山の南東部には日本第二の大湖霞ヶ浦(湖面積220平方キロ)が横たわり,北西部には常総台地が広がっている。火山灰土壌で覆われたこの常総台地を開析しながら,鬼怒川,小貝川をはじめとする河川が利根川へと注いでいる。これら河川の流域には広大な沖積地(うす紫色)が展開し,水田農業の中心をなしている。ここでは基盤整備も進み,転作田の集団化,団地化が進められている。台地上の畑(褐色)はほぼ平坦で,省力栽培が可能な土地利用型作物と野菜がうまくローテーションして,連作障害の回避をはかりながら栽培が進められている。筑波山南西部には芝畑(白色)が広がっている。ここでの芝の生産量は全国の38%を占め,日本一を誇っている。また,筑波山山麓では地形の関係から,比高300メートル程の山腹で低地より2〜3℃高い気温逆転層がみられ,これを利用したミカン栽培も行われている。周辺ではクリ,日本ナシ,カキなどの果樹栽培が盛んで,観光農園として秋には賑わいをみせる。

この地域は首都圏への食糧供給基地として安定的な農業生産が期待されている。しかし,慢性的な水不足によりしばしば干ばつにみまわれる。そのため,8億トンもの水を湛える霞ヶ浦の水を利用し,常総台地を広範囲にわたって潅漑しようとする霞ヶ浦用水事業が行われている。この事業は霞ヶ浦の水をいったん筑波山へ押し上げ,自然流下によって31の市町村へ給水し,農業用水,都市用水として利用しようとする壮大な計画である。幹線水路はすべてパイプラインとし,その基幹水路は約53キロメートル,このうち14キロメートルが筑波山中腹を貫くトンネルにあたる。この用水事業(総延長560キロメートル)が完成すると22千ヘクタールにおよぶ広大な農地が潅漑されることになる。霞ヶ浦の汚濁が高度成長時代の落し子ならば現在行われているこの用水事業は,かつての白く大きい帆を張った帆引き舟の行きかう霞ヶ浦の景観を取り戻し,21世紀の茨城農業の幕開けとなることであろう。

筑波山の南には研究学園都市がある。茨城農業はここにある多くの研究機関と連携を密にしながら先端技術を取り入れ,実用化し,更なる発展をめざしている。

小川吉雄(茨城県農業総合センター)

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