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22.群馬

地域の特性を生かした都市近郊型農業

 <1984年10月26日観測画像>

画像は,群馬県中央部を北から南へ流れる利根川をとらえている。利根川は,いく筋もの河川を集めながら平野部に出て,関東平野を大きく東へ流れる。

利根川を挟んで,画像中央右に赤城山,左に榛名山があり,利根川と吾妻川の交わる北に子持山がある。赤城山は標高1,828メートル,榛名山は標高1,448メートルの火山で,山頂を中心に放射状に広がる谷が見える。赤城山頂には大沼,榛名山頂には榛名湖のカルデラ湖の水面が見える。この10月26日の画像で見ると,赤城の大沼を囲む外輪山は,クリ,コナラ,ミズナラ,シラカバなどの紅葉が進み,茶色に表示されている。その外側は,スギ,ヒノキ,クロマツの植林の濃い緑が,輪状に囲んでいる。更にその外側の北斜面から南東斜面まで農地が広がっている。

赤城山西北面の昭和村付近に赤茶色に見える扇型は,中山間地から高冷地にかけて広がる大規模畑作地帯である。傾斜は2〜7度,年平均気温9℃,年間降水量1,200ミリ程度で,雷雨性豪雨の常襲地帯である。ここでは露地栽培のレタス,ハクサイ,アスパラガス,ダイコン,キャベツ等の夏秋野菜とコンニャクの組み合わせによる経営が多く行われている。

コンニャクは,養蚕とともに中山間地帯の特性を生かした群馬の特産物である。県全体のコンニャクの栽培面積は6千ヘクタール,栽培農家7,057戸(1990年農林業センサス)であり,生産量58,700トン(平成2年度)は全国生産量の67.6%を占めている。品種構成は,在来種(4%),支那種(26%)に対して,群馬で育成された「はるなくろ(45%)」「あかぎおおだま(25%)」の割合が増加している。子持山の周囲,特に南東斜面の利根川と吾妻川に囲まれた地域や,沼田市付近の片品川周辺などは,画像中で赤城山西北面と同じように赤茶色に表示されている。この画像だけで,これらを10月末のコンニャク畑であると断定しきれないが,コンニャク栽培の盛んな地域とよく一致している。

薄緑色に表示されている赤城山の南西斜面では,冬春のホウレンソウ,南斜面では冬春のキュウリの生産が盛んである。その南には,濃い青色で表示される前橋の市街地があり,利根川を越えて南西に高崎市,広瀬川に沿って南東に伊勢崎市がある。画像からは,これらの市街地が道路に沿って伸び,互いに連結する神経細胞のように見える。その周辺の白っぽく見える部分は,ほぼ水田である。この平坦水田地域では,土地基盤の整備も進み,野菜,畜産に米麦を加えた生産性の高い都市近郊型農業が展開されている。「上州のからっ風」に象徴されるように,全国でも有数な日照時間の長さから,施設栽培や秋冬期の露地栽培による野菜の生産も増加している。栽培品目は,キュウリ,ホウレンソウ,トマト,ナスが主力で,ブロッコリー,ニラ,シュンギクの作付けも増加している。特にキュウリは,県全体で84,200トン(平成元年)で全国1位の生産量であり,その50.7%が京浜地区へ出荷されている。また,バラ,枝物などの花きの生産も伸びている。

利根川に沿って,赤城山西麓から前橋,高崎の間を通る関越自動車道が細く白っぽく見える。東京都内から1時間程度の距離と,スキー場,温泉等のリゾート地を背景に,沼田市周辺のリンゴ園,赤城山西麓のリンゴやイチゴ園,榛名山南東斜面のブドウ園などの観光農業も盛んである。更に,進みつつある新幹線や高速自動車道等の交通網の整備により,首都圏への生鮮食糧品の供給基地としての地位が高まっている。

角田稲良(群馬県教育センター)

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