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23.嬬恋(群馬)

リゾートとの共存をめざすキャベツ産地

 <1984年10月26日観測画像>

画像は,キャベツの出荷も終盤に入った10月の嬬恋村をとらえている。嬬恋村の耕地面積は3,970ヘクタール(1990年)で,そのうち3,820ヘクタール(96.2%)が畑地である。1戸当たりの耕地面積は3.79ヘクタールと極めて大きく,畑地としての基盤整備率も高い。1983年時点ですでに区画規模30アール以上の畑地が32.2%,幹線農道完備率が40.6%,畑かん施設完備率が27.8%である。

気候は,夏でも冷涼な高原気候で,内陸型のため日較差が大きいのが特徴である。乾燥気候であるため,クライモグラフに快適気象圏をあてはめると,軽井沢をしのぐ夏期リゾート地帯であることがわかる。年平均降水量はおよそ1,550ミリで,野菜作付期間である4〜10月に年間降水量の80%程度が期待される。

村の中央部を西から東へ貫流する吾妻川とこれに沿った国道144号線が走っている。村の集落は大部分がこの沿道に発達している。画像中央やや左下の田代湖周辺には,緑色の矩形で識別される無数のキャベツ畑が広がっている。

嬬恋村の今世紀の歴史は,キャベツとともに歩んだといえる。嬬恋キャベツの本格的栽培は,この付近の田代集落有志によるキャベツの共同植付けに始まる。その後,古くはベト病の蔓延,近年ではネコブ病,萎黄病などの病害や連作障害を幾度となく経験しながら,新しい農薬や土壌消毒技術の導入,種苗技術開発への投資と新品種の導入,さらには農地開発による増反地での大規模栽培など様々な栽培技術と経営基盤の近代化により難関を突破してきた。

この間,食生活の変化に伴う野菜需要の拡大や高度経済成長期下での大規模農地開発といった順風に乗り,1975年には村内のキャベツ栽培面積が2,000ヘクタールを超すに至った。群馬産夏秋キャベツの80〜90%が嬬恋産で占められており,核家族向けの小玉品種の導入など消費者嗜好への機敏な対応が効果を発揮し,京浜市場での出荷ピーク時占有率は80%に達することもある。

しかし,嬬恋キャベツ栽培も多くの解決すべき課題をかかえている。1970年代の造成農地へのキャベツ作付は,そもそもネコブ病からの脱却を目的とした輪換作付方式をねらいとしたものであったにもかかわらず,結果として一層キャベツ栽培への特化が進んだことは,PCNB剤の使用等による薬剤費の増加が生産経費を圧迫するなど所得率の低下を招いている。

かつて,大噴火(1783年)で多くの生命・財産を犠牲にした浅間山の北斜面に点在するゴルフ場や別荘地は,今日では嬬恋村の観光資源の豊かさを象徴している。「キャベツの嬬恋」で確立したネームバリューをそのまま「リゾート嬬恋」のイメージに展開していくことは充分可能である。村営スキー場の建設を契機に着々と進みつつある観光開発は,野菜主産地の農業労働力の冬期間雇用対策にとどまらず,大規模リゾート時代にあって,農業生産と余暇活用空間の新しい関係を模索していくに相違ない。

石田憲治(農業環境技術研究所)

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