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26.房総半島(千葉)

自然が育む南房総の農業

 <1985年1月23日観測画像>

画像は,千葉県の南の約3分の1を占める房総丘陵のほぼ全容を撮している。この地域は鴨川の背後から鋸山に連なる300メートル級の清澄山系を境にして,南の安房と北の上総に区分される。房総半島南端はオサムシやヒカゲチョウなどの動物固有種がみられるほか,多くの暖温帯性植物種や常緑果樹のビワやミカンの栽培東限ともなっていることから,房総半島の成立を含め生態学的に重要な位置を占めている。

冬に観測されたこの画像では,丘陵地帯は緑色の林野で広く占められている。低地は薄い白〜青茶色で示され,富津岬デルタ,鴨川地溝帯,館山の隆起海岸平野,及び丘陵を蛇行する河川の河岸段丘や海に面した段丘面に現れている。林地に虫食い状に点在する十数カ所の浅黄色はゴルフ場と山砂利採取場であり,開発の波の跡である。

この地域の植生の大部分はマテバシイ・タブ・コナラなどの照葉樹林であり,地質は第三系泥岩・砂岩の互層からなり,土壌は粘質〜重粘質である。

このため農業は,林野を含めた土地の有効利用と集約的な経営を余儀なくされるので,照葉樹林や水の利用技術の開発及び新作物の導入や地域特産作物の育成などに,他の地域では見られない先進性と工夫が見られる。

例えば,ビワは鋸山と館山のほぼ中間の富浦町を中心に202ヘクタール栽培されている。ビワは開花〜幼果期に寒害を受け易いので,「ビワ山」と言うように,冬に寒気が停滞しなくて防風効果が高いマテバシイに覆われた丘陵で栽培される。特に,標高50〜150メートルの15°以上の南西急斜面に段畑状に造成された通気・排水性の良いレキ質褐色森林土で高品質のビワが生産される。その林床には切り花用のハランが栽培される。ミカンはビワとほぼ同様な立地条件であるが,有効土層の深い褐色森林土がその栽培に適する。

無霜地帯である白浜を中心に,鋸山から鴨川にいたる海岸と照葉樹林に覆われた丘陵と海に面した段丘面には全国一のストックを始めカーネーション,キンセンカや,県花である「菜の花」など花きの栽培が盛んである。フラワーラインと呼ばれるとおり,1〜5月のポピーなどの露地花と紺碧の海とのコントラストは素晴らしい。

また,江戸時代に我が国で初めて「白牛酪農:今日のバター」が生産された「日本酪農の発祥の地」とされる嶺岡牧場は,鴨川地溝帯の南の緑濃い嶺岡山系にある。ここを中心に酪農が盛んとなり,北海道に次いで全国第2位の生産を誇る千葉県生乳の4分の1強の8.3万トンが安房で生産されている。

この地域は古くから「上総米」と呼ばれる良質米の産地である。これは,水源と耕地の開発が困難であった江戸時代に「上総の櫓堀」として有名な自噴井・深井戸堀技術を開発する一方で,川の蛇行を短絡させて旧河道を水田として開発する「川回し新田開発」によるものである。両者は現在でも利用されており,地下水を掛け流してハウス栽培する花キの「君津のカラー」は品質が良く,市場価値が高い。

大多喜を中心とする夷隅地域は樹木・林業との係わりが特に深く,山取りのサカキ,自然芋,筍,椎茸の栽培が盛んである。近年の自然指向に呼応し,レンゲの里,ハーブ・香草の里として,特に後者は全国一の産地となっている。

渡辺春朗(千葉県農業試験場)

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