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29.新潟平野

巨大なシステムが支える水田単作地帯

 <1985年6月16日観測画像>

新潟県の気候は日本海岸型で,冬季は日本海側特有の強い季節風によって,山間地帯は豪雪に見舞われる。年間降水量は1,500〜3,000ミリと地域差が大きいが,これは冬季の降雪量の差に起因する。最寒月の平均気温は平野部では0℃前後であり,湿った重い雪が降るのが特徴である。一方,夏季は高温多湿で蒸し暑く,しばしばフェーン現象が起こり,日照時間も冬季に比べ豊富となる。また秋は長雨に襲われることが多く,作物栽培上の制約になっている。

排水不良や根雪期間が長いことから,麦類の雪ぐされ病が起こりやすいため二毛作が困難で,豊富な水資源と夏の高温を生かした米作りが昔から農業の中心となってきた。新潟県の水稲作付面積は141,500ヘクタール(1987年)で,そのうち「コシヒカリ」が45.2%を占める。1987年には,米の総収穫量が769,800トンになり,北海道を抜いて全国第1位となった。

このように水稲栽培の依存度が高い農業を行っているが,水田の基盤整備は立ち遅れている。大型・中型の機械化体系が可能な区画整備がなされた面積は31.1%にとどまっている。また湿田が多いことも悩みの種で,暗渠排水工事が続けられている。

さて画像は,水田単作地帯である越後平野と,背後の丘陵地および山地地域の6月中旬の様子を示している。山地のうち黄色く見える部分は広葉樹林,濃い緑の部分は針葉樹林であろう。広大な越後平野の中に市街地が(紫色の部分)点在する。そして平野のほとんどを占める黄緑色の部分が水田である。海岸付近には砂丘地が多く,新潟市の南西方向,海岸線が大きくカーブする辺りには,飛砂を防ぐために植林された松林が細く緑色の線を描いている。その内側にチューリップ,スイカ,近郊野菜等の砂丘地農業地帯が白っぽく見えている。

長岡市の西を北上する信濃川が右に曲る付近から分流して直接日本海に注ぐ大河津分水路,三条市付近で分流する中之口川と海岸丘陵に囲まれた地域が西蒲原地区である。この地区の用水は大河津分水付近から北上する西川を中心に張りめぐらされ,ここの稲作を支えている巨大な排水システムである。同地区の中央やや北寄りに見られる新川の河口に設けられた排水機場を核に,鎧潟を干拓してできた水田をはじめゼロメートル地帯の排水をするポンプ場を集中管理するシステムが設けられている。新潟市の南の亀田郷,信濃川と中之口川に挟まれた白根郷とともに,この地区はかつては胸までつかって田植をしたほどの湿田であった。収穫はすべて田舟を利用したのである。現在では地区の中央を新幹線が走り,代かき時には巨大な湖が出現したかのように見えるこの地区も,信濃川沿いに黄色のやや強い帯状の果樹地帯が成立する等,用排水の制御の成功の上に農業が成立している。

以上のように,コシヒカリを中心にして日本の米どころとしての地位は揺ぎがたいが,近年の農業をめぐる情勢は内外ともに厳しい。そのため水田単作型の農業から園芸作物の産地体制の整備等,複合型経営への体質改善を推進している。しかしながら現時点では,水稲単一栽培で適度な所得が得られること,農家の経営体制や農業従事者の年齢構成等が複合化に即応できないことから,その実現が難しいのが現状である。

秋山 侃(農業環境技術研究所
冨士田裕子(北海道大学農学部)

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