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43.紀北・紀中(和歌山)

果樹農業を育む紀の国の自然

 <1984年9月6日観測画像>

紀伊半島の西南部に位置する和歌山県は,古くから紀(木)の国と呼ばれるように海と山が主体をなし,600キロメートルをこえる海岸線に囲まれ,県土の77%が山地で占められている。和歌山県の耕地面積(平成3年)は40.6千ヘクタールで,そのうち樹園地が23.5千ヘクタール,水田が14.3千ヘクタール,普通畑が2.7千ヘクタールである。温暖な気候と豊富な水資源が傾斜地におけるミカンをはじめとする果樹農業や暖地園芸を育んできた。

農業粗生産額(平成3年)の60.1%が,ミカンをはじめとする果実類で占められ,果実粗生産額ならびに果樹比率の高さは全国一である。生産額上位5品目(平成3年)をみると,ミカン(27.7%),ウメ(8.7%),カキ(7.1%),米(7.1%),ハッサク(6.3%)となっており,傾斜地における集約型農業の姿がうかがい知れる。そのため,野菜は15.2%で,米にあっては大半は県外からの移入に頼っている。

果実生産量の全国シェア(平成元年度)も,カキ,ウメ,ハッサク,ネーブルオレンジが全国第1位,温州ミカン,イヨカン,スモモ,キウイフルーツが第2位,ナツミカンが第4位,モモが第5位などであり,本県農業の顔になっている。

画像は和歌山県北中部を上空から眺めたものである。北は大阪府と県境をなしている和泉山脈から,南は日高川河口部の御坊市まで,右側の大部分は紀伊山地である。

海岸線には天然の良港と言われる下津港や,御坊市の西には石灰質の白崎海岸などがリアス式風景を彩っている。日高川河口の砂浜には,徳川時代に植樹された松の防潮林が濃い緑色で確認することができる。

紀伊山地は谷が深く急峻な地形が多く,傾斜40度以上の山地が52%にも及び,中部山岳地帯にも劣らぬ険しさがうかがわれる。その谷間を複雑に蛇行しながら太平洋に向かう日高川の流れが特徴的である。

紀ノ川の中流域以西には平野部がひらけ,河口近くの海岸線に和歌山市が位置し,和泉山脈の南麓を東西に活断層である中央構造線が走行している。また,紀ノ川上流から紀伊山地に目を向けると,山上の霊地,弘法大師によって開かれた霊峰高野山の門前町が紫色でみることができる。その高野の町並みのやや左から,南西方向にひときわ緑色の深い渓谷に沿って,西に有田川方向に向かう御荷鉾線がはっきりととらえることができる。その御荷鉾線のやや南を南西方向に,入り乱れた断層が存在する。

断層は地質を区分しており,変成岩や古生層,中生層が帯状に配列されている。地質の違いが気象環境の違いとあいまって,地域ごとに特徴のある産地を形成している。大きく分けると紀北地方,有田地方,日高地方である。紀北地方はカキ,モモを中心とした落葉果樹地帯,有田地方は温州ミカンを中心とする柑橘地帯,日高地方は野菜と中晩柑を主体とした産地である。

和歌山県の農業は,今後も,関西の大消費地京阪神に近いという地の利を生かし,適地適作によって鮮度や品質の高い農産物生産を行う生鮮農産物の生産基地として,付加価値の高い技術集約型農業の展開を図っていくことが重要であろう。

中尾進哉(和歌山県果樹園芸試験場)

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