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45.隠岐(島根)

高齢者が支える隠岐の農業

 <1984年5月8日観測画像>

隠岐は島根半島の沖,44キロメートルから80キロメートルにかけて散在する群島である。画像で見るとおり,大きな4つの島と多数の小さな島からなっている。島の総数は,正確には数えられない。島の人に聞いても,「小さな島とするか岩とするか,満潮時と干潮時でもずいぶん違うんです」と,困惑げな答えが返ってくる。行政機関の資料には180余の小島からなると記されている。

隠岐の総面積348平方キロのうち耕地は約5%,林野は約83%である。東側の島後(どうご)と呼ぶ大きな島も,西側の三つの島を中心とする島前(どうぜん)も,広く森林におおわれていて水田や畑とみられる箇所は少ない。まとまった水田は,島後の「西郷」周辺や中ノ島の中央の入り江の周辺にみられるだけで,そのほかは規模が小さい。まとまった畑となると,島後の中北部の高台に開拓地がようやく認められる程度である。耕地面積は昭和45年に2,300ヘクタール程度あったものが,近年では1,600ヘクタールにまで減少している。ところで,隠岐の農業は古来から「牧畑(まきはた)」と呼ばれるシステムを持っていた。牛馬の放牧とムギ,マメ,ヒエ,アワなどを輪換利用する農業である。今では,段々畑にスギやクロマツが繁る牧畑の跡,西ノ島と知夫里島で盛んな牧畜などにその面影をしのぶのみである。放牧地は画像上でも見ることができる。

さて,第一次産業といえども化石エネルギーに大きく依存しているのが現代の特徴である。隠岐の生業の主体は漁業であると言われるように,電力や石油類の直接エネルギー需要量をみると,漁業が島内全需要エネルギーの37%に対し,農業はわずかに1.5%を使っているに過ぎない。また,第一次産業での産業別生産額割合は漁業の59%に対し農業は約10%を占めるだけである。しかし,15才以上の産業別就業者数は漁業の12%に対し農業は18%と上回っている。

農業生産に要するエネルギーは上記のほかに機械,肥料,農薬などの間接エネルギーをも含めて考える必要がある。隠岐を秋に歩くと,水田にはハサ掛けがずらりとつづく。いつに限らず大型農機具をみかけることは少ない。農業機械の近年の増加が著しかったとはいえ,機械の主体は耕うん機,防除機,田植機,バインダーであり,自脱型コンバインはきわめて少ない。

しかし,これらのことはエネルギー需要量が少ないことを意味しない。農耕地単位面積当りエネルギー投入量を調べてみると約53ギガジュール/ヘクタールとなり,全国平均の191%に相当する。しかしながら,農家1戸当り投入量は約30ギガジュール/戸で,全国平均の92%である。これは,1戸当り耕地面積が平均60アール弱と狭小であることと,60才以上の高齢者の農業労働力に占める割合が高い(40%;島根県平均は31%)ことなどが相まっての結果であろうと考えられる。すなわち,狭い農地をお年寄りでも操作できる機械などを使用しつつ生産をあげようと努力している姿と解釈することができる。

袴田共之(農業環境技術研究所)

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