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56.長崎

気候・地形・土壌を生かした長崎県の農林業

 <1986年5月12日観測画像>

長崎県は九州北西端に位置し,いくつかの半島と五島列島,壱岐,対馬などの島々からなる。西海岸や島嶼の海岸線は侵食された谷が沈水したため複雑で,その長さは4,165キロメートルにも達し,北海道についで全国第2位である。

気候は,対馬海流の影響を受け温暖多雨であり,年平均気温16.6℃,年降水量2,002ミリで沿岸部の多くは無霜地帯である。県の総面積は4,088平方キロで,うち森林2,420平方キロ,水田282平方キロ,普通畑236平方キロ,樹園地123平方キロである。地形は大部分が山地や台地,丘陵地で平野はきわめて狭い。このため,農耕地は干拓地を除いて,緩,急斜面に分布している。土壌は,腐植の少ない重粘ち密な赤黄色土が耕地の約80%を占める。生産量全国1位のビワをはじめ,バレイショ,ニンジン,ミカン等の園芸作物の生産が盛んで,昭和62年度から「園芸1,000億」の目標が掲げられている。畜産の振興も図られており,昭和58年度から西彼,下五島に酪農,肉用牛の畜産基地が建設されている。また,林業でも「長崎ヒノキ」の銘柄づくりに力を入れている。

さて,画像は本県の主要な畑作農業地帯である多良岳,島原半島,長崎,野母半島の3地域に西彼杵半島の一部を撮している。

画像中央左の多良岳は東の有明海,西の大村湾,南の橘湾に向って放射状に山麓を広げている。この地域の表層地質は,タマネギ状の腐り礫を呈する安山岩質凝灰角礫岩および泥流堆積物からなる。作物は,干拓地や狭小な平野部では水稲,ムギが主体であり,山麓斜面の強粘質赤黄色土地帯ではニンジン,バレイショ,ショウガなどの根菜類が多く栽培されている。

島原半島は,雲仙岳から有明海,橘湾に放射状に広がる山麓や洪積台地から構成されている。平成3年に爆発した雲仙岳周辺の様子は現在ではずいぶん変化している。この地域の表層地質は,大部分が安山岩質凝灰角礫岩からなり,北部,東部では火山灰が覆っている。耕地は畑作主体(畑作率66%)で,生産性が高く県内屈指の農業地帯となっている。農業粗生産額は県全体の31%(平成元年)を占める。強粘質赤黄色土地帯ではバレイショなどの根菜類が主体をなすが,軽鬆な黒ボク土地帯では葉菜,茎菜,果菜,長根菜の多種多様な野菜類の露地,施設での栽培をはじめ,花き栽培,酪農,養鶏も盛んである。

長崎,野母半島および西彼杵半島は,起伏の多い山地と台地によって構成されている。表層地質は,長崎地区は安山岩,野母,西彼杵半島地区は結晶片岩からなっている。地形に加えて都市化の影響を強く受け,耕地面積は小さい。作物は,野母地区ではビワをはじめ近郊野菜類や花き,花木類が,長崎地区ではミカンを中心に各種施設野菜類が,西彼杵半島地区では柑橘類の栽培や養豚等の畜産を中心に露地野菜類や花き,花木類が栽培されている。

なお,長崎県は美しい海と山につつまれた観光県であり,島原半島には小浜や雲仙の温泉地を有する雲仙国立公園が,長崎市にはグラバー邸をはじめとする多くの史跡名所が,西彼杵半島にはオランダ村やバイオパークなどの遊園地があり,一年中観光客の目を楽しませてくれるはずである。

中島征志郎(長崎県庁)

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