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57.熊本・阿蘇(熊本)

熊本平野の畑作地帯と阿蘇山の肉牛生産地帯

 <1984年10月22日観測画像>

この画像は,熊本平野から阿蘇山にかけての農業地帯の「実りの秋」を撮し出している。上部には阿蘇高岳(1592メートル)を最高峰とする阿蘇山塊が峰を連ね,これを外輪山が大きく取り囲んでいる。上端は熊本−大分の県境付近まで含まれているが,左上部分の先端は,紫色に見え隠れした点線(やまなみハイウェー)によって,大分県の久住高原へと導かれる。阿蘇・久住の高原は日本の肉牛生産地帯として有名であるが,県境をはさんで阿蘇側では肥後赤牛(褐毛和種)が,久住高原側では豊後黒牛(黒毛和種)が放牧されている。

さて,阿蘇山の火口周辺は溶岩に覆れ,濃紫色に見えている。この色はまた市街地のコンクリートジャングル(例えば熊本市中心部を参照)ともよく似た反射をしているため,しばしば誤判読の原因となり解析する者を悩ませる。阿蘇山の阿の字のすぐ左には白い噴煙が見えている。その左側にしゃれこうべのように見える部分が,観光地として有名な草千里のシバ原である。阿蘇外輪山の内側には二つの谷が含まれ,灰色がかった水色の水田が広がっている。北側が阿蘇谷,南側が南郷谷である。この時期,どちらの谷も稲の収穫はすでに終わっているが,阿蘇谷の水田は基盤整備が済み,碁盤の目のような農道が東西南北に走っているのに対し,未整備の南郷谷では小さな水田が思い思いの方向に散在している。

草地は黄緑色部分で,主として標高1000メートル以下の外輪山の北斜面や,内輪山の南斜面を覆っている。ここの草地はネザサ・ススキを主体とする野草地と,オーチャードグラス,トールフェスクなど導入草種による牧草地とに分けられる。そして野草は年に一度晩秋に刈り取り,冬期間の飼料として蓄えられる。この時の作業歌が有名な刈干し切り歌である。一方,牧草地には牛を放牧するため,水飲み場や集合場所に蹄傷による裸地が生じやすく,そこからしばしば雑草が侵入する。近年,阿蘇の牧草地には強害雑草のチカラシバが蔓延し,そのため草地の更新に追い込まれた農家もあると聞く。

さて,この画像では,野草地は阿蘇山周辺の光沢のある黄緑色の部分であり,牧草地はやや落ち着いた黄緑色に見えている。そして放牧している牧草地の谷沿いには,線状に赤いスポットが認められる。これは多くの場合,草地内に生じた裸地であると同時に,チカラシバの侵入地点でもある。ただし,かなり大きな面的広がりをもった赤色部分は,牧草地を耕起し,高原野菜としてダイコンを栽培しているところと思われる。

次に画像下側に目を移すと,熊本市の北東の台地に畑作地帯が展開している。赤と緑のモザイクになっている部分である。赤い部分はすでに夏作物を収穫したあとの畑であろう。西合志町の文字の下に赤い大きな区画が見えているが,このあたりは農林水産省の九州農業試験場や,熊本県の畜産試験場の試験圃場であろう。

熊本市と西合志町の東側に熊本空港の長い滑走路が見えている。空港のすぐ西側の緑の山の中に,アメリカシロヒトリの巣のようなものが見えるのはゴルフコースである。そして,空港に接した東端に東海大学の宇宙情報センターが1986年11月に開設され,ノア,ひまわり,ももなどの衛星データを日夜受信しているが,この画像が撮られた1984年10月の時点では畑以外まだ何も見えない。

秋山 侃(農業環境技術研究所)

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