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60.薩摩(鹿児島)

暖地と畑作農業

 <1984年10月22日観測画像>

画像は10月22日に観測したもので,薩摩半島と大隅半島の一部をとらえている。左上部に蛇行する河川が,宮崎県に源を発する川内川である。そして,湾奥に流入する天降川と別府川,半島の尾根から東シナ海に流れる万之瀬川が代表的河川である。水田はこの流域と支流域,また,シラス台地を侵食してできた中小河川沿いに分布する。画像の灰緑色に見える帯状のものがそれである。残る部分が山林と畑地である。鹿児島県の耕地面積は143千ヘクタールであり,その内96千ヘクタールが畑地で,畑地率は67%(全国2位)と高い。画像から,鹿児島県でいかに畑地を中心とした農業が営まれているか再認識する。

鹿児島県の畑作を代表する地域が,薩摩半島南部に広がる南薩畑作地帯である。この画像では,枕崎から指宿にかけ黄緑色に見える部分である。この地域は,開聞岳と大野岳が独立してそびえ,その背後に400〜500メートルの山が南北に連なっている。この山岳の南および西斜面の山間台地から海岸線に向け,緩やかに傾斜した畑地帯が形成されている。この地帯は耕作面積9千ヘクタール,畑地率87%とまさしく畑作地帯と言える。土壌はシラスに覆われ,開聞岳から噴出したコラが分布している。昭和44年から始まった畑地帯総合土地改良事業により区画整理,農道整備,ならびに池田湖の湖水を利用した6千ヘクタールの大規模畑地かんがい施設の整備がすすめられた。現在では不良土壌で干害を受けやすいマイナス要因も解決でき,近代的農業を営むにふさわしい畑作台地になっている。

また,この地域は黒潮の影響を受け年平均気温18℃と高く,茶,カンショ,加工用ダイコン,タバコの栽培が行われ,茶の栽培面積は2.5千ヘクタールにも及び,走り新茶としてその産地を形成している。この地域一帯のカンショに数年前,ウイルスが原因の帯状粗皮症が発生し,イモの外観が悪く,収量は激減し大打撃を受けた。しかし茎頂培養法でウイルスフリー苗の養成に成功し,現在では高品質カンショの生産が行われている。

この画像でところどころに赤褐色の小さい点が見えるがカンショ収穫後の裸地と思われる。また開聞町,山川町の海岸沿いは無霜地帯で,本土で春の訪れが最も早い地帯である。この気象特性を活してキンギョソウの早出し露地栽培をはじめ種々の切花が栽培されている。

画像左に大きく孤を描くのは,日本三大砂丘の一つ吹上浜である。ここは,半島の尾根から流出したシラスを東シナ海から吹上げる季節風により堆積させた砂丘地である。この一帯は品質の良いラッキョウの産地となっている。また盆前出荷ができる早期水稲早場米地帯である。

火山が産んだ畑地,黒潮が運ぶ温暖な気候と豊富な水,これがまさしく薩摩の農業である。

榎木昭人(鹿児島県立市来農芸高等学校)

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