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61.沖縄本島

沖縄農業と土砂流出防止

 <1988年4月15日観測画像>

沖縄県は,わが国で唯一県全体が亜熱帯に属する。エメラルドグリーンに輝くサンゴ礁に囲まれた島しょが多く,0.01平方キロ以上の島160(有人島40)からなっている。年降水量は約2,100ミリで全国でも多い方であるが,季節的な格差が大きい。冬や春に降水日数が多いが雨量は少なく,夏や秋は梅雨や台風による集中的な降雨のため雨量が多いのが特徴である。しかし,台風の無い時は干ばつの被害も大きく,沖縄の水資源は不安定である。

沖縄県の経営耕地面積は約47千ヘクタールで,県総面積(2,264平方キロ)の20.7%である。第3次産業の比率が高いため,県生産総額にしめる農業総生産額の割合は2.8%である。農業は,サトウキビとパイナップルに依存してきたが,近年野菜,花卉の生産も増えている。

さて,画像は沖縄県の主島である沖縄島(本島)の8割,糸満市から東村までをとらえている。沖縄本島は恩納村,金武町以北を北部地域,以南を中南部地域と慣例的に区分しているが,この二つの地域は写真でも対照的である。北部地域では緑の暖帯林に覆われた国頭の山地が展開し,一方,中南部地域では那覇市を中心として人口の都市集中が激しく市街地が多い。

中南部地域では県面積の20%の土地に80%の人口が集中している。このような極端な人口の都市集中は第2次大戦時の沖縄戦とそれに続く占領と軍事基地化がもたらしたものであるが,この地域は沖縄では最も肥沃な土地で高い生産力に支えられて歴史的に人口の多かった地域でもある。

沖縄の耕地土壌は暗赤色土(島尻マージ),赤色土および黄色土(国頭マージ),灰色台地土(ジャーガル)などである。島尻マージは琉球石灰岩上に分布するもので,土層が浅く,腐植が少く,保水性が悪い。国頭マージは粘板岩,千枚岩,洪積層などから生成し,腐植や養分に乏しく,酸性のため分散しやすく,また心土は緊密である。ジャーガルは石灰質の泥岩を母材とし,腐植少く,強粘質で,透水性が悪く,耕耘が困難である。これらの土壌のうち,中南部地域には,主として島尻マージとジャーガルが分布し,ジャーガルはこの地域のサトウキビの収量が高いことから沖縄の中では肥沃な土壌と見なされている。

北部地域の国頭山地は,地形が急で谷密度が高く,河川は急勾配で短い。また土壌は国頭マージを主とし侵食を受けやすい土地条件下にある。この地域での土砂流出の顕在化は,1950年代後半からのパイナップルの好景気に支えられた耕地造成に始まるとされる。国頭山地でのパイナップル畑造成は農家の経営集中化にも役立った反面,近年の大規模な耕地造成や各種開発行為は,土砂流出による河川や浅海域の汚染・汚濁を招き,サンゴ礁の破壊やモズク養殖業への被害が沿岸漁業や観光需要の面から社会問題になっている。

このため,農業的土地利用地域における土砂流出防止対策技術の確立が緊急かつ重要な課題になっている。沖縄県は,このほど昭和54年に制定された土砂流出防止対策方針を現状に合うよう大幅に見直した。見直し案では,従来の対策に加えて,基盤整備事業の中で@自然林帯を計画段階から残すよう配慮するA大雨洪水注意報などが発せられた段階で土木工事を中止するなどの対策が盛り込まれている。また,農業試験場でも試験・研究を進めて土砂流出防止対策に寄与しようとしている。

福原道一(農業環境技術研究所)

喜名景秀(沖縄県農業試験場)

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