独立行政法人農業環境技術研究所 平成19年度計画

第1 業務運営の効率化に関する目標を達成するためとるべき措置

1.評価・点検の実施と反映

(1) 研究の推進方策・計画、進捗状況及び成果を的確に把握するとともに、それらを評価するため、全小課題を対象に研究所内部で検討を行う。このため、「設計検討会」、「リサーチプロジェクト(RP)成績検討会」及び「課題評価会議」を開催する。「課題評価会議」においては、外部評価委員の意見をもとに、年度計画の達成状況を点検し、次年度計画の展開に向けた評価を実施する。これらの会議を踏まえて、論文等の研究成果発表を積極的に行うよう指導していく。また、課題評価結果を運営費交付金による資源配分に反映させる。さらに、研究所の業務運営、研究推進方策、研究資源配分及び研究計画・成果について評価・点検を受けるため、外部専門家・有識者で構成される「評議会」を4月に開催する。また、その結果をウェブサイト等で公開する。

(2) 課題評価会議における小課題の評価・点検については、「課題の達成度」、「知的財産権の数」、「論文の数」等の具体的な定量的指標を設定して取り組む。また、研究予算や研究エフォート等の研究資源の投入に対する特許の出願や原著論文の数等の成果について分析を行い、課題評価の対象とする。さらに、普及に移しうる成果については、フォローアップ調査を実施する。

(3) 「RP成績検討会」における点検結果及び「課題評価会議」、「評議会」「独立行政法人評価委員会」の評価結果については、基本的考え方や対応方針等を明確にした上で、研究所の運営改善、調査・研究の効率化・重点化及び研究資源の配分等に反映させる。

(4) 研究職員等の研究の活性化及び資質向上を図るため、昨年度から見直しをおこなっている「業績評価規程」及び「業績評価審査実施要領」を改正し、新たな評価システムのもとで研究管理職員と研究職員の業績評価を行う。また、既に研究管理職員に実施している研究業績評価結果の処遇への反映については、新たな研究業績評価システムを確立した上で、研究職員への適用を検討する。一般職員等の評価については、人事評価に係る検討課題を実証的に確認し、今後の作業の参考資料を得るとともに、職員の人事評価に対する意識啓発を図り、新たな人事評価制度に対する認識を高めるため、試行の結果を踏まえつつさらに実情に即した評価となるよう改善を行う。

2.研究資源の効率的利用及び充実・高度化

(1)研究資金

(1) 運営費交付金一般研究費のRPへの配分において、平成18年度の課題評価会議の評価結果を反映させる。また、RPリーダーからの申請をもとにヒアリング・審査を行い、小課題強化費として小課題への重点配分を行う。また、法人プロジェクト経費等を利用し、競争的環境を醸成するとともに、効率的・効果的な研究の推進を図る。

(2) 農林水産省、環境省及び文部科学省等の政策上の重要課題として受託するプロジェクト研究や調査等については研究所のミッションに基づいて重点的に実施する。

(3) 外部資金獲得の一環として、科学技術振興調整費等の競争的資金やその他の公募型研究資金に積極的に応募する。その際、領域長・センター長及び「予算管理・運営委員会」が応募研究計画のブラッシュアップを行う。

(2)研究施設・設備

高額機器については、昨年度行った調査結果に基づき、保守費の見直しを行うとともに、不用となった機械については廃棄する。また、高額機器や施設の使用に当たって、技術講習や共同研究等の制度で外部の研究者が利用可能な機器については、ウェブサイトを介して広く公開し、有効利用を図る。また、高額機器の購入については、中期計画における必要性等を考慮して、「予算管理・運営委員会」で計画的な導入を図る。

(3)組織

平成18年度に設置した「研究領域」及び「研究センター」を研究基本組織として、「リサーチプロジェクト」において小課題の進行管理を推進する。研究領域・センターとリサーチプロジェクトの連携により、効率的・効果的に中期計画を推進する。また、研究全体を掌握する「研究統括主幹」及び「研究コーディネータ」により、重要研究課題の推進、国際交流、連携促進及び広報等の業務を推進する。

(4)職員の資質向上と人材育成

(1) 「人材育成プログラム−人材開発の基本方針−」に基づき、研究者及び研究支援者の効果的な育成と、変化に対応出来る能力の向上を図るため、研修や指導・教育による人材育成を図るとともに、職員各自が自律的キャリア形成に取り組むよう支援する。

(2) 競争的・協調的環境の醸成のため、新しい業績評価システムを策定して効果的にインセンティブを付与する。また、農林水産省、農林水産省所管の独立行政法人、地方公共団体及び大学とは制度を整備した上で人事交流を図る。

(3) 「人材育成プログラム−人材開発の基本方針−」に定める若手研究者の育成プログラムに基づいて、計画的な人材育成を図る。また、学位の取得を奨励し、研究管理職員がそのために適切な指導を行う。また、国際研究集会及び国際機関への派遣、日本学術振興会やOECD(経済協力開発機構)等の研究者交流制度への積極的な応募及び研究推進費の留学対応経費の活用等により、若手研究者の国際経験の蓄積を図る。

(4) 多様なニーズに対応した研究推進及び研究経営の能力の高い研究管理職員を養成するため、研究マネージメント等の研修に研究管理職員を参加させる。

(5) 一般職員及び技術専門職員が高度な専門技術・知識を要する業務を行うために必要な資格や能力を獲得するため、簿記検定や衛生管理者資格取得等の研修及び「車両系建設機械運転技能講習」等の各種作業従事者教育に積極的に参加させ、資格取得を支援する。

3.研究支援部門の効率化及び充実・高度化

(1) 「業務効率化推進委員会」において、引き続き総務部門の業務内容の見直しを行い、効率的な実施体制を確保するとともに、事務処理の迅速化、簡素化、文書資料の電子媒体化による情報の伝達、共有等を進め管理事務業務の効率化を図る。

(2) 技術専門職の業務については、組換え作物の栽培試験、ビオトープ管理及び環境資源試料の採取等高度な専門技術・知識を要する分野に重点化するとともに、平成18年度に導入した研究領域に対応したグループ制の活用により業務の効率化、充実・強化を図る。

(3) 研究本館・実験棟の施設・設備の運転保守管理、アイソトープ施設等の保守管理業務等については、効率化の観点から引き続き業務を外部委託する。また、精密機器類の保守管理については、引き続き保守契約等の見直しを行い、保守管理費の削減を図る。

(4) 「業務効率化推進委員会」において、引き続き常勤職員が担うべき業務、契約職員が担う方が効率的な業務及びアウトソーシングすべき業務を整理して具体的計画を策定し、その計画に沿った研究支援部門の要員の合理化に努める。

(5) 所内グループウェアの機能を強化して研究所の情報共有の促進と運営・管理業務の効率化を図るとともに、農林水産省研究ネットワーク(MAFFIN)等のインターネットサービスシステムを活用して農業環境研究情報の収集・提供業務の効率化、充実・強化を図る。

4.産学官連携、協力の促進・強化

(1) 農林水産省所管の独立行政法人とは、「農林水産省所管の農林水産業に関する試験研究を主たる業務とする独立行政法人間で実施する研究協力に関する協約書」に基づき、研究者の交流を含めた円滑な研究協力を推進する。また、その他の独立行政法人、国公立試験研究機関、大学及び民間等とは、技術講習や依頼研究員制度を活用した研究者の交流を図るとともに、共同研究を積極的に進める。

(2) 年度末に農業環境研究連携推進会議を開催し、農林水産省所管の独立行政法人、行政部局、公立試験研究機関及びNPO等の参加を求め、情報の交換を図るとともに、連携・協力を積極的に行う。また、農業・林業・水産業の環境に関する研究所(農業環境技術研究所・森林総合研究所・水産総合研究センター)の間で設立した「三所連絡会」を開催し、相互に情報を交換・共有した上で農・林・水の分野で一体的な環境研究の推進を図る。さらに、農林水産省、環境省、文部科学省及び経済産業省等の環境関係の研究機関で結成している「環境研究機関連絡会」を開催して、相互の連携・協力を推進する。

(3) 東京大学大学院との連携講座及び筑波大学等との連携大学院についての協力協定に基づき教授等を選任するとともに大学院生を受け入れて、教育・研究交流を発展させる。また、教育・研究に関する協定書を結んでいる東京農業大学、東京工業大学及び鯉渕学園に客員教員や客員研究員を派遣するとともに、大学院生や学生を受け入れ、連携を強化する。平成18年度共同研究覚書(MOU)を締結した豊橋技術科学大学とは、共同研究を実施する。

(4) 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構が行う多様な専門知識を融合した総合的な研究に必要に応じて協力する。また、独立行政法人国際農林水産業研究センターが実施する国際共同研究「中国食料の生産と市場の変動に対応する安定供給システムの研究」等に協力する。

5.海外機関及び国際機関等との連携の促進・強化

(1) 平成18年12月に開催したNIAES国際シンポジウムにおいて設立した「農業環境研究の国際協力に向けた国際コンソーシアム(The Monsoon Asia Agro-Environmental Research Consortium、略称MARCO)」を推進するため、ホームページを立ち上げるとともに、MARCO参画研究機関から研究者を招へいするなど、連携の強化を図る。

(2) 共同研究覚書(MOU)を締結したボン大学、韓国農村振興庁農業科学技術院、中国科学院南京土壌研究所、ニュージーランド・ランドケアリサーチリミテッドとのこれまでの研究協力を発展、継続させる。ワーヘニンゲンUR(Wageningen University and Research Center)等欧米の関係研究機関との共同研究の企画や情報交換を図る。

(3) 日本学術振興会やOECD国際共同研究プログラム、及び運営費交付金の研究推進費の留学対応経費等による若手研究者の海外交流制度を活用するとともに、国際会議の企画・立案等の経験により、国際的に活躍する人材を養成する。また、日本学術振興会の「外国人招へい研究者制度」や受託プロジェクト研究費の外国人招へい経費等を活用して、国際的な人的交流を促進する。

第2 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成するためとるべき措置

1.試験及び研究並びに調査

A 農業環境のリスクの評価及び管理技術の開発

1)農業生態系における有害化学物質のリスク管理技術の開発

(1)農業環境中における有害化学物質のリスク評価手法及びリスク管理技術の開発

(1) 農業環境における残留性有機汚染物質(POPs)等による汚染リスクを低減するため、環境リスク評価手法については、農薬等極性物質の地球規模での挙動の評価を可能とするマルチメディアモデルを作成するとともに、コガタシマトビケラを指標生物とする河川生態系への農薬の影響評価マニュアルを作成する。また、リスク低減技術については、有機塩素系農薬実汚染土壌における複合分解菌集積資材の性能評価、ファイトレメディエーションによるキュウリのディルドリン汚染低減効果の検証、及び吸着剤等の化学資材を利用した有機汚染物質除去技術の開発を行う。

(2) 農業環境におけるカドミウム、ヒ素、放射性物質等による汚染リスクを低減するため、重金属による作物汚染リスク評価手法の開発では、ホウレンソウ等の野菜のカドミウム濃度迅速測定法の検討、ウラン濃度の異なるリン酸肥料を用いた作物栽培試験等を行う。また、有機ヒ素汚染土壌を用いた栽培試験によりイネ体内の有機ヒ素の動態を解明する。リスク低減技術については、カドミウム汚染土壌修復技術として、化学洗浄法の洗浄効果持続性の検証と環境影響評価、基幹食用水稲品種によるファイトレメディエーション効果の現地検証等を行う。さらに、低吸収品種利用技術の開発では、ナス低吸収台木と資材を用いたカドミウム吸収抑制技術の開発等を行う。

2)農業生態系における外来生物及び遺伝子組換え生物のリスク管理技術の開発

(1)外来生物及び遺伝子組換え生物の生態系影響評価とリスク管理技術の開発

(1) 外来生物(侵入・導入生物)による農業生態系のかく乱と被害を防止するため、外来植物の蔓延実態を外来植物の生態特性との関連から検討をするとともに、外来植物の競争力評価と雑種個体の分布拡大過程の解明を行う。また、植物生育阻害物質の生産性が高い外来植物から活性成分を分離・精製するとともに、外来天敵昆虫等の識別を精密かつ容易にするために、分子マーカーを利用した技術を開発する。また、新たに外来生物の原産地に関するデータ収集を行う。

(2) 遺伝子組換え生物が生物多様性に与える影響を適正に評価するため、ほ場における遺伝子組換えダイズとツルマメの自然交雑率を、隔離距離との関係及び両種の開花期における訪花昆虫の種類とその行動との関係から明らかにする。また、鹿島港周辺の定点調査地において、かく乱の異なる生育地ごとにセイヨウナタネ個体群の動態を定期的に調査し周辺への拡散状況を明らかにするとともに、圃場における競合実験を継続し、セイヨウナタネの消長に及ぼす他植物の影響を明らかにする。また、イネの交雑予測モデルを構築するために、観測点の拡大を図るとともに野外での実測データに基づき空中花粉濃度と気象要因との関係を明らかにする。さらに、防風網による乱流の発生とそれに伴う花粉の拡散状況をシミュレートし、高い交雑抑制効果の期待される防風植生等の手法についてその効果を明らかにする。

B 自然循環機能の発揮に向けた農業生態系の構造・機能の解明と管理技術の開発

1)農業生態系の構造・機能の解明と評価

(1)農業生態系を構成する生物群集の動態と生物多様性の解明

(1) 景観構造の変動が生物多様性に及ぼす影響を解明するため、調査・情報システムのモニタリング地区における調査を実施して景観構造の変化と植物群落の変化の関係を解明するとともに、複数データを統合的に運用するシステムを構築する。また、トンボ指標種についても地理情報からの生息予測モデルを作成し、過去の生息状況を予測して土地利用変化の影響を解明する。さらに、絶滅危惧植物タコノアシの生活史段階毎に対象除草剤の毒性を解明し、個体群存続性の予測モデルを構築して除草剤の長期的影響を解析する。

(2) 農業が育む生物相とその多様性を保全するため、前年度開発した標準PCR−DGGE法により検出し得る土壌中の微生物群集の量的・質的評価を行い、本手法の解析能を明らかにする。また、土壌からの長鎖DNA抽出のための溶菌条件を最適化する。また、モデル土壌における Fusarium oxysporum 胞子発芽時の胞子より精製したRNAをもとに、cDNAライブラリーを構築する。さらに、PCR−DGGE法の線虫への適用に関しては、当該手法の精度を明らかにする。

(2)農業生態系機能の発現に関与する情報化学物質の解明

農業生態系機能の維持・向上に資するため、ヤナギバシャリントウ、シジミバナ、ユキヤナギ等のバラ科植物に含まれる生理活性成分の分離・精製を行うとともに、フキノメイガ等を材料に、個体差の大きいメスの性フェロモン成分比率に対するオスの反応性と変異を評価する。また、Burkholderia sp. 細菌等を用い、遺伝子発現解析に適したモデル土壌実験系を構築し土壌中で遺伝子発現量を評価するとともに、遺伝子発現を誘導する物質の認識部位の解析を行う。さらに、生分解性プラスチック分解菌を分離し、評価する。

2)農業生態系の変動メカニズムの解明と対策技術の開発

(1)地球環境変動が農業生態系に及ぼす影響予測と生産に対するリスク評価

温暖化や異常気象に対する稲収量の変動をほ場スケールで評価するため、温暖化・高CO濃度環境に対する土壌、作物の応答を、環境操作実験及び日中の開放系大気CO増加実験の解析で明らかにする。また、地域スケールの評価については、水田水温、穂温推定を含むモデル結合型気象―作物データベースを開発するとともに、地域気候モデルによる現在気候の再現の可能性と改良点を明らかにする。また、タイ及び中国における収量変動を簡易に推定するモデルを開発する。さらに、メコン流域におけるコメ生産量予測のために、作付面積の変動要因を抽出する。

(2)農業活動等が物質循環に及ぼす影響の解明

(1) 京都議定書第一約束期間以降に実用可能な温室効果ガス発生抑制技術を確立するため、田畑輪換と施肥・有機物管理の試験を実施し、その効果を定量的に評価する。また、CH及びNO発生量インベントリーを精緻化するため、わが国の関連活動量データベースを整備するとともに、CH発生量に対する気象や水稲生育の影響を予測できるようにDNDCモデルを改良する。さらに、開放系圃場試験とチャンバー実験から、高CO濃度・温暖化環境が水田からのCH発生に及ぼす影響を明らかにする。

(2) わが国の農耕地の土壌炭素蓄積変化を予測するために、土壌環境基礎調査のデータなどを整理し土壌有機物分解モデルを多点で検証・改良するとともに、有機物動態統合モデルのプロトタイプを作成する。また、野外での土壌加温実験を継続し、自動開閉式土壌呼吸測定システムを導入するとともに、土壌呼吸量、窒素無機化量に対する地温上昇の影響を明らかにする。また、窒素の動態については、東アジア各国の実情にあった作物種を考慮することにより、食料・エネルギー作物生産と窒素負荷の予測を改良する。さらに、アンモニア発生と沈着の観測に基づいて、大気を経由した窒素負荷の推定を精緻化する。

(3) 農業活動由来の地域規模での環境問題の解決に貢献するため、浅層地下水中の硝酸イオン濃度の変化に対する脱窒の寄与を、硝酸イオンの窒素及び酸素安定同位体比の変化から推定する手法を開発する。また、傾斜枠を使った観測に基づいて懸濁物質とリンの表面流出に関わるパラメータを求め、流域を対象とした表面流出モデルを開発する。さらに、砂質土壌におけるリンの浸透流出による地下水汚染の可能性をカラム実験と文献調査により評価するとともに、土地利用連鎖指標に加え、有機物分解特性・土壌・地質等の要因を考慮した、流域の窒素除去能の評価手法を開発する。

C 農業生態系の機能の解明を支える基盤的研究

1)農業に関わる環境の長期モニタリング

(1)農業環境の長期モニタリングと簡易・高精度測定手法の開発

(1) 茨城県真瀬の水田等に設置したモニタリングサイトにおいて物理環境及びガスフラックスのモニタリングを継続し、欠損のより少ない通年データを取得し、複数年の観測データを蓄積する。また、データの品質管理等のデータ処理手法を高度化、迅速化し、長期観測データの品質を向上させるとともに、新型降水量計等の新たな手法によるモニタリングの高度化試験を継続する。

(2) 農業環境資源の変動を早期に検知するため、全国の水田13地点及び畑7地点の放射能基準圃場の作物及び土壌の137Cs等のモニタリングを行う。また、緊急時に対応するために環境放射能調査圃場において野菜等の農作物栽培を継続するとともに、137Cs、210Pb等を測定する。また、ホウレンソウについては、大量の試料を採取し、平常時レベルの137Csの分析精度向上について検討を行う。さらに、茨城県神栖地区における汚染が問題となっている有機ヒ素については、土壌培養実験で確認された未知ヒ素化合物の同定を行う。

2)環境資源の収集・保存・情報化と活用

(1)農業環境資源インベントリーの構築と活用手法の開発

(1) 農業環境を総合的に評価するため、リモートセンシングに関しては、高頻度時系列衛星画像(MODIS)等時系列データセットを完成させ、土地利用や水田面積の推定手法を高度化し、水田分布図等農業的土地利用図を試作する。また、イネ等における収量関連形質推定法のための中間赤外域計測法を確立するとともに、地理情報システムについては、栽培暦データベースを公開し栽培関連情報の広域的・体系的収集体制を確立する。さらに、生物生息域として重要な谷津田景観の解析に適した複数地目間の空間指標を試作し1880年代まで遡った比較検証を行う。

(2) 土壌侵食リスク指標の高精度化をはかるとともに、栄養塩類、農薬に関する指標については作成したフレームに基づいて指標を計算するシステムを構築する。また、関連する基盤的GISデータについて、データセットの収集・整備を行う。さらに、生物多様性に関する指標について、系統学的多様性尺度に基づく多様度変化の計測手法を開発するとともに、生態システムモデルを構築する。

(3) 農業環境インベントリーによる主題図作成を可能とするための開発キットの組込みと活用法の開発を行う。また、土壌・微生物・昆虫標本については引き続きデータの追加登録・機能の強化を行うとともに、所内インベントリーについて、所在情報の登録を行う。また、基準土壌断面の設定調査と既存データの整理を行う。さらに、昆虫及び微生物について、ジーンバンク事業の平成19年度事業計画に従って、収集・保存・評価・登録を行う。

2.研究成果の公表、普及の促進

(1)国民との双方向コミュニケーションの確保

(1) 広報情報室に新たに研究職員を配置し広報体制の強化を図る。広報情報委員会及び広報部会において平成19年度広報活動計画を策定し、広報情報室を中心に企画戦略室・連携推進室と協力して積極的な広報活動の展開を行う。広報対象を生産者、消費者、学生・生徒、マスコミ、民間企業・公共団体及び海外等に区分し、広報活動の一層の強化を図る。また、ウェブサイトに小・中学生向け、学生向け、及び企業・公共団体向けの案内ページを作成する。

(2) 第II期中期目標期間の研究課題の中で重点的に取り込むこととなっている農業環境のリスク評価とリスク管理については、「外来植物のリスク評価と蔓延防止策」の公開セミナー等のアウトリーチ活動、一般公開における展示や説明、「遺伝子組換え作物圃場試験一般説明会」の開催及びウェブサイトを活用した情報の公開等を通じて、双方向のコミュニケーションを活用した国民との情報の共有化を図る。

(2)成果の利活用の促進

(1) 課題評価会議における外部の有識者を含む評価委員の評価に基づいて、普及に移しうる成果を年度内に6件以上を選定する。

(2) これまでに公表した普及に移しうる成果については、昨年度に引き続き利用状況等のフォローアップ調査を行い、さらなる普及に努める。

(3) 広報情報委員会で選定した主要成果を、普及に移しうる成果と併せて「農業環境研究成果情報」として刊行するとともにウェブサイトで公開する。また、これまでの全成果情報を技術分野やキーワードで整理して、ウェブサイトに分野別目次とともに掲載し、利用者の利便性の向上を図る。アジア・太平洋地域における外来生物に関するネットワークの構築により分布拡大等の状況、被害、環境影響評価等に関する情報を収集・蓄積し、最新情報をデータベース化して公開する。また、昆虫や微生物等のインベントリー情報をウェブサイトに公開し、一般への情報提供に努める。

(4) 研究成果を技術の現場へ迅速に普及させるために、他の独立行政法人や公立試験研究機関との共同研究を推進するとともに、特許の許諾や実用化を前提とした民間等との共同研究を促進する。

(3)成果の公表と広報

(1) 研究開発の成果を科学的・技術的知見として広く社会に周知公表し、学界等に大きな波及効果を及ぼすことを目的として成果を発信する。論文については、水準の向上を図りつつ、年度内に162報以上の査読論文を公表する。また、引用度の高い英文誌への掲載を目標として年度内に全発表論文のインパクトファクター(IF)総合計値100を目指す。

(2) 「農業環境研究成果情報」や、「環境報告書」等の所刊行物については、冊子体の刊行に加えPDFファイル形式でウェブサイトに公開する。その他の刊行物については、目次や概要をウェブサイトに掲載するとともに内容に応じ全文情報の公開を行う。また、「NIAES国際シンポジウム」、「農業環境シンポジウム」、「有機化学物質研究会」、「農薬環境動態研究会」、「土・水研究会」及び「気象環境研究会」等を開催する。さらに、農林水産技術会議事務局等が開催する「アグリビジネス創出フェア」等の展示会に積極的に参加し、研究成果のアウトリーチ活動に努める。

(3) 研究成果については、主要なものを適宜プレスリリースするとともに、ウェブサイトや「食と農の科学館(つくばリサーチギャラリー)」、「農業環境インベントリー展示館」を活用し公開に努める。また、「農環研ニュース」の年4回の発行とウェブサイトでの公開や「情報:農業と環境」のウェブサイトへの掲載等、研究活動の積極的な広報を行う。プレスリリースは年に6件以上行う。

(4) 「NIAES国際シンポジウム」等を開催するとともに、 MARCO(農業環境研究の国際協力に向けた国際コンソーシアム)、APASD(アジア・太平洋外来生物データベース)等、インターネットを利用した国際的な情報発信機能を強化する。

(4)知的財産権等の取得と利活用の促進

(1) 昨年度策定した知的財産権基本方針に基づき、実用化の可能性や市場性など出願内容を客観的に判断して、質の高い知的財産の創出に努める。また、研究成果の権利化、ライセンス先のマーケティング及び契約締結等の技術移転業務についてはAFFTISアイピー等外部TLOを活用する。一方、一定期間実施許諾や問い合わせのない特許については更新の見直し等を行い、知的財産の適正な管理を行う。

(2) 研究成果を知的財産権として確保し、農業を中心とする産業界に円滑に移転・事業化させるため、実施許諾等の活用の可能性等の特許調査を十分実施した上で、年度内に5件以上の国内特許を出願し、権利化に努める。また、AFFTISアイピー等TLOを活用して特許の実施許諾の拡大に努める。

3.専門分野を活かしたその他の社会貢献

(1)分析、鑑定

行政、各種団体、大学、民間等の依頼に応じ、高度な専門的知識が必要とされ、他の機関では実施が困難な化学物質の分析や昆虫や微生物等の同定・分類等の鑑定を実施する。この際、必要に応じて所要の対価を徴収する。

(2)講習、研修等の開催

(1) 国や団体等が主催する研修へ研究職員を講師として派遣するとともに、研究所で化学物質の分析法や農業環境の情報管理手法等に関する研修会を年度内に2件以上開催し、40人以上の受講者を目標とする。

(2) 技術講習制度及び依頼研究員制度による独立行政法人、国公立試験研究機関、大学及び民間等からの講習生や研究員を受け入れ、また、海外からの短期及び長期JICA研修生等を受け入れることによって、研究成果の普及を図る。

(3)行政との連携

消費・安全局及び農村振興局等行政部局との情報交換会を行うとともに、農業環境研究連携推進会議においても行政部局との意見交換を行い、連携・協力を推進する。また、POPs(残留性有機汚染物質)等緊急対応が求められている問題については、行政部局との連携を緊密にしていく。さらに、行政等からの要請による委員会(国の要請、公共団体等の受託による。)への参加件数(委員会数)について年度内に100件以上を目指す。

(4)国際機関、学会等への協力

農業環境研究に関係するOECD等の国際機関、国際学会及び国内の学会の役員や委員に職員を積極的に派遣し、その運営に協力する。また、OECD等の国際機関が開催する専門家会議に要請に基づいて積極的に職員を派遣する。

第3 予算(人件費の見積りを含む。)、収支計画及び資金計画

1.予算

平成19年度予算

(単位:百万円)

区分 金額
収入
  • 運営費交付金
  • 施設整備費補助金
  • 受託収入
  • 諸収入
    • その他の収入
  •  
 
  • 3,142
  • 100
  • 931
  •  
  • 4,176
支出
  • 業務経費
  • 施設整備費
  • 受託経費
    • 試験研究費
    • 管理諸費
  • 一般管理費
  • 人件費
  •  
 
  • 877
  • 100
  • 931
    • 838
    • 93
  • 379
  • 1,889
  •  
  • 4,176

2.収支計画

平成19年度収支計画

(単位:百万円)

区分 金額
費用の部
  • 経常費用
    • 人件費
    • 業務経費
    • 受託経費
    • 一般管理費
    • 減価償却費
  • 財務費用
  • 臨時損失
4,244
  • 4,244
    • 1,889
    • 819
    • 892
    • 379
    • 265
収益の部
  • 運営費交付金収益
  • 諸収入
  • 受託収入
  • 資産見返負債戻入
  • 臨時利益
  •  
純損失
目的積立金取崩額
総損失
4,220
  • 3,085
  • 931
  • 201
  •  
  • 24

  • 24

3.資金計画

平成19年度資金計画

(単位:百万円)

区分 金額
資金支出
  • 業務活動による支出
  • 投資活動による支出
  • 財務活動による支出
  • 次年度への繰越金
4,176
  • 3,976
  • 197
資金収入
  • 業務活動による収入
    • 運営費交付金による収入
    • 受託収入
    • その他の収入
  • 投資活動による収入
    • 施設整備費補助金による収入
    • その他の収入
  • 財務諸活動による収入
    • その他の収入
  • 前中期期間からの繰越金
4,176
  • 4,076
    • 3,142
    • 931
  • 100
    • 100

第4 その他農林水産省令で定める業務運営に関する事項等

1.施設及び設備に関する計画

恒温温室は冷暖房装置の老朽化やガラスの透明度の低下により、厳密な温度・湿度・太陽光照度の調節ができず研究に支障をきたしているため、改修を行う。

(単位:百万円)

施設・設備の内容 金額 財源
恒温温室空調機他改修 100 施設整備費補助金
合計 100

2.人事に関する計画

(1)人員計画

(1) 方針

研究支援業務においては、室・グループ制移行に伴う柔軟な業務分担による効率化を進めるとともに、企画戦略室、連携推進室、広報情報室の連携強化を図るため、適切な職員の配置を行う。

(2) 人員に係る指標

平成19年度の常勤職員数は、中期目標期間の期初を上回らないものとする。

(2)人材の確保

(1) 必要な人材を確保するため、平成19年度採用計画を策定する。それに基づき研究職員の採用は公募によることとし、任期制を積極的に活用する。任期付き研究職員の採用にあたっては、テニュアトラック制の導入を検討する。

(2) 女性研究者の採用に関しては、応募者に占める女性割合と、採用者に占める女性割合とでかい離が生じないよう努める。また、Webサイトにおいて女性応募者向けの情報提供を行うことにより、応募者数の拡大を図る。

(3) 研究担当幹部職員の採用については、広く有能な人材を求めるため、公募制の適正な活用を図る。

(4) 次世代育成支援行動計画に基づき、仕事と子育てを両立しやすい職場環境の整備を図る。また、業績評価システムにおいて、産前・産後休暇や育児休業等が不利にならないような取り扱いを定める。

3.情報の公開と保護

(1) 情報公開を的確に行うため、情報公開窓口を通して情報の開示請求があったものについては、「法人文書開示決定等審査委員会」の審議を経て適正かつ迅速な対応を行う。

(2) 個人情報の保護については、関係法令及び平成18年度に定めたコンプライアンス推進規程等の個人情報保護に関する諸規程等に基づき適正な取扱いをする。

4.環境対策・安全管理の推進

(1) 環境配慮及び安全管理の基本的考え方を明確にした「環境憲章」の理念や行動指針に基づいた研究所の事業活動に係る環境配慮などの状況を環境報告書で公表する。また、「環境・安全委員会(環境保全推進部会)」等の提言に基づいて、施設整備等については、高効率型の設備機器の導入を図るなど、省エネルギー対策を推進するとともに、管理運営に伴うエネルギー使用量の把握、解析を行い、エネルギー使用量等の内容を職員に周知し、一層の節減を図る。さらに、廃棄物の抑制と物品等のリユース及びリサイクル並びに適正な処分に努めるとともに、化学物質の保管の状況等を把握して安全管理の徹底に取り組む。

(2) 放射性同位元素については、取扱者を対象に「放射線障害防止のための教育・訓練」を実施するとともに、適正な管理に努める。また、遺伝子組換え生物等の使用については、関連法令の遵守を定めた研究所諸規程に従うとともに、「組換え生物第二種使用安全管理委員会」等の安全管理委員会で審査・承認されたものに限り実施させる。また、法令の遵守を促すために職員への適切な情報提供を行う。

(3) 「安全衛生委員会」による職場巡視の点検結果や管理状況の報告に基づき、対策を講じる必要がある場合は、施設や設備の整備も含め適切な対応を図る。また、職員等に対してPRTR事業者研修会や消防訓練等の安全管理に必要な教育・訓練等を行うことにより、事故や災害への未然防止に役立てる。また、平成18年度に策定した「共用施設・機器等の利用、安全衛生各種事務手続きマニュアル」に基づき、安全衛生及び緊急連絡体制等の周知徹底を図るとともに、危険物等の安全管理体制を強化する。