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情報:農業と環境 No.63 (2005.7)
独立行政法人農業環境技術研究所

国際情報: ミレニアム生態系アセスメント

2001年6月5日(世界環境デー)に始まり、4年間にわたって実施された国連のミレニアム生態系アセスメント(Millennium Ecosystem Assessment)が本年3月30日に終結した。このアセスメントは、2000年に採択されたミレニアム宣言に基づいたプロジェクトのひとつであり、その目的は、生態系の変化が人類の福利に及ぼす影響を評価し、生態系の保全と持続可能な利用を促進して、人類の福利に対する生態系の貢献を高めるために必要な科学的基礎を確立することである。

世界95カ国、1300人の専門家が、文献情報やデータベース、モデルを総合して生態系の評価を実施した。このアセスメントの特徴は、人類の福利を念頭に置いて、政策関連の問題に科学的な回答を提供するところにある。6つの報告書と4つの技術書にまとめられるが、まず、3月に Millennium Ecosystem Assessment Synthesis Report(ミレニアム生態系アセスメント総合報告書)が公表された。

この報告書では、生態系の人類に対する働き(貢献、役割)に対して"ecosystem services"という用語を用いて評価を加えている。生態系の働きには、食料や水などの供給、気候や病気などの制御、レクリエーションなど文化的便益、土壌生成や物質循環など維持的機能があるとし、これらの生態系の働きを24項目に分けて評価した。その結果、最近50年の間に4項目の働きだけが促進され、15項目が低下していることが明らかになった。

この50年間において人類によってもたらされた生態系の変貌(へんぼう)は過去のどの時期よりも急速で広範である。1950年から30年間に耕作地に変えられた土地は、1700年から150年間に耕作地になった土地より広い。また、1913年に初めて製造されて以来今日までに使用された合成窒素肥料の半分以上は1985年以降に使われた。このようなことは地球上の生物多様性の不可逆的な衰退をもたらし、ほ乳類、鳥類、両生類の10%から30%の種が絶滅の危機にさらされているとしている。

生態系の働きの低下は、これからの半世紀の間にさらに急速に進む可能性があり、そのことは、飢餓や貧困の克服など国連の掲げるミレニアム開発目標の達成にとって大きな障害になるとしている。この報告書では、近年の生態系の変化が、人類の福利に対する生態系の働きの低下をもたらしていることに強い危機感を表明している。しかし、一方で、増加する需要を満たしながら生態系の破壊方向を逆転させることは、政策や制度の大幅な変更によって可能であるとし、国連は希望をもって、世界各国の政府や民間企業などさまざまな部門での取り組みを呼びかけている。

ミレニアム生態系アセスメントの報告書としては、上で引用したもののほか、下記が本年中に公表される。

・生物多様性と人類の福祉(Biodiversity and Human Well-being: A Synthesis Report for the Convention on Biological Diversity)(既刊)

・砂漠化に関する地球規模のアセスメント(Global Assessment of Desertification: A Millennium Ecosystem Assessment Synthesis Report)(既刊)

・湿地と水(Wetlands and Water: Ecosystem Services and Human Well-being)

・生態系と人の健康(Ecosystems and Human Health Synthesis Report)

・生態系と人類の福祉:ビジネスと産業にとっての機会と課題(Ecosystems and Human Well-being: Opportunities and Challenges for Business and Industry)

これらの報告書はSynthesis Reportsとして、Millennium Ecosystem Assessment のWebサイトで世界各国語(日本語はない)に訳されて公表される。

(企画調整部 木村 龍介)

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