近年、インターネットを活用することによって多種多様な情報が迅速に得られるようになった。このような時代には、生活に役立つための「より正確な情報」が求められ、研究成果についても効果的に発信することが重要になっている。この場合、科学的知見に基づいた結果をわかりやすく十分に説明していくことが必須であり、「どのような形で」、「いつ」、「どこに」発信するのか工夫がいる。平成18年度からの農業環境技術研究所の中期計画では、農業環境にかかわるリスクを評価し、リスク軽減のための技術開発をめざす。化学物質、外来生物、遺伝子組換え作物、温室効果ガスなどのリスク研究から得られた成果を、これまで以上に速やかに公表・提供していくことが不可欠になっている。
本書の著者、松永和紀氏は、農業・食・環境関連の記事を執筆する科学ライターである。平成17年2月に開催した農業環境研究推進会議の研究推進部会には有識者として出席され、研究成果の発信方法のあり方について意見をいただいた。本書では、「多くのマスメディアはメリットに目をつぶり、問題点だけを報じる」、環境ホルモン騒動を例にして「仮説に基づく過激な報道が先行し、社会が大混乱に陥る」などマスメディアの報道にも問題があるとし、科学報道の検証と冷静な理解が必要であり、さらに、「研究者には説明責任がある」と指摘している。研究の成果が正しく理解され、行政施策に反映されるために、わかりやすい方法で積極的に公表していくことの必要性を求めている。
目次
序章 私たちの暮らしの現在と未来のために
1 生活に深く入り込む科学情報
2 「みのもんた症候群」はまだ続くのか?
3 科学技術に支えられる現代の食
4 自分で正しい情報を探す、それがポイントだ!!
第1章 話題の記事の、アッと驚くウソを見破る
1 中国産冷凍ホウレンソウの危険度は?
2 無農薬農業が危ない?
3 天然物神話と木酢液
4 農薬が使える有機農薬って!?
5 BSE問題の本質に迫る!
6 遺伝子組み換えは危険な食品?
7 「ヒジキ、食べないで」はホント?
8 カドミウム米と電池の関係
9 養殖フグのホルマリン使用問題
10 マルハナバチは害虫か?
第2章 科学記事はこうして作られる
1 新聞記者はオールラウンドプレーヤー
2 事実を伝えるのは難しい
3 センセーショナルが最優先なんて
4 仮説を事実として報道する怖さ
5 誤りを正さないマスメディア
6 「ナンチャッテ学者」の不思議な存在
7 経済部記者が書く科学記事
8 でも、ジャーナリズムには役割がある
第3章 科学記事を正しく見極めるには
1 有名人のお墨付きにはご用心
2 「体験談は信用度ゼロ」と思え!!
3 動物実験にごまかされてはいけない
4 記事広告にも気をつけて
5 数字、単位、グラフのトリック
6 毒性の種類と量に注目する
7 学会発表は信用できるか?
8 目指せ!『ネイチャー』『サイエンス』
第4章 正しい食品情報を簡単に得る方法
1 取っ掛かりは新聞やテレビでいい
2 情報をさかのぼる
3 インターネットは宝の山
4 お気に入りの「道案内」を持とう
5 地元の自治体に尋ねてみる
6 行政と市民団体、どちらを信じる?
7 シンポジウム、講演会を覗いてみる
8 思い切って、科学雑誌オンライン版にアクセス
9 知識の更新と軌道修正を心がける
10 生活者の勘、財布との相談も大事
第5章 ”食と農” 今後の焦点はこれだ!!
1 最大のリスクは食料自給率
2 日本が糞尿に埋もれてしまう
3 残留農薬制度が変わる
4 天然物に含まれる発がん物質
5 押し寄せる動物由来感染症
6 抗生物質耐性菌との闘い
7 微量でも問題、食物アレルギー
8 増え続ける健康食品の安全性
9 遺伝子組み換えが世界を席巻
10 遺伝子組み換えの問題点
11 情報をオープンにすることが「武器」になる
あとがき