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情報:農業と環境 No.72 (2006.4)
独立行政法人農業環境技術研究所

国際情報: 適正農業規範(GAP)

農産物の食品安全性や品質の確保、環境負荷低減を目的に、栽培から出荷まで、農業現場での手法の基準を策定しその遵守(じゅんしゅ)を求める動きが世界に広がっている。この基準は適正農業規範(Good Agricultural Practice)、略してGAP(ジー・エー・ピーまたはギャップ)と呼ばれ、公的機関または民間団体で策定される。

”Good Agricultural Practice”の用語は1970年代から国連食糧農業機関(FAO)や世界保健機関(WHO)などによって、とくに農薬使用に関連して使われていたが、現在のGAPの策定と遵守の動きは、市民の食品安全性への意識が高まった1990年代の後半に始まる。1997年に欧州小売業協会(EUREP)がEurepGAP(ユーレップギャップ)を提案した。これは世界で最初の総合的なGAPであり、2000年に確立された。(EurepGAPのサイト: http://www.eurepgap.org/Languages/English/index_html (リンク先ページが見つかりません。2014年10月)

EurepGAPは、農業生産におけるさまざまな場面で、ほ場・資材の安全性、生産工程での安全性、環境影響、衛生、作業者の安全性などについてのリスクを低減し、農産物の安全性と生産の持続性を確保することを目的とする基準である。EurepGAPには法的な拘束力はなく、その遵守はGAP認証制度によって推進される。2005年から欧州連合(EU)内のスーパーなど量販店は、EurepGAP認証を取得した生産者の農産物のみを扱うことになった。そのため、EU内の生産者だけでなく、EUへの輸出農産物を生産する世界各国の生産者もEurepGAP認証を取得するようになった。

国際機関ではFAOがGAPの普及に取り組んでいる。FAO農業委員会は、2003年に「適正農業規範の枠組み開発(Development of a Framework for Good Agricultural Practices)」という文書を発表した。そこでは食料経済のグローバリゼーションや食料生産安全保障、食料の安全性と品質、農業環境の持続性などの面からGAPの考え方が発展したとして、GAPの枠組みを提案している。(FAOのGAPサイト: http://www.fao.org/prods/GAP/gapindex_en.asp

EurepGAPはその内容が世界の標準になることを目指して策定されたものであるが、世界各国では、それぞれ異なった生産条件や社会条件、文化のもとで農業生産が行われているため、独自のGAP策定の動きが活発になっている。2005年10月に「アジア・オセアニアにおけるGAP(適正農業規範)を支える技術開発に関する国際セミナー」が日本の中央農業総合研究センターと台湾にある亜太糧食肥料技術中心(FFTC)の共催でつくば市で開催された。このセミナーでは、アジア・太平洋地域の各国でそれぞれ独自のGAPを発展させることが必要で、そのためには、貿易を考慮して地域内各国間で協調することが不可欠であり、また、研究者、流通関係者、消費者、生産者の間での情報交換・共有が重要だとの結論を得ている。(同国際セミナーのサイト: http://riss.narc.affrc.go.jp/GAP/ (最新のURLに修正しました。2011年3月) または http://www.agnet.org/library.php?func=view&id=20110721110730&type_id=1 (最新のURLに修正しました。2012年1月)

わが国では、農林水産省が2004年に「生鮮農産物安全性確保対策事業」を開始し、2005年4月には「『食品安全のためのGAP』策定・普及マニュアル」を公表するなど、食品安全GAPへの農業団体などの自主的な取り組みを促進する事業を展開している。本事業の補助金を活用して、一部の自治体や各地のJAがGAPに取り組んでいるほか、農業生産法人などが主体となって2005年に設立されたJGAI協会が日本版GAP(JGAP)の統一基準としての普及をめざして活動している。(農林水産省「食品安全のためのGAPに関する情報」のサイト: (対応するURLが見つかりません。2011年1月) (該当すると思われる最新のページ: 農業生産工程管理(GAP)に関する情報 http://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/、JGAI協会のサイト: (対応するURLが見つかりません。2011年1月) (該当すると思われる最新のページ: 日本GAP協会 http://jgap.jp/index.html

農業環境技術研究所では、農業環境のリスク評価・管理に関連するさまざまな基礎的研究を実施している。これらの研究はわが国のみならず世界各国でのGAPの策定や発展にも貢献するものである。

なお、適正農業規範(Good Agricultural Practice)のような用語は、農業関係者には耳新しく感じられるかもしれないが、他の分野では類似の英語訳になる用語が普及している。例えば、医薬品関係では、製造基準(Good Manufacturing Practice)、試験基準(Good Laboratory Practice)、審査実施基準(Good Review Practice)などがある。その他、適正衛生基準(Good Sanitary Practice)や優良工業製品規範(Good Industrial Large Scale Practice)などもある。GAPの普及は、工業生産と同様の考え方を取り入れて農業生産の適正化を図ろうとする流れと見ることもできる。

(企画調整部 木村 龍介) 

農業環境技術研究所の公式サイト内の「情報:農業と環境」のページには、「国際情報」として以下の12の記事が掲載されています。

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