農村には水田、畑、樹園、草地、林地などを含む農業生態系があり、多様な生き物を育(はぐく)んでいます。1980年代以降、国内外において、農業生態系の生物多様性を保全し自然と調和した豊かな環境を確保しようとする動きがあります。一方、農村をすみかにしている生き物の中には、過度の農業開発によって生息の場を失っている種類もいます。現在、多くの研究者が、農業生態系に生息する生き物の実態を正面から見据え、生物多様性の現状を理解し、保全と活用をめざした調査・研究を進めています。
農業環境技術研究所は、これまでの研究の中で得られた成果を広く公開し、農業生態系における身近な生物多様性の保全と活用について考えるとともに、これからの研究や政策に活かすことを目的として、平成20年2月1日に、東京国際フォーラム (ホールD5) を会場として、第29回農業環境シンポジウム 「農業・農村における身近な生物多様性の保全と活用をめざして」 を開催しました。
当日の参加者は260名でした。内訳は、研究機関39%、企業・民間団体19%、行政組織14%、大学10%、個人の方など18%でした。
開催日時: 平成20年2月1日(金曜日) 13:00 − 17:00
開催場所: 東京国際フォーラム ホールD5 ほか
主催: 独立行政法人 農業環境技術研究所
後援: 農林水産省、 日本学術会議
講演の表題と講演者
[ 基調講演 ]
生物多様性の保全のための地域区分と管理
大澤 雅彦 (東京大学)
[ 講演 ]
農村ランドスケープと生物多様性
山本 勝利 ・ 楠本 良延 (農業環境技術研究所)
生物多様性にとっての水田生態系管理
日鷹 一雅 (愛媛大学)
農業に有用な生物多様性
田中 幸一 (農業環境技術研究所)
放牧で草原の生物を維持する−北上山地安家森のチョウを例に−
吉田 信代 (農研機構・東北農研センター)
総合討論 ―これからの農林畜産業と生き物との共存に向けて―
座長 平井 一男 (農業環境技術研究所)
コメンテーター 高橋 佳孝 (農研機構・近中四農研センター)
研究所の研究成果に加えて、「生物多様性」そのものについての関心も高かったと思われ、多数の方に参加いただきました。
生物多様性の研究についての多様なご意見やご質問を、会場の参加者からいただきました。「農業に有用な生物多様性の研究の受け手は誰か」、「生産者が直面している現状をもっと考えてほしい」、「公開シンポジウムは学会発表とは異なることを認識してほしい」、「発表者が多かったため総合討論の時間が足りなかった」などのご指摘やご意見は、今後の研究方向や公開セミナーなどの持ち方について参考にさせていただきます。会場からの質問票にも多くの質問や意見が寄せられました。当日、会場で回答できなかった質問については、後日、農環研Webサイトに回答を掲載する予定です。