「温室効果ガスによって地球が温暖化している」という話題は、もう多くの方がご存じでしょう。
ただし、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などの温室効果ガスは人間が出しているだけでなく、自然界からもたくさん発生しています。大気中の水蒸気も実は大きな温室効果をもっています。もし温室効果ガスがなければ、地球は平均温度がマイナス20度ぐらいの極寒の世界になるだろうといわれています。温室効果ガスは地球上の生物にとって大事な存在なのです。ところが、人間が余分に温室効果ガスを出したために、地球が温暖化していると考えられています。
さて、その温室効果ガスが水田からも出ていることはご存じでしょうか。
(左)湛水時:メタン生成菌の働きでメタンが発生する
(右)落水時:土壌に酸素を供給してメタン発生を抑える
人間活動によって発生する温室効果ガスの70%以上が二酸化炭素ですが、約14%はメタンです。そしてメタンのうちの約1割が水田から発生していると考えられています。水田の土壌の中には酸素が少ない(嫌気的な)条件でメタンを作る微生物(メタン生成菌)が住んでおり、水稲を育てるために水田に水を張ると、土壌中の酸素が少なくなって、メタンが作られます。水稲の茎や根には空気を通すための空隙(くうげき)があり、土壌中で作られたメタンの多くはこの空隙を通って大気中に放出されます。
日本人を含め、世界のおよそ半数の人がコメを主食にしていますから、メタンを減らすために水田をなくしてしまうことはできません。そこで私たちは、水稲の栽培方法を工夫することでメタンの発生を減らす研究をしています。
もっとも効果的な方法の一つが「水管理」です。メタンは酸素の少ない条件で作られるので、土壌に酸素を供給すると発生を抑えられます。水稲の栽培中に水を張る(湛(たん)水)・抜く(落水)を繰り返す「間断灌漑(かんがい)」を行うと、コメの収量を落とさずにメタンの発生量を大きく減らすことができました。この方法は、費用や労力があまりかからず、水を節約できるという大きな利点もあるため、日本だけでなくアジア諸国での普及が期待されています。
(農業環境技術研究所 物質循環研究領域 麓 多門)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成20年12月17日に掲載されたものです。
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