「地球温暖化」 と聞くと、二酸化炭素を思い浮かべる人が多いでしょう。けれども大気中で増加して地球温暖化を引き起こしている温室効果ガスは、二酸化炭素だけではありません。都市ガスのおもな成分であるメタンも強力な温室効果をもっています。
メタンは、水田や湿地の泥の中や、牛や羊のような反すう動物の消化管など、酸素のない環境で、メタン生成菌と呼ばれる細菌群の活動によって作られます。水田は日本を含むアジアの国々に広く分布しているため、メタンの主要な発生源の1つとなっています。私たちの研究所では水田からのメタンの発生を抑制するための研究を行っています。
水田の土壌でメタンが作られるには材料となる有機物が必要です。有機物には土壌に元から含まれていたものもありますが、イネの根から分泌されたものや、イネを収穫した後に土壌にすきこまれたワラが分解されたものなど、植物に由来するものもあります。
イネは、光合成によって、二酸化炭素と水からデンプンなど有機物と酸素とを作ります。大気中の二酸化炭素濃度が増加すると、光合成が促進されてイネの生長や収量が増加します。イネが活発に生長すると、イネの根から土壌中へ分泌される有機物や、土壌中にすきこまれるワラも多くなります。増加した有機物は、やがて土壌微生物によって分解され、メタンも多く生成されます(図)。また、水田からのメタンは、イネの植物体を通じて大気へ放出されるので、イネの茎数が増えるとメタンの放出も増えます。
これを確かめるため、大気中の二酸化炭素濃度を100年後に予想されている濃度550〜700ppmに上昇させてイネを栽培する実験を、人工気象室と水田ほ場で行いました。その結果、二酸化炭素の濃度が上昇すると、イネの地上部のワラとモミの重量は1〜2割程度、水田から放出されるメタンの量は約5割も増加することがわかりました。また、温度が高ければ高いほど、土壌中のメタン生成菌の活動が活発になるので、地球温暖化は水田土壌中のメタンの生成を促進します。
メタンは二酸化炭素の23倍の温室効果を持つため、水田土壌から出るメタンによって地球温暖化がさらに加速することが心配されます。そのため、水田からのメタン放出を抑制する技術の開発と、国内・海外への普及が求められています。
(農業環境技術研究所 大気環境研究領域 程 為国)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成21年3月4日に掲載されたものです。
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