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情報:農業と環境 No.117 (2010年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

GMO情報: Btトウモロコシの害虫抵抗性管理対策 〜緩衝帯ルールと小口栽培制限〜

1996年に米国とカナダで遺伝子組換えBtトウモロコシの商業栽培が始まって13年。最初はアワノメイガなど鱗翅(りんし)目害虫抵抗性品種だけだったが、2003年にネクイハムシに効果のある鞘翅(しょうし)目害虫抵抗性品種が加わり、両方の形質を持ったスタック(掛け合わせ)品種を合わせると、2009年には米国のトウモロコシ(デントコーン)の63%がBt品種となっている (除草剤耐性を含めると85%が組換え品種)(米国農務省統計局)。心配されていたBtトキシンに対して害虫が抵抗性を発達させ、Bt品種の効果がなくなるような事態は起きていないが、Btトウモロコシを栽培しない区域(緩衝帯、refuge )を設けるなど、いくつかの対策が種子開発メーカーと生産者に義務付けられている。最近、「緩衝帯ルールを守っていない生産者が増えている」 と警告する報告書が出されたが、このルールは鱗翅目用と鞘翅目用品種で異なっており、スタック品種も加わったため生産者にとって実行するのが難しい面もある。さらにスイートコーンでは抵抗性管理対策が小規模生産者のBt品種採用を制限する要因にもなっている。

抵抗性発達管理対策

抵抗性発達を抑制し効果を持続するための対策は、Bt作物の商業栽培開始とともに始まったわけではない。トウモロコシ、ワタとも1996年の商業栽培開始後、採用率は年々増加し、1999年には20〜30%に達しさらに増加することが確実になった。このままではBtトキシンに対して抵抗性を発達させた害虫が出現し、Bt作物のメリットが失われるという危機感から、米国環境保護庁(EPA)は2001年からBtトウモロコシとワタ栽培に、法的拘束力を持つ 「害虫抵抗性発達管理対策」 を義務付けた。

対策は、(1)植物体内で高いBtトキシン濃度を発現する系統を用いる、(2)Btトキシンに感受性(非抵抗性)個体の供給源として、Bt作物ほ場の周辺に非Bt品種を20%の割合で栽培する(緩衝帯の設置)、(3)定期的に害虫を採集して、抵抗性の発達程度をモニタリングすることなどを基本としている。

(2)の緩衝帯設置は、Btトキシンに対する抵抗性は劣性遺伝で、トキシンに抵抗性を発達させた個体が生まれても、周囲の緩衝帯で生まれた感受性個体と交尾することによって子孫には抵抗性が発達しないという理論に基づいている。科学的には妥当な対策としても、生産者にとってはいままでのトウモロコシやワタ栽培ではなかった制度であり、種子会社や生産者協会は、緩衝帯の必要性を生産者に教育し理解を得た上で、栽培にあたり「契約同意書」を種子会社と交わすことが義務付けられた。契約に違反して栽培をした場合、翌年は種子を購入できないなどの条件があり、種子会社は緩衝帯ルールの遵守状況を調査し、EPAに毎年報告することになった。

欠点を最小限に抑え長所を継続させる

2009年11月23日、アリゾナ大学の Tabashnik 教授らは米国昆虫学会誌に 「Bt作物に対する野外での抵抗性発達」 という論文を発表した。北米だけでなく、スペイン、南アフリカ共和国、豪州、中国のBtトウモロコシとワタ栽培で抵抗性発達を調査した41本の論文データを分析し、今後もBt作物の効果を長期的に持続させるために、モニタリングによる抵抗性発達の監視を続けること、緩衝帯の遵守(じゅんしゅ)、複数トキシン成分品種の採用などいくつかの提言をした。彼らはいままでに抵抗性発達が顕在化した事例を3つ示し(表1)、その原因を考察した。カリブ海に浮かぶプエルトリコ (米国自治領) では2003年の商業栽培からわずか4年でツマジロクサヨトウに対して高度の抵抗性発達が確認された。原因はこの害虫種が Cry1F トキシンに対してもともと殺虫効果が低かったことと、北米と異なり熱帯では1年に何世代も害虫が発生するため、抵抗性の発達が加速されたためと推定された。このBtトウモロコシ品種はすぐに栽培中止になったが、この間の情報は論文として公表されておらず、Tabashnik らは情報公開法に基づきEPAに資料開示を請求し、今回の論文で初めて公表した。彼らはBt作物全体の利益のためには、失敗例も速やかに公表すべきと述べている。

表1 いままでにBt作物で抵抗性発達が認められた事例

作物 Btトキシンの種類 害虫種 地域
1. トウモロコシCry1FSpodoptera frugiperda(ツマジロクサヨトウ)プエルトリコ
2. トウモロコシCry1AbBusseola fusca (ヤガ科)南アフリカ共和国
3. ワタCry1Ac,Cry2AbHelicoverpa zea(アメリカタバコガ)米国南部州

2番目の南ア共和国では、1998年の商業栽培から8年後の2006年ころから顕在化した。原因は緩衝帯ルールが十分に守られていなかったことと、栽培時期が多様なため、害虫の発生が周年にわたり連続し、Btトキシンに暴露(ばくろ)される頻度が高まったためと考えられている。当初、南ア共和国では25ヘクタール以下の小規模生産者には緩衝帯設置を義務付けていなかった。しかし、現在はすべてのBtトウモロコシ栽培者に、抵抗性発達管理対策 (5%の緩衝帯設置など) が義務付けられ、種子販売会社と契約書を交わすなどの対策が講じられている。3番目の米国南部州のワタは Tabashnik らによる調査結果であるが、野外での防除効果の低下は実証されておらず、米国では反論や疑問視する研究者も多かった。米国南部州では、2005年ころから複数のBtトキシン成分を含む系統が主流になり、1トキシン成分 (Cry1Ac) 系統の商業栽培は2009年で終了したので、抵抗性発達は栽培現場では深刻な問題にならなかった (農業と環境96号)。Tabashnik らは今回の論文で 「抵抗性が発達した、いや発達していない」 という論争より、長期的にBt作物の効果を持続させるため、「管理法について議論するのが重要」 と前向きの提言をしている。

緩衝帯ルールの遵守率が年々低下

現時点では、抵抗性発達を抑えるために緩衝帯設置は有効な手段と言えるだろう。では、EPA の定めた緩衝帯ルールはどの程度守られているのだろうか? 2009年11月5日、米国の民間研究団体、公益科学センターは 「米国トウモロコシ栽培における生産者の緩衝帯ルール遵守割合」 を発表した。執筆者の Jaffe 博士はいままでにも 「適正な管理・規制のもとで組換え作物を栽培、利用すべき」 と主張しており、組換え食品・作物に反対・懸念の立場の研究者ではない。種子開発メーカーがBtトウモロコシ生産者に対して行った緩衝帯遵守の調査結果は公表されていないが、Jaffe は情報公開法によって EPA に開示請求し、その結果をまとめて発表した(表2)。

表2.Bt トウモロコシにおける緩衝帯(非 Bt 品種ほ場)遵守率の推移(%)

*1 米国南部のコットンベルト地帯では50%
*2 Bt品種ほ場に隣接またはほ場内に非Bt品種を植える
品種 条件 2005年 2006年 2007年 2008年
鱗翅目用 面積 (20% *1) 92 89 80 78
距離 (800m以内) 96 96 88 88
鞘翅目用 面積 (20%) 89 80 74
距離 (隣接 *2) 82 79 63
スタック 面積 (20%) 78 70 72
距離 (隣接 *2) 92 66 66

Jaffe は 「2005年まで緩衝帯の遵守率は90%以上だったが、2006年以降年々低下している」、「これは鞘翅目用とスタック品種が導入され普及した時期と一致している」、「緩衝帯ルールを守ることはBtトキシンに対する抵抗性発達を抑制し、Bt作物によるメリットを維持するために必須である」、「90%の遵守率が達成されないならば、EPA はBt品種の商業栽培認可を取り消すか、種子販売停止命令を出すべき」 など厳しく指摘した。確かに EPA の定めた規則を守らない方が悪いし、近年のバイオエタノールブームによるトウモロコシ栽培の増加がルール違反の一因となっているのかもしれない。しかし、生産者の立場に立てば、鱗翅目用はともかく、鞘翅目用と両方の形質を持ったスタック品種の緩衝帯設置条件は実行するのが煩雑(はんざつ)でややこしいのだ。

鱗翅目用はトウモロコシの全栽培面積の20%を緩衝帯とし、Btトウモロコシほ場から半マイル(約800m)以内に設置する比較的単純な条件だ。しかし鞘翅目用とスタック品種の場合、面積割合は20%と変わらないが、設置場所はBtトウモロコシほ場に直接隣接するか、Bt品種ほ場内に設置しなければならない。これはアワノメイガなどの蛾(が)類は飛翔(ひしょう)行動範囲が広いのに対して、ネクイハムシは行動範囲が狭いため、離れた場所に緩衝帯を設置すると、緩衝帯で生まれたBtトキシンに感受性の個体が、Bt品種ほ場で羽化した個体と交尾する確率が低くなるためだ。ほ場内に非Bt品種を植える場合、ある程度まとまった区域を確保するため、6列以上の帯状植えとするなどの条件がある。Btと非Bt品種の種子を8対2の割合で混ぜてまとめて播種(はしゅ)すれば、作業は楽になるが、「シードミックス法」 は認可されていない。温室栽培での実験から、緩衝帯を設置しないとネクイハムシではBtトキシンに対する抵抗性発達が数世代のうちに加速されることが確認されており、緩衝帯設置は必須である。しかし、成虫の飛翔範囲や交尾行動のまったく異なる複数種の害虫に対して、二つの緩衝帯対策の効果を生産者に納得させ、両立させていくのは難しい点があるようだ。

スイートコーン 抵抗性管理対策が小規模生産者への普及を阻害

米国ではスイートコーンでも組換えBt品種が商業栽培されている。飼料・食品原料・エタノール用に使われるデントコーンと比べて、鱗翅目害虫用の1系統(Cry1Abトキシン)を1社だけが販売しているため、栽培面積もシェアもそれほど多くはない。Btスイートコーンを栽培する場合も、害虫抵抗性管理対策が義務付けられているが、デントコーンとは異なっている。生産者が契約同意書にサインして種子会社に提出し、EPA の定めた管理対策に従い、違反したら翌年種子の購入は出来ない点は同じだ。しかし、緩衝帯の設置は必要ない。その代わり、(1) 収穫後14日以内(遅くとも30日以内)にほ場内のトウモロコシ残株を処分する、(2) 同じ畑で年2回栽培しない(フロリダ州など南部では年2回栽培が可能)という条件が課せられている。2001年に抵抗性管理対策が義務付けられたとき、種子会社は生産者の法令遵守を徹底するため、小規模農家への販売を制限し、(1) 20エーカー(約8ヘクタール)以上の栽培者にだけ販売する、(2) 10万粒袋単位で販売し、小袋に分けて再販売や譲渡することを禁止するという条件を設けた。これによって家庭菜園はもとより、数ヘクタール規模の農家がBtスイートコーンを栽培する機会は失われた。種子会社は2004年に20エーカー以上の条件を廃止し、2万5千粒袋の販売も始めるなど、小規模生産者向けの販路拡大を図り、栽培面積は徐々に増えている。しかし、非組換えのスイートコーン品種は2500粒や1万粒単位で販売されており、2万5千粒袋でも大口販売だ。筆者が2006〜2007年に米国の種子販売会社に 「Btスイートコーンに対する生産者の意識」 についてメールインタビューしたところ、「栽培したいが種子販売単位が大きすぎる」、「EPA の管理対策や契約同意書へのサインがめんどうだから栽培しない」 という答えが複数あった。

Btスイートコーンで緩衝帯を義務付けなかったのは、栽培面積がデントコーンの1%以下と小面積であり、デントコーンより栽培・収穫時期がかなり早いため、収穫直後に残株を処理すればBt品種で発育した害虫個体が羽化しないうちに殺せるためだ。しかし、緩衝帯設置は免除されても、それ以外の条件が小規模生産者にとってはBtスイートコーン採用の制限要因になっているようだ。収穫後に残株を早めに処理して次世代の害虫発生数を減らすことは、組換え品種に限らず有効な害虫防除法であり、生産者にとってメリットになる。もっと少量単位で種子を販売し、残株処理や年2作禁止を生産者の自主規制に任せたら、Btスイートコーンを栽培する農家はもっと増えるのではないか。それとも、やはり契約書にサインして罰則など法的措置を伴わないと、抵抗性発達管理対策はうまく機能しないのだろうか。

おもな参考情報

Tabashnik B.E. et al. (2009) Field-evolved insect resistance to Bt crops: Definition, theory, and data. Journal of Economic Entomology 102 (6): 2011-2025. (組換えBt作物に対する野外での抵抗性発達:抵抗性の定義、理論、調査データ)

米国昆虫学会のプレスリリース(2009/11/23)
http://www.entsoc.org/resources/press_releases/2009_btcrops.htm

米国のトウモロコシ栽培における生産者の緩衝帯ルール遵守状況(公益科学センター)(2009/11/5)
http://www.cspinet.org/new/200911051.html

Btスイートコーンの抵抗性管理対策(種子会社の生産者向けマニュアル)
http://www.rogersadvantage.com/pdf/AttributeGrowerGuide1.pdf

「情報:農業と環境」96号 「GMO情報:Btワタに抵抗性発達 −対策は緩衝帯と複数トキシン品種−」
http://www.niaes.affrc.go.jp/magazine/096/mgzn09609.html

(生物多様性研究領域 白井洋一)

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