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農業と環境 No.135 (2011年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

GMO情報: 抵抗性発達が心配だから栽培しない、EUの新たな禁止理由

遺伝子組換え作物の栽培と輸入のための安全性審査や承認方法で欧州連合(EU)が迷走を続けてきたことは今までに何回か紹介した。解決が急がれていた安全性未承認系統の微量混入対策はようやく、「家畜飼料用に限り 0.1 %以下の混入は認める」ことで決着した(ロイター通信、2011/6/24 )。未承認と言っても北米、南米の輸出国ではすでに安全性承認済みで、EUでの審査・承認が遅れているだけで、科学的に安全性が否定されるようなものではない。今回の決定でごく微量の未承認系統が検出されたら輸入禁止、全量返還という状況は回避されるが、問題の本質的解決にはほど遠い(農業と環境129号)。

もうひとつの課題は、栽培の承認をめぐるEUと加盟国の関係だ。EUの行政府である欧州委員会は商業栽培承認を進めたいが、そのためには加盟27か国の3分の2以上の賛成が必要で作業は進まない。今までに栽培承認されたのは害虫抵抗性Btトウモロコシと工業原料用ジャガイモの2つだけだ。昨年(2010年)7月、EUとして栽培承認した系統でも、合理的な理由があれば、各国独自に栽培禁止にしても良いという妥協案を欧州委員会は提案した。EUの安全性審査機関である欧州食品安全機関(EFSA)が科学的基準で安全と判断したものを、禁止にできる合理的理由が存在するのかなど、この提案は組換え推進、反対両サイドから不評だった(農業と環境124号)。栽培禁止の根拠をめぐって、今年4月、欧州議会環境委員会は、EFSA が評価しておらず、世界貿易機関(WTO)など国際ルールにも違反しないという新たな理由をひねり出した。害虫抵抗性や除草剤抵抗性問題などが懸念される場合は、栽培禁止にできるというものだ。この提案は一見納得できそうだが、自らの管理能力のなさを証明しており、「栽培管理に自信がないから、最初から栽培しない」 と言っているようにも思える内容だ。

欧州議会環境委員会の新提案

4月の欧州議会環境委員会の提案は、組換え推進でも絶対反対でもない中立系の議員らによって作られた。倫理的・人道的見地や社会・経済的理由からの禁止では、WTO 訴訟に持ち込まれたら勝ち目はない。「人の健康へ悪影響」も EFSA が安全と判断したもので、スペイン人には安全だが、ドイツやギリシャ人には危険という理由は成り立たないから、この理由も無理がある。そこで EFSA が栽培承認の判断基準としていない、(1) Bt作物に対する抵抗性害虫の発生、(2) 除草剤耐性作物に対する抵抗性雑草の発生、(3) 農地外への分布拡大・侵出のおそれ、(4) 生物多様性への悪影響のおそれ などを栽培禁止の理由として加えた。(1)と(2)は組換え作物そのものにより生ずる悪影響ではなく、使用する側の管理の問題であり、細かい栽培管理方法まで EFSA は義務付けていない。しかし、(3)と(4)は EFSA の審査項目にもあり検討されているので、今回の提案には疑問点も多い。環境委員会でこの案は賛成34, 反対10, 棄権16で可決され、欧州議会本会議に回された。6月末現在、欧州議会での最終決定は出ていないが、たとえ成立したとしても WTO 訴訟で勝てるかどうか疑問だ。

欧州議会や欧州委員会が栽培禁止の根拠が WTO ルールに違反しないかどうかを気にするのは、1999年から新規組換え作物の承認を一時凍結(モラトリアム)した際、米国、カナダ、アルゼンチンなど輸出国側から 「科学的根拠のない禁止」 として WTO に訴えられ敗訴したことが背景にある。さらに組換え作物・食品以外での貿易問題ではEUは WTO ルールを持ちだし、根拠なき輸入禁止に反対している。今年5月〜6月にドイツを中心に発生した病原性(腸管出血性)大腸菌 O104 による食中毒事件で、ロシアはEU全域からの生鮮野菜の輸入を禁止した。最初はスペイン産のキュウリが疑われたが、6月中旬にドイツ北部で栽培された発芽(スプラウト)マメ科野菜が発生源として特定され、他国のキュウリやレタスなど生鮮野菜の輸出入禁止は解除された。しかし、ロシアはすぐには輸入禁止を解除せず、EUはロシアに対して 「科学的根拠のない理由で禁止を続けると、今年末に予定されているロシアの WTO 加盟にも影響するかもしれない」 と懸念を表明した( EurActiv, 2011/6/15)。他国に 「科学的根拠のない理由で輸入禁止にするな」 と要求する以上、自分たちが輸入禁止、栽培禁止にする場合も、科学的合理性のある根拠が求められる。WTO 加盟国であるEUとしても難しい立場にある。

米国の除草剤抵抗性雑草問題, 想定できた理由とできなかった理由

欧州議会環境委員会が栽培禁止の理由にあげた害虫と雑草の抵抗性発達の現状はどうなのだろうか? 害虫抵抗性Btトウモロコシを1998年から毎年数万ヘクタール(ha)栽培しているスペインでは現時点でBtトキシンの効果がなくなる抵抗性害虫の出現は報告されていない。世界全体でも深刻な抵抗性害虫問題は現時点では生じていない。これはBtトウモロコシやBtワタでは、非Bt品種を一定割合の面積で植える「緩衝区」を法的に義務付けるなど各国が対策をとっている成果と言える。一方、特定の除草剤(グリホサート、商品名ラウンドアップ)に対して抵抗性を持つ雑草の出現は、米国南部州の広い地域で深刻な問題となっているのは事実である。日本では詳しく報道されないが、深刻度は昨年10月のモンサント社からのプレスリリースで明らかだ。

グリホサート耐性の組換え作物(ダイズ、ワタ、トウモロコシ、アルファルファ、シュガービート、セイヨウナタネ)を開発したモンサント社は自社のホームページで 「グリホサートだけに頼らないで複数の除草剤を使った雑草防除」 を生産者に呼びかけ、指示通りの防除法を実行した農家には報奨金を払うと報じた( Monsanto, 2010/10/19 )。グリホサート耐性作物では従来は一回か二回、グリホサートを散布すれば雑草防除ができ、作物の収量や収穫作業に問題は生じなかった。しかし、ダイズ、ワタ、トウモロコシを輪作する畑ですべてグリホサート耐性品種を使った場合、抵抗性雑草問題が2005年頃から深刻化した。使い始めてから約10年である。モンサント社は農家に種まき前に土壌処理型の別な除草剤を使い、時には機械除草をおこなうなど、グリホサートだけに頼らない雑草防除プログラムを示し、これを守ったら、南部州のワタ農家には1エーカー(約 0.4 ha)あたり20ドル、ダイズ農家には3ドルを払い戻す(キャッシュバック)奨励策を開始した。これだけで問題の深刻さがわかるだろう。

毎年同じ畑で同じ除草剤を連用すれば、いつか必ず抵抗性雑草問題が深刻化することは多くの雑草防除、農薬研究者が指摘していた。しかし、グリホサートは道路沿いや非農耕地の雑草防除用に20年以上使われており、グリホサートが効かない雑草が増え深刻な問題になったことはないという楽観論もあった。ジョージア州にある農務省作物保護管理研究所の Webster と Sosnoskie は、1995年と2005年の防除困難な雑草ワースト10を比較し、次のように分析した。(1) ワタやダイズ畑ですべての雑草がグリホサート抵抗性になったわけではない。1995年にワースト2、3だったマメ科雑草のエビスグサやハブソウはランク外になった、(2) ツユクサやヒルガオ類はもともとグリホサートの効果が低く、ワースト度が徐々に高まっている、(3) 現在もっとも問題となっているオオホナガアオゲイトウ(ヒユ科)とケナシヒメムカシヨモギ(キク科)は1995年にはランク外だったが、近年急にワースト度が増した。

オオホナガアオゲイトウとケナシヒメムカシヨモギは草丈も高く、種子を大量に付け、花粉や種子が遠くまで風で飛ぶため、抵抗性個体の分布範囲が拡大する原因になっている。「これらの雑草は畑地の雑草で、非農耕地ではあまり繁殖しない。畑は水や肥料を十分に与えるので、このような条件に適した雑草種が今問題となっている」 と Webster らは述べている。確かに、畑地、水田、非農耕地の雑草は種類が異なる。過去に非農耕地でグリホサート抵抗性雑草があまり問題にならなかったからというのは楽観論だったようだ。米国農家は 1000 ha 以上の規模で栽培する例が多いが、すべて自分の土地ではなく借地も多い。「抵抗性雑草問題が深刻化した農地は借り手も減るし、農地として売る際の価値も下がるから、畑の管理は真剣にやるべきだ」 という記事が Farm Press など米国の農業紙に載るようになった。Webster らも 「自分の農地だけの問題ではない。除草剤抵抗性対策は政府による強制的措置(栽培制限など)か、企業・生産者による自主的管理の徹底が必要」 と危機感を募らせている。

米国南部州を教訓にできるか

今回の欧州議会環境委員会の提案は、抵抗性問題に対して国も生産者も管理することができないから最初から栽培しないと、自らの管理能力のなさを証明しているとも言える。一方、米国南部州で現在進められている後追い対策は、最初から適切な使用法を守っていれば必要なかったものだ。どっちもどっちというところだが、米国での原因と今の対策を冷静に分析すれば、EUは抵抗性雑草問題を深刻化させずに除草剤耐性作物を賢く利用できるはずだ。実際、グリホサート耐性ダイズを1999年から2006年までの8年間、商業栽培していたルーマニアでは抵抗性雑草問題は起こっていない。ダイズは同じ畑で毎年栽培すると連作障害を起こすので、同じ畑に毎年、同じ除草剤(グリホサート)を使わなかったためだ。もし、ルーマニアでも、ダイズの後に、グリホサート耐性のトウモロコシ、セイヨウナタネ、シュガービートなどを栽培していたら、米国南部州と同じ結果になっていただろう。幸か不幸か、ルーマニアではこれらの除草剤耐性品種の栽培が承認されていなかった。もし承認されていたら、ルーマニアの生産者はどんな選択をしたのだろうか。ルーマニアは2007年、EU加盟とともにEUでは除草剤耐性ダイズの栽培が承認されていないため、8年間続いたダイズの栽培を中止したが、栽培上のメリットを享受してきた農家からはEUでも除草剤耐性ダイズの栽培を早く承認するよう復活コールがあがっている。

ダイズのように草丈の低い作物ほど、光や水や肥料を雑草に奪われるし、雑草が多いと病害虫の発生も増える。日本でも、除草剤耐性ダイズの栽培上のメリットを試してみたいと考えている農家は多い。連作できないので、グリホサート抵抗性雑草出現のリスクは低いと考えられ、適切な栽培管理を怠らなければ、生産者にとって有効な栽培技術となる可能性がある。しかし、野外での栽培と言うと、ごく小面積の試験栽培でも一部の市民団体や自治体が過剰な反応を示し、商業栽培以前のトライアル(試行)栽培さえできないのが今の日本の現状だ。このような状況はEUの場合とはやや異なるし、WTO ルールに違反すると訴えられる心配はないだろうが、自主的管理、自己管理能力の点で問題があるのは事実だろう。

おもな参考情報

「欧州議会環境委員会, 国別反対理由に抵抗性発達のおそれなどを提案」(EurActiv 2011年4月13日)
http://www.euractiv.com/cap/gmo-cultivation-news-503996(最新のURLに修正しました。2014年9月)

「野菜輸入禁止に関するEUとロシア首脳の協議」 (EurActiv 2011年6月15日)
http://www.euractiv.com/global-europe/eu-russia-vegetable-summit-leave-news-505649(最新のURLに修正しました。2014年9月)

「抵抗性雑草に対する報奨金付き対策プログラム」 (モンサント社、2010年10月19日)
http://news.monsanto.com/press-release/monsanto-outlines-new-weed-management-platform-under-roundup-ready-plus-brand(最新のURLに修正しました。2014年9月)

Webster & Sosnoskie (2010) Loss of Glyphosate efficacy: A changing weed spectrum in Georgia cotton. Weed Science 58: 73-79.(グリホサート効果の喪失:ジョージア州のワタ栽培における難防除雑草相の変化)

農業と環境111号GMO情報「除草剤抵抗性雑草 正しく使えば問題なし」
http://www.niaes.affrc.go.jp/magazine/111/mgzn11108.html

農業と環境124号GMO情報 「EUの新提案 〜審査は統一基準、栽培するしないは各国判断〜」
http://www.niaes.affrc.go.jp/magazine/124/mgzn12405.html

農業と環境129号GMO情報 「深まるヨーロッパの混迷:栽培や混入許容値の決定根拠の矛盾」
http://www.niaes.affrc.go.jp/magazine/129/mgzn12911.html

2007年6月(農業と環境86号)から連載したGMO情報は今回で終了します。

白井洋一(6月30日まで 生物多様性研究領域)

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