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農業と環境 No.139 (2011年11月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(4): 食料生産変動予測RP

将来の気候変化とそれに伴って発生する異常気象や気象災害(干ばつや洪水など)は、食料の生産にどのような影響を及ぼすのか、今後も安定した食料供給は可能だろうか?

食料生産変動予測リサーチプロジェクトでは、作物生産性の環境応答に関する広域スケールのモデルを作成し、最新の気候変化予測を利用し、異常気象の発生場所と頻度の変化に基づいて、わが国および世界の食料生産の安定性評価を通じて、上の疑問に答えることを目標に研究を行っています。

気候変化と農業生産との関連はこれまで、主に平均的な変化に対する応答に注目して研究が進められてきました。しかし、いうまでもなく気象は年々変動しており、とりわけ気候変化、温暖化に伴い気象の変動も大きくなる可能性が指摘されています。気象環境の変化が及ぼす農業への影響を考える際には、このような突発的な変化、あるいは年々の変動に着目する必要があります。

また、わが国は多くの食料を輸入しており、世界の貿易用食料生産の動向は価格変動を通してわれわれの生活に密接に関連しています。最近でも、オーストラリアのコムギ不作の影響で世界市場価格が高騰したことは記憶に新しいことです。

とくにトウモロコシ、ダイズは、中国、アメリカ、ブラジルが世界総生産量のおよそ80%以上を生産しており、地域が偏在化しています。異常気象がこれらの主要生産地域に同期して発生すれば、食料供給の世界的な不安定化が起きる危険性も否定できません。

このような問題意識の下に、本RPは

「地球規模環境変動下における食料生産量変動の広域評価手法の開発と将来見通し」

つまり、

わが国およびアジア地域において、主要作物を対象に、気候変動に対する脆弱性(ぜいじゃくせい)を評価する手法の開発および食料生産量の変動予測を行うこと

をミッションとして調査研究を行っています。

そして、ミッションを達成するために次の3つのサブテーマ課題を設定しています。

サブテーマ1 日本における食料生産変動評価

将来予測される気候変化が、日本において栽培される主要な作物に対し、どのような影響を及ぼすのか、また影響軽減のためにどのような適応技術がオプションとして導入できるのかを広域で評価するために、日本におけるコメおよびコメ以外の主要作物(コムギ、ダイズ)の生産性環境応答モデルを作成し、その気候変化環境下でのシミュレーション結果に基づいた影響評価と適応策評価を、不確実性を考慮しながら行っています。

日本の食料生産変動の推計:1990年代に比べて、コメ平均収量が減少する確率とコメ収量変動が拡大する確率を全国都道府県ごとに色分け表示(地図)

図1 都道府県ごとに気候変化がコメ収量に及ぼす影響を推計した研究例です。今後は地域や品種などの違いをさらに詳細に考慮した評価を行う予定です。

サブテーマ2 気候変化シナリオのダウンスケール

将来の気候変化の特性を明らかにするために、今世紀末までを対象として気象状況ならびに農業気候資源量の変化を解析しています。また、主要国の作物生産量の変動とエルニーニョ・ラニーニャ指数やダイポールモードインデックスなどの気象、海洋指標などとの統計的関係を解析しています。これらの成果を利用したダウンスケーリング手法を用いて詳細な気候変化シナリオデータセットを整備しています。

気候変化シナリオのダウンスケール: 全球気候モデル(約280km) → アジア域気候モデル(60km) → 日本域気候モデル(20km)/過去・現在の気象データを利用して、モデル構築、パラメータ決定、検証/将来の気象データを利用して、影響・脆弱性評価

図2 全球気候モデルに基づく将来の気候変化予測情報は空間スケールや時間スケールが大きいので、農業生産の影響評価に使いやすいスケールに変換することをダウンスケールと呼び、より適切なダウンスケール方法について研究を行っています。

サブテーマ3 世界における食料生産変動評価

わが国の食料輸入に重要な国々における主要作物(コメ、トウモロコシ、ダイズ、コムギ)を対象として、気候変動がそれらの生産性に及ぼす影響を広域スケールで評価するモデルを、農業統計データなどに基づいて不確実性を考慮した統計手法を用いて、作成しています。モデルに気候変化シナリオを入力し、土地利用変化シナリオも考慮して中長期の生産変動の見通しを示します。

世界の食料生産変動評価評価:作物分布(トウモロコシ、コムギ、コメ、ダイズ)(世界地図)→ 各国の農業統計データ+過去の気象データ(生産性環境応答モデル)(流れ図)+気候シナリオ → 生産性変動(グラフ)・減収の確率(グラフ)

図3 世界の主要作物の主要生産地域を対象として、過去の気象、土壌などの物理環境と生産性との関係をモデル化しています。そのモデルに気候変化シナリオや土地利用変化シナリオを入力して将来の生産変動の推計を行います。

(食料生産変動予測RP リーダー 横沢正幸)

(2013年10月より 食料生産変動予測RPリーダー 西森基貴)

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