前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.152 (2012年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

和穎朗太 研究員(物質循環研究領域): 第30回日本土壌肥料学会奨励賞

農業環境技術研究所 物質循環研究領域の和穎朗太 研究員が、第30回日本土壌肥料学会奨励賞を受賞しました。

この賞は、『土壌・肥料・植物栄養学及びこれらに関する環境科学の研究の進歩に寄与するすぐれた業績を会誌、欧文誌又はこれに準ずるものに発表し、更に将来の発展を期待しうる』40歳未満の日本土壌肥料学会会員を対象とするものです。2012年8月に開催された日本土壌肥料学会2012年度鳥取大会において、授賞式と記念講演が行われました。

受賞業績名と研究内容は次のとおりです。

鉱物と有機物の相互作用に着目した土壌有機物の動態に関する研究

和穎 朗太
(独)農業環境技術研究所

研究内容

地球全体の土壌中炭素の総量は、大気中 CO2 の約2倍、植物バイオマスの約3倍以上の 1,600 〜 2,400 Gt にのぼり、その大部分は土壌有機物 ( Soil Organic Matter, SOM ) として存在しています。土壌中の微生物の多くは SOM を分解することでエネルギーを得て、CO2 を放出します。今後の気象変動によって、土壌炭素の分解速度が植物による光合成 ( CO2 固定) の速度を上回り、温暖化が加速する可能性が IPCC (気候変動に関する政府間パネル) 報告書などで指摘されています。そこで、蓄積している SOM とそれを分解する土壌微生物群集が気候条件に応じてどの様に変化するか、また、どの様にして SOM は分解を免れて土壌中に蓄積しているのかについて研究しました。

土壌には、落ち葉など植物の遺骸(いがい)から土壌鉱物と結合した微生物分解産物まで、由来や反応性の異なる SOM が存在します。私は、これらの SOM を、土壌粒子の比重の違いによって分離・評価する手法の有効性を、世界で行われた文献のメタ解析から明らかにしました(論文1)。次に、この比重分画法を用いて、ボルネオ島キナバル山の標高傾度上に分布する低地から山地熱帯林までの土壌を調査しました。山地林の土壌では低温によって微生物の活動が抑制されているため易分解性炭素が多く残存しており、一方、温暖な低地林の土壌では SOM の大半が土壌団粒や鉱物粒子と強く結合しているため、微生物活動のエネルギー源はまばらに存在する低比重 SOM であることが分かりました(論文2)。また、微生物の分類群に特徴的な各種リン脂質脂肪酸を土壌から抽出して調べたところ、(1) 標高が低いほど SOM 量(資源)および炭素:窒素比が低下するが、それに対応して糸状菌類:細菌比も低下すること、(2) 高標高側の蛇紋岩質土壌の微生物群集は、その他の土壌に比べて特異的であることが分かりました(論文3)。つまり、SOM の量と質、および土壌母材の風化程度に応じて、土壌微生物の群集組成は変化しており、これが熱帯林生態系の維持に関わっていることが示唆されました。

SOM が長期間(数十〜千年)にわたって分解を免れてきた主要な原因は、有機物の分子構造が難分解性であることよりも、微細鉱物との反応による有機物の安定化作用によることが近年の研究から分かってきました。そこで私は、固体表面へのガスの吸着熱が有機物と鉱物表面とで異なることを利用して、微細な土壌粒子の表面がどの程度まで有機物によって覆われているかを推定し、そこから鉱物・有機物の結合様式のモデル化を行いました(論文4)。また、選択溶解法を改良し、主要土壌鉱物の一つである鉄酸化物への結合(収着)によって安定化している SOM の存在量を初めて明らかにしました(論文5)。

文献

(1) Wagai, R., Mayer, L.M. and Kitayama, K.: Nature of “occluded” low-density fraction in soil organic matter studies: a critical review. Soil Sci. Plant Nutr., 55, 13-25 (2009)

(2) Wagai, R., Mayer, L.M. and Kitayama, K. and Knicker, H.: Climate and parent material controls on organic matter storage in surface soils: A three-pool, density-separation approach. Geoderma 147, 23-33 (2008)

(3) Wagai, R., Kitayama, K., Satomura, T., Fujinuma, R., and Balser, T.C.: Interactive influences of climate and parent material on soil microbial community structure in Bornean tropical forest ecosystems. Eco. Res. 26, 627-636 (2011)

(4) Wagai, R., Mayer, L.M. and Kitayama, K.: Extent and nature of organic coverage of soil mineral surfaces assessed by a gas sorption approach. Geoderma 149, 152-160 (2009)

(5) Wagai, R. and Mayer, L.M.: Significance of hydrous iron oxides for sorptive stabilization of organic carbon in a range of soils. Geochim. Cosmochim. Acta 71, 25-35 (2007)

前の記事 ページの先頭へ 次の記事