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農業と環境 No.169 (2014年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所の30年 (4)有機化学物質研究の系譜

1.農業環境中の有機化学物質に関する情勢と研究展開

農業環境中には、作物生産のために意図的に施用(せよう)される農薬などの農業用資材や、農業以外の産業や生活に由来して非意図的に混入する大気降下物など、様々な有機化学物質が存在する。これらは大気、水、土壌、植物体中で移行、代謝、分解し、作物残留濃度を変動させるとともに、農地内の昆虫・微生物・植物等の生物に影響を与え、また大気あるいは水系を通じて農地外、時には広域に移行・拡散し、広く生態系にも影響を与えている。

ここ 30 年の農業環境をめぐる有機化学物質に関するトピックを振り返ってみよう。1980 年代にはゴルフ場農薬の水系汚染や空中散布による飛散など、農薬の農地系外への流出が問題となった。1990 年代後半には土壌や野菜から高濃度のダイオキシン類が検出され、食の安全の面から大きな社会問題となった。これを受け、2000 年にダイオキシン類対策特別措置法が施行され、環境基準の制定や排出規制等の対策が強化された。2002 年には無登録農薬問題が顕在化するなど農産物の農薬残留に対する社会的関心が高まり、2006 年にはポジティブリスト制度が導入されるなど、食品中での農薬残留の規制が強化された。

一部の化学物質が地球規模で移行・拡散していることが次第に明らかとなり、国際的な枠組みにより厳しい規制がなされた。1995 年のモントリオール議定書締約国会議において、オゾン層破壊物質として臭化メチルの全廃が決定された。2004 年発効のストックホルム条約において、残留性有機汚染物質(POPs)の廃絶、削減への取り組みが決定された。このような中、過去に使用された POPs 農薬であるディルドリンやヘプタクロル類が日本の一部地域で生産されたウリ科野菜から基準値を超えて検出され、大きな問題となった。

1993 年発効の生物多様性条約により、生態系の保全が強く求められるようになった。1996 年には「環境ホルモン」の危険性を警告する ‘Our Stolen Future’ が刊行されるなど、化学物質の生態系影響が強く意識されるようになった。1998 年には、環境ホルモン対策として環境庁(当時)が 「環境ホルモン戦略計画」 SPEED98 を発表した。農業生産においても、1999 年に 「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続農業法)」 が施行され、化学農薬の使用低減が推奨されるようになった。

当所における有機化学物質研究は、この 30 年間、時々の要請に応じて農業環境中での動態解明、生物に対する影響評価手法、作物汚染低減技術、およびこれらの基盤となる分析手法の開発に取り組んできた。所発足時からの 17 年間(1983-2000)は、資材動態部農薬動態科が当所における有機化学物質研究を担った。当初は前身である農業技術研究所病理昆虫部農薬科の研究を受け継ぎ、農薬の標的生物に対する活性や耐性発現機構、代謝経路の解明など、生産性向上のための農薬の薬効に関する研究が中心であったが、農薬の環境中での動態や水生生物への影響、土壌微生物による分解等、今日に繋がる研究にもすでに取り組んでいた。

2001 年に所が独立行政法人化した際には、有機化学物質研究は化学環境部有機化学物質研究グループに受け継がれ、さらに、当時社会問題となっていた 「ダイオキシン問題」 への取り組みのため、ダイオキシンチームと環境化学分析センターが設置された。この5年間(2001-2005)は、有機化学物質の農業生態系におけるリスク評価や環境浄化のための技術開発が強く意識されるようになり、内分泌かく乱物質や農薬による水生生物の毒性評価法、微生物による土壌残留有機汚染物質の分解 (バイオレメディエーション) 等の技術開発が行われた。ダイオキシン類については、作物・土壌中の定性・定量法が確立され、これに基づいて作物や土壌における汚染の起源等が解明された。

独立行政法人化後5年が経過して研究組織が見直され、有機化学物質研究は有機化学物質研究領域が引き継ぎ、今日に至っている(2006-2013現在)。ここ数年間は、その目標を 「食の安全」 および 「生態系保全」 への貢献に明確化し、作物汚染あるいは生態系影響へのリスク評価手法、およびこれらを低減、回避するための技術の開発をめざし、以下のような研究を行っている。

有機化学物質による生態系へのリスクを評価するためには、環境中にどのくらいのレベルで存在しているのか (曝露(ばくろ)量評価)、それが生物に影響を及ぼしうるレベルにあるのか (生物影響評価) の両面から検討する必要があり、両者を組み合わせた農薬の生態系に対するリスク評価手法の確立を目指した研究を行っている。

また、有機化学物質の中には農地土壌中に長期間残留し、作物の汚染源となるものがあり、「食の安全」 を脅かすとともに、生産の重大な阻害要因となっている。そこで、有機化学物質による作物汚染予測のための土壌診断、低吸収性作物および品種の選定、微生物分解等による生物的環境修復、吸着資材を用いた作物吸収抑制等の技術開発を行っている。

さらに、これらの基盤を成す分析手法についても、大気、水、土壌、作物など各種媒体からの有機化学物質の抽出・分離精製および検出法を向上させ、高精度、あるいは簡易で汎用性の高い測定技術を開発している。

以下、研究項目ごとにこの 30 年間に行われてきた研究成果の概要を紹介する。

2.農薬の生物に対する影響

2.1 標的生物に対する作用機構

農薬を施用する上で、標的生物に対する作用機構の解明は効率的で安全な使用法を確立するために重要である。1980−90 年代にはこのテーマが研究の中心として位置づけられ、多くの知見が集積された。

13C NMR 法を用いて殺菌剤イソプロチオランのいもち病菌に対する作用機構を検討し、生体膜の形成に重要なメチル基転移反応を阻害することを示した(Yoshida and Yukimoto, 1993)。プロペナゾールを処理したイネでは、いもち病感染時に抵抗性関連酵素フェニルアラニンアンモニアリアーゼの遺伝子が活性化することを明らかにし、関連遺伝子を単離した(Minami and Ando, 1994)。アシベンゾラルSメチルをキュウリやナシに局所施用すると、炭そ病や黒星病に対する発病抑制効果が植物全体に誘導され、全身抵抗性を獲得する(Ishii et al., 1999)。殺虫剤イソフェンホスでは、生体内酸化酵素により生成される代謝物のうち (+) 体にアセチルコリンエステラーゼ阻害活性があり、これにより殺虫効力が発現する(上路、1988)。除草剤ベンチオカーブの使用に伴う水稲の矮化(わいか)症状は土壌中の嫌気性菌が生成する脱塩素誘導体に起因し、矮化防止剤により脱塩素体の生成が抑制される(山田, 1990)。

標的生物の農薬に対する抵抗性あるいは耐性発現機構についても研究が進んだ。ストロビルリン系薬剤のキュウリべと病における耐性菌では作用点タンパクの遺伝子に1塩基の違いがあり、PCR-RFLP により耐性菌の迅速診断が可能である(Ishii et al., 2001)。ワタアブラムシの有機リン剤抵抗性には解毒酵素カルボキシルエステラーゼが関与し、抵抗性系統では関連遺伝子の発現が著しく増大していた(Suzuki and Hama, 1998)。農薬流入河川に生息するコガタシマトビケラの有機リン殺虫剤に対する感受性は非流入河川の個体群に比べて著しく低く、その抵抗性メカニズムは薬物結合タンパクによる解毒である(Konno et al., 1994)。

これらの研究は創薬および病害虫防除の分野に貢献するとともに、今日の農薬の生態系影響評価研究へと繋がっている。また、酵素化学〜分子生物学へと発展した部分は、生物と化学物質の相互作用の解明として、現在の生物生態機能研究領域に引き継がれている。

2.2 生態系影響評価手法

近年、化学物質が生態系に及ぼす影響への意識が高まっており、農薬においても環境毒性を評価する手法の確立が求められた。農薬は登録時に OECD テストガイドラインに基づく水生生物毒性試験が義務付けられ、平成 17 年度改正の 「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準」 に基づき、魚類 (メダカまたはコイ)、甲殻類 (オオミジンコ)、藻類 (緑藻)への影響評価が行われているが、これらの指標生物は水田−河川を主体とする日本の水域環境を反映したものではない。水田除草剤に対する種々の藻類の感受性を検討したところ、生長阻害濃度は藻類種により大きく異なり、緑藻のみでは正確な評価が困難であるため、日本の優占種である付着性珪藻(けいそう)類、藍藻(らんそう)類の薬剤感受性を体系的に調査した(石原, 2008)。甲殻類についても、日本の河川に普遍的に分布するコガタシマトビケラを指標生物とし、その室内飼育法および農薬急性毒性試験法を確立した(Yokoyama et al., 2009ab)。各種化学物質の内分泌かく乱作用の簡易判別法として、メダカの性転換を検出できる試験系を開発した(堀尾、2005)。

農薬による種々の非標的生物への影響に関する研究も行われている。絶滅危惧(きぐ)種であるサンショウモの水稲用除草剤スルホニルウレア系薬剤に対する感受性は、OECD 推奨試験種の緑藻より著しく高い(Aida et al., 2004)。各種水稲用農薬のニホンアマガエル幼生に対する影響を感受性と有効成分の田面水中濃度から解析し、重篤な影響を与える可能性は低いものと推察した(大津ら, 2013)。

環境中に放出された農薬の生態系影響評価は、毒性評価と曝露(ばくろ)評価の組合せにより行う。水稲用除草剤の場合、河川水中濃度は河川に生育する種々の藻類の半数影響濃度 (EC50) より低く、河川における影響は小さい(石原, 2008)。除草剤の分解物についても、河川水中濃度が親化合物よりも高まることがあるものの、その濃度は藻類のEC50よりも低く、親化合物と同様に影響は小さい(Iwafune et al., 2012)。また、殺虫剤とその分解物についても、親化合物や分解物の河川水中最高濃度はコガタシマトビケラの EC50 よりも低く、水生節足動物への影響は小さい(Iwafune et al., 2011)。

従来の生態リスク評価法では、特定の指標生物に対する毒性値と河川水中濃度を比較し、安全か危険かの二者択一的結論を出していたため、本来確率で示されるべきリスクの大きさがわからなかった。そこで、農薬の毒性データの生物種によるバラつきと河川水中農薬濃度の地域的バラつきを統計学的に解析し、「影響を受ける生物種の割合(%)」 を計算することにより、生態リスクの大きさを定量的に表すことができる新たな解析手法を開発した(永井ら, 2008)。この方法を用いて農薬施用方法の違いが生態リスクに与える影響を評価したところ、本田散布殺虫剤 (フェニトロチオン) から育苗箱施用殺虫剤 (フィプロニル) への転換に伴い、全国レベルの生態リスクは 9.6 %から 0.1 %以下に減少する(Nagai and Yokoyama, 2012)。この手法により、様々な農薬のリスクの大きさの比較や、減農薬・施用法の改良等対策効果の定量的評価が可能となった。

3.有機化学物質の環境中での動態

3.1 農薬の農地内での消長と系外への流出

農地に施用された農薬の環境中での動態(運命)についても、薬効および作物への吸収移行の観点も含め、主要研究テーマとして取り組まれてきた。

水田に施用された各種殺虫剤のイネ体への移行、土壌残留および薬効について解析し、土壌吸着性農薬の効果低減を回避するための施用法を提示した(升田、1986)。農薬溶脱性試験法を考案し、これを用いて農薬の水田における下方移行性を推定した(Nose, 1984)。1990 年前後にはコンピューターの汎用化が進み、化学物質の物理化学的性質に基づく環境媒体中での挙動について、数理モデルによる計算・予測が行われるようになった。農薬の水田における挙動と種々の物理化学的特性との関係を解析し、平衡論モデルである Fugacity モデルを用いて大気、土壌、水、生物、懸濁質、底質の各相への分布率を推定した(金沢, 1992)。また、水田−河川環境における農薬の挙動を予測するモデル PADDY および PADDY-Large を開発した(稲生、2004)。現在では、地理情報システム (GIS)による河川流域特性の解析、および流域内での農薬の使用量・使用時期の反映により、農薬の河川水中濃度の季節変化を予測できる GIS 結合型 PADDY-Large モデルへと進化している(Iwasaki et al., 2012)。

農薬の動態制御技術も検討された。除草剤散布後の水田止水期間を7日間確保することにより、系外への流出を大幅に削減できる(石井ら, 2004)。除草剤散布1日後に吸着資材としてモミガラ成形炭粉末を水田に散布することで、除草効果を維持しつつ、薬剤の系外流出を 50 %削減させた(高木, 2004)。また、微生物を利用した土壌浄化技術にも取り組み、ゴルフ場農薬として問題となっていたトリアジン系除草剤シマジンの分解細菌群を木質炭化素材に集積させ、土壌下層に1cm厚で敷き詰めることにより、散布されたシマジンを吸着させ、そこで分解・無機化させる技術を開発した(高木, 2003)。

3.2 有機汚染物質の地球規模での拡散

有機化学物質の中には揮発性のものも多く、大気を経由した地球規模での汚染拡散が明らかとなってきている。オゾン層破壊物質として規制される臭化メチルの土壌から大気への放出フラックスを測定したところ、大気への放出割合は 32〜44 %と推定され、WMO (世界気象機関) の見積もりが過大評価であることを示した(小原, 1997)。また、インフラ未整備の地域でも大気モニタリングが可能なパッシブサンプラー法を開発し、東アジア各地域の大気中農薬 ・ POPs のモニタリングを行った。これを解析し、一部の物質がアジア大陸から日本に越境移動していることを示した(小原ら、2010)。農薬や POPs の地球規模での拡散を推定するため、Fugacity の概念による多媒体モデル (NIAES-MMM) を開発した。このモデルによると、1960〜70 年代に日本で使用されたPOPs農薬の一部は北極域にまで到達している(西森ら, 2010)。

臭化メチルは土壌燻蒸(くんじょう)剤として土壌病虫害対策に広範に用いられていたため、代替防除技術の開発が強く求められた。そこで、低濃度エタノールを利用した土壌還元消毒技術を開発した(小原, 2008)。

4.作物汚染の低減

4.1 ダイオキシン類

「ダイオキシン問題」 が 「食の安全・安心」 を揺るがす大きな社会問題となり、農作物・農地土壌の汚染実態や移行経路の解明、汚染軽減方策の提示が求められた。これを契機に、当所の有機化学物質研究は「食の安全」への貢献を目指したテーマが重点化された。

作物から検出されるダイオキシン類の異性体組成を解析し、汚染の移行経路を推定した。水稲中ダイオキシン類の異性体組成は大気中組成と類似し、土壌中組成を反映しないことから、主要な汚染源は土壌からの吸収ではなく、大気経由と考えられた(Kuwahara et al., 2002; Uegaki et al., 2006)。野菜や茶への移行も土壌粒子と大気粉じんの付着が主因であり、地上部はマルチ被覆やトンネル栽培により、根部(根菜)は皮層の除去(皮むき)により汚染が軽減される(殷・上路、2003)。農林水産省による農産物中ダイオキシン類の実態調査結果(1999−2002)を解析し、果樹(Seike et al., 2005)および穀類・豆類(Otani et al., 2006)の汚染実態は、その摂取量から考えて問題とするレベルにはないと推定した。

水田土壌中のダイオキシン類濃度は 1960 年代から急速に上昇し、1970 年前後をピークに現在まで緩慢に減少している。その起源については、1960〜70 年代は PCP 製剤と CNP 製剤の不純物が主な要因であり、近年は燃焼・焼却過程からの寄与割合が増加している(Seike et al., 2007)。ダイオキシン類の水田から河川への流出抑制対策についても検討し、代かき時に凝集剤として塩化カルシウムや塩化カリウムを施用することで、田面水中の SS が速やかに沈降し、SS に吸着したダイオキシン類の水田系外への流出を大幅に軽減できる(Makino et al., 2007)。

4.2 土壌残留性 POPs 農薬

「ダイオキシン問題」 が下火になるのと入れ替わるように、1970 年代に登録が失効していたドリン類やヘプタクロルなどの POPs 農薬の作物残留問題が顕在化した。この問題は、「食の安全」 のみならず、産地では出荷自粛や広範な土壌・作物調査を余儀なくされるなど、農業生産サイドにも多大な打撃を与えた。

各種作物をディルドリン残留土壌で生育させたところ、ディルドリンは地上部においてウリ科でのみ検出され、他科ではほとんど検出されないことから、ウリ科には根から地上部への特異的な POPs 輸送メカニズムが存在し(Otani et al., 2007)、これには 14 kDa 程度のタンパク様物質が関与している(Murano et al., 2010)。また、低吸収性台木品種の選定により、接ぎ木キュウリ果実中ディルドリン濃度を 30〜50 %程度低減できる(Otani and Seike, 2007)。POPs 吸着能に優れる活性炭を土壌に施用することで、残留ほ場で栽培したキュウリのディルドリン濃度を大幅に低減することが可能である(Saito et al., 2011)。

土壌残留 POPs の浄化技術として、バイオレメディエーションの研究が行われた。細菌 PD653 株(Nocardiodes属)は HCB を好気的に PCP に変換し、さらに脱塩素分解を経て無機化する(Takagi et al., 2009)。また、ディルドリンを好気的に分解する糸状菌(Mucor racemosus)も単離・同定されている(Kataoka et al., 2010)。

ウリ科野菜の POPs 汚染を事前に予測する土壌診断法として、土壌の 50 %メタノール・水抽出法を開発した(Sakai et al., 2009)。この方法により、異なる土壌種類であっても、栽培されるウリ科野菜の POPs 濃度の予測が可能となった(Seike et al., 2012)。

5.分析法の高度化

有機化学物質は環境中で様々に代謝され、また、極微量で毒性を発揮するものもあることから、基盤技術として分析法の高度化が必須となる。そこで、時々の最新の分析技術・機器を導入しつつ、目的に応じて高精度、あるいは簡易・迅速で汎用性の高い測定技術を開発してきた。

GC/MS を用いて主要農薬 140 種のマススペクトルを測定し、ライブラリーを作成した(飯塚・大崎、1992)。また、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いたHPLC/MS/MSにより、水稲用除草剤のスルホニルウレア系化合物を高感度で定量することが可能となった(石坂、1999)。農作物中の多成分の残留農薬をモニタリングするため、固層抽出法、ゲルクロマトグラフィーおよび活性炭・フロリジルミニカラムによる精製法を構築し、簡便かつ迅速な分析法を提示した(石井, 2004)。ELISA 法の作物残留農薬スクリーニング手法としての適用性を検討し、簡便かつ迅速なツールとしての有用性を示した(Watanabe , 2011)。作物残留農薬の簡易抽出法を検討し、水溶性農薬は水で、脂溶性農薬は 50 %アセトニトリルで定量的に抽出可能なことを示した。この方法では有機溶媒消費量が 60−70 %減量化され、さらに既存のクリーンアップ法、検出法との組合せにより簡便性、迅速性、汎用性に省溶媒化を付与した分析法を確立した(Watanabe et al., 2013)。米国、韓国、ドイツの研究機関との共同研究により、水系の POPs、農薬など合成有機化学物質の多成分一斉分析法を確立し、マニュアルを公表した(Eun, 2008)。

大谷 卓 (有機化学物質研究領域長)

引用文献リスト

農業環境技術研究所が1983年(昭和58年)12月に設置されてから2013年(平成25年)12月で30周年を迎えました。そこで、30年間のさまざまな研究の経過や成果をふりかえり、これからを展望する記事 「農業環境技術研究所の30年」 を各研究領域長等が執筆しました。2014年2月から順次、「農業と環境」に掲載しています。

「農業環境技術研究所の30年」 掲載リスト

(1)大気環境研究の系譜 (2014年2月)

(2)物質循環研究の系譜 (2014年3月)

(3)土壌環境研究の系譜 (2014年4月)

(4)有機化学物質研究の系譜 (2014年5月)(今回)

(5)生物多様性研究の系譜 (予定)

(6)生物生態機能研究の系譜 (予定)

(7)生態系計測研究の系譜 (予定)

(8)農業環境インベントリー研究の系譜 (予定)

(9)放射性物質研究の系譜 (予定)

(10)多面的機能研究の系 (予定)

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