前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.171 (2014年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

オランダ・ワーヘニンゲンUR訪問報告 (2)

「農業と環境」先月号 (No. 170,2014年6月1日)に引き続き、海外の研究機関との総合的な比較分析 (ベンチマーキング調査) を目的としたオランダ国ワーヘニンゲン大学・リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR:Wageningen UR)での訪問調査を報告します。今回は、ワーヘニンゲンUR内の環境研究所(Alterra)について報告します。

環境研究所(Alterra)

(写真)

写真 環境研究所(Alterra)の正面入り口
建物にはニックネームが付けられており、Alterraの本館(左側)は「Gaia」と呼ばれている。右側の畜産研究所(建物のニックネームはLumen)と共通の入り口である。

ワーヘニンゲンURは、農業工学・食品科学、動物科学、環境科学、植物科学、社会科学の5つの独立した科学グループにより組織されており、各科学グループは、ワーヘニンゲン大学(WU)の各学部と、これに関連する1または2の DLO 財団研究機関からなっています。このなかで、環境研究所(Alterra)は、ワーヘニンゲン大学の環境科学部とともに環境科学グループを構成しています。ワーヘニンゲンURの組織図はこちらをご参照ください

Alterra は、ワーヘニンゲンURへの統合のなかで 「緑の生活環境のための研究所」 として、2000年に設立された研究機関であり、緑地環境や、生活環境の持続的利用に関する領域において、応用研究と自然科学研究を組み合わせた研究を行っています。「Alterra」 という名称は、ユニークで、響きが良く、国際的で、省略されない名称という基準に基づいて、設立時に命名されたとのことです (インタビューのなかで、Kees Slingerland 所長は 「このことはトップシークレットである」 とおっしゃっていました)。

Alterra の研究課題

Alterra の職員数は約440名、そのうち常勤の研究者は約230名で、農環研よりもやや大きな規模の研究機関です。ワーヘニンゲン大学の環境科学部と密接に協力して、研究・教育に取り組んでおり、研究職員の約5%は大学での講義を行い、5名が学位授与権を持っているとのことです。

Alterraの研究職員は、次の4つの専門領域に所属しています。

また、実際の研究課題は、14のチーム (Team Alterra) により実施されており、農環研の「領域・センター−RP」と同様、「専門領域−Team Alterra」のマトリクス制を採用しています。表に示すように、農環研の10のRPと Team Alterra における14の研究テーマを比べると、多くの共通性が認められます。Team Alterra における研究課題の詳細やその成果についてはこちらをご参照ください

表 農環研リサーチプロジェクト(RPs:縦の欄)とTeams Alterraにおける14の研究テーマ(横の欄)の比較
研究テーマの共通性について、ほぼ一致するもの(◎)と部分的に一致するもの(○)を示す
  空間情報システム集水域管理地球観測と環境情報持続的土壌利用土壌物理と土地利用土壌地理植生・森林・景観生態動物生態土地管理ガバナンス自然と社会土地・水管理の気候変動適応環境リスク評価生物多様性と施策地域開発と空間利用
温暖化緩和策RP            
作物応答影響予測RP              
食料生産変動予測RP               
生物多様性評価RP            
遺伝子組換え生物・外来生物影響評価RP                
情報化学物質・生態機能RP                
有害化学物質リスク管理RP               
化学物質環境動態・影響評価RP          
農業空間情報・ガスフラックスモニタリングRP          
農業環境情報・資源分類RP          

Alterraの施設と研究環境

(写真)

写真 環境研究所 (Alterra) の建物内部中央ホール

(写真)

写真 畜産研究所と共有している 「Lumen 棟」 の中庭

ワーヘニンゲンURを訪問して、そのキャンパス全体や各研究機関が空間的にゆとりを持って配置され、デザインもとても 「おしゃれ」 であることを少しうらやましく思いました。Alterra の本館 「Gaia 棟」 も同様で、建物の中央は大きな吹き抜けの構造になっており、周囲に居室が配置されています(写真)。また、建物内共有部分の各所に小さなテーブルとイスが置かれ、職員のコミュニケーションが図れるように工夫されています。畜産研究所と共有している「Lumen棟」の中庭は巨大な温室になっており、「緑の生活環境のための研究所」そのものの研究環境を実践しているように思われました(写真)。

(写真)

写真 環境研究所 (Alterra) 内に設置された国際土壌照合情報センター (ISRIC) の土壌展示館

なお、Alterra は世界の土壌情報の中心機関である国際土壌照合情報センター(ISRIC)と2001年に連携協定を締結しました。その結果、現在、ISRIC はワーヘニンゲンUR環境科学グループの構成メンバーと位置づけられ、その組織と土壌展示館は Alterra の建物内に置かれています。本年4月に開館した (訪問時は開館前) 土壌展示館、はたいへんシンプルな作りで、来場者にタブレット端末を貸し出して展示土壌モノリスの詳細な解説を行うとのことです。

以上、2回にわたってワーヘニンゲンURとその内部研究機関である環境研究所(Alterra)の訪問調査の概要を報告しました。農業環境技術研究所では、今後も、業務の効率化と研究の発展のため、研究水準を比較するための国際的ベンチマークや海外機関及び国際機関等との連携を進めて行きます。

八木一行(研究コーディネータ)

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