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農業と環境 No.181 (2015年5月1日)
国立研究開発法人農業環境技術研究所

アジアモンスーン域における気候変化とその農業影響に関する第4回国際ワークショップ(3月 ベトナム) 参加報告

2015年3月10日から12日までの3日間、アジアモンスーン域における気候変化とその農業への影響に関する第4回国際ワークショップ (The Forth International Workshop of Climatic Changes and Their Effects on Agriculture in Asian Monsoon Region) が、ベトナムのハノイで開催されました。

このワークショップは、文部科学省の 「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス (GRENE)」 事業 (環境情報分野) の実施計画の一つである 「アジアモンスーン地域における気候変動とその農業への影響評価」 における東南アジアの研究者との交流の場を兼ねており、本事業における研究成果の発表と、アジアモンスーン各国の研究者との連携の推進について議論することを目的としました。

GRENE事業(環境情報分野)は2011年度から5年間の予定で実施され、その実施計画の一つである「アジアモンスーン地域における気候変動とその農業への影響評価」には、東京大学大学院農学生命科学研究科(代表研究者:溝口 勝 教授)をはじめ、首都大学東京、海洋研究開発機構、農業・食品産業技術総合研究機構(中央農業総合研究センター)、農業環境技術研究所が参画しています。

アジアモンスーン地域には世界の人口の6割以上が居住し、農業が各国の主要産業となっています。このような地域において起こり得る気候変動を適切に予測し、それに対する農業の適応策・緩和策を構築することは、とても重要な課題です。

実施計画においては、気候変動研究チームと農業影響研究チームが連携して、アジアモンスーン地域における将来気候予測の信頼度を高め、予想される気候変化に対する農業の適応策・緩和策を策定するために必要な基盤情報を構築することを目的としています。また、アジアモンスーン各国との研究交流を通して、気候変動に対する農業の適応策・緩和策の策定を現地において主導できる、若手研究者の育成もめざしています。

参加者の集合写真
写真1 会場での集合写真
100年前に建てられた歴史あるフレンチコロニアル様式の大学ホールが会場、背景にある絵は国内最大のもの

ワークショップには、実施計画の担当者と現地関係者を中心に、90名(日本人17名、フィリピン人8名、インドネシア人3名、タイ人2名、ベトナム人60名)の研究者や技術者が集まりました。とくに開催国のベトナムからは、ベトナム農業農村開発省水資源局、ベトナム気象・水文環境研究所、ベトナム農業環境研究所、タイグエン情報科学大学、ベトナム国家大学、ベトナム国家農業大学、カント―大学などから、数多くの関連分野の専門家(20名の学生を含む)が参加しました。農業環境技術研究所からは、4名の研究者(桑形恒男、須藤重人、滝本貴弘、松浦江里)が参加しました。

ワークショップでは、ベトナムにおける気候変動とその予測に関する2件の基調講演に引き続き、「アジアモンスーン地域の気候変動」と「アジアモンスーン地域の農業に対する気候変動の影響」をテーマとした2つのセッションが開催され、それぞれ21件と10件の研究成果が発表されました。大気中の温室効果ガス濃度上昇による地球温暖化は各地の気候に大きな影響をおよぼしつつありますが、東南アジア地域においては、近年、最低気温の上昇や降水パターンの変化などが生じ、それら気候の変化が農業に影響をおよぼしている事例が数多く報告されました。また農業気象モニタリング装置の管理のための情報センターがフィリピンで設立されるなど、ICT農業のプラットフォームが各地で整備されつつある状況も紹介されました。

ポスター発表をしたベトナムの学生たち
写真2 ポスター発表の会場

今回のワークショップでは、開催場所となったベトナム国家大学−ハノイ自然科学大学(VNU-HUS)の学生によるポスター発表が初めて実施されました。2012年から毎年開催している本ワークショップでの研究交流などを通して、東南アジア各国での若手研究者の人材育成が着実に進んでいるようです。

ワークショップ最終日には、ワークショップ参加者とともに、ニンビン省の地域水文気象センターを視察しました。ベトナム国内での水文・気象観測の体制や観測露場の測器などに関する説明を受け、現地での観測の重要性を再認識しました。

観測露場内の観測タワーと背景に広がるほ場風景
写真3 ニンビン省の地域水文気象センターの観測露場

今回のワークショップでは、将来予測される気候変動に対して持続的な農業生産を実施するためには、アジアモンスーン各国の研究者が密に連携し、情報を共有していく必要があることを、あらためて実感しました。次回の第5回国際ワークショップは、事業の最終年度にあたる2015年度中に、日本(東京)で開催されます。

(大気環境研究領域 桑形 恒男、滝本 貴弘)
(物質循環研究領域 須藤 重人、松浦 江里)

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