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農業と環境 No.181 (2015年5月1日)
国立研究開発法人農業環境技術研究所

第2回 Fireside Chat Nitrogen(窒素談話会)(3月 ドイツ) 参加報告

われわれヒトを含む生物の必須(ひっす)元素である窒素は、食料生産に不可欠な肥料成分でもあります。しかし、人間活動による大量の窒素肥料やエネルギーの使用が環境への窒素負荷*1を増やしてさまざまな環境問題を引き起こしています。これは窒素過剰がもたらす問題です (農業と環境 No. 180第32回土・水研究会開催報告 もご覧ください)。その一方で、アフリカのように、窒素肥料が手に入りにくく食料不足に常に悩まされている地域もあります。これは窒素不足がもたらす問題です。この両面をあわせて「窒素問題」と称します。

*1 窒素負荷:人間活動に伴って発生する反応性窒素(分子窒素を除く窒素化合物で、代表的なものはアンモニア、硝酸、窒素酸化物、および一酸化二窒素)が周辺環境に負荷されることです。負荷された反応性窒素はそのままとは限らず、さまざまに形を変えながら環境中を動き、それぞれのはたらきに応じて大気汚染、水質汚染、気候変動、成層圏オゾン破壊、富栄養化、および酸性化など多くの環境問題に関与します。この複雑な流れを窒素カスケードとも呼びます。

窒素問題の状況は国や地域ごとに異なります。そこで、食料生産に関する世界各地域の窒素問題の情報を共有し、問題解決の方向性を探ることを目的とした集会 「第2回 Fireside Chat Nitrogen」 が2015年3月26〜27日に開かれました。この集会は、大手総合化学メーカーの BASF が 国際窒素イニシアティブ(INI) の支援を受けて主催したものです。会場はドイツのアルベルスヴァイラーに BASF が保有する研修施設(ドイツ名も同じ意味の Studienhaus)でした。アルベルスヴァイラーはフランクフルト南南西のフランス国境近くに位置し、ワイン用ブドウが広く栽培されている山間の村です。

BASF Studienhausのメインビル(写真1)

写真1 BASF Studienhaus のメインビル

BASF Studienhaus の会議室棟(写真2)

写真2 BASF Studienhaus の会議室棟

BASF はハーバー・ボッシュ法によるアンモニア製造を世界で最初に始めた会社です.ボッシュは BASF の社員でした。ハーバー・ボッシュ法は窒素負荷の原因技術と言えなくもありません。しかし、窒素肥料がなかったなら世界は深刻な食料不足におちいっていたでしょう。ビジネスチャンスを動機に含むとしても、問題への関与を認識して解決責任を果たそうとする姿勢は大切です。余談ですが、ハーバー・ボッシュ法がドイツで生まれたことには相応の歴史的背景があり、その成功は先の二つの大戦にも関わります。その経緯は「大気を変える錬金術」(トーマス・ヘイガー 著、みすず書房)に、精緻に紹介されています。

話を Fireside Chat Nitrogen に戻します。この集会では、はじめにセミナー形式で各地域、化学産業、および国際的な取組みについて現状が報告されました。その後に地域グループに分かれたワークショップ形式で主要国の問題と解決策が議論され、最後に全員で要点を共有しました。各地域は、北米、南米、アフリカ、アジア、および欧州です。参加者は約60名でした。

以下に概要をまとめます。

北米(アメリカ):

Chet Ester 氏、Dave Franzen 博士、そして Jean Payne 氏からそれぞれ農業、科学、および政策面の報告がありました。

イリノイやノースダコタの主要作物はトウモロコシとダイズです。トウモロコシの平均収量は 15 t/ha、多収農家では 24 t/haという驚きの高さです。何しろ、品質重視のためとは言え日本のコメの平均収量は 5〜6 t/haですから。しかし、多収農家は 400 kg N/ha以上の窒素肥料を与えます。全体的にアメリカ式農業の窒素負荷は大きいそうです。

窒素肥料の種類が豊富な中で、無水アンモニアが一般的であることが特徴です。イリノイには無水アンモニアを供給するパイプラインまであるそうです。ハーバー・ボッシュ法で製造されるのはアンモニアですから、それをそのまま肥料にするのはコスト面で有利です。しかし、高濃度のアンモニアには毒性があります。また、そのまま地表にまくとガスのアンモニアとして大気に飛んでいってしまいますから、インジェクターという農業機械で土壌に注入します。

一般に、秋の収穫後に無水アンモニアや尿素を施用(せよう)して春の作付けに備えます。これでは冬の間に窒素の一部が失われて無駄になりそうです。なぜかと問うと、「習慣だから」との答えでした。いずこでも習慣を変えるのは大変なようです。肥料由来の硝酸態窒素が地下水に溶脱して起こる水質汚染を軽減するために、秋の施肥はなるべく量を減らして低温時に行い、さらに硝化抑制剤を併用する対策が効果的とのことでした。硝化抑制剤のコストは1エーカーあたり5ドル(1 haあたり約1500円)です。窒素問題の重要性を行政や市民に正しく伝えるのはアメリカでも難しいと述べていることが印象的でした。

南米(ブラジル):

Victor Campanelli 氏、Heitor Cantarella 博士、および Jean Ometto 博士から、こちらも農業、科学、および政策面の報告がありました。

Campanelli 氏の農場ではサトウキビとトウモロコシを栽培し、ウシを飼養しています。持続可能な生産に気を遣い、トウモロコシ残渣(ざんさ)はウシのえさとし、牛ふん堆肥をサトウキビに施用、また、かつては焼却処分していたサトウキビ残渣は焼かずに有機物として再利用します。この農場もそうでしたが、ブラジルでは不耕起栽培が一般的とのことです。

ブラジルの農業に伴う窒素負荷として、浸食、溶脱、アンモニア揮散、および一酸化二窒素の発生があげられます。不耕起栽培は雨の多い同国での浸食防止にも有効です。窒素肥料は何回かに分けて総量も少なく施用することが通常であり、加えて、土壌はオキシソル(正の荷電をもち硝酸イオンを吸着する性質がある)が多いことから、硝酸態窒素の溶脱は深刻ではないと説明がありました。ただし、近年は収量増をねらって施肥量が増え、状況が悪い方に変わりつつあるそうです。不耕起栽培では肥料を土ごと混ぜる全層施肥が行いにくいために、地表に肥料をまくだけの表層施肥が基本です。この場合は肥料からのアンモニア揮散が起こりやすく、不耕起栽培のマイナス面と言えます。しかもブラジルではアンモニア揮散を起こしやすい尿素が一般的な肥料のため、アンモニア揮散はもっとも重要な窒素負荷とされています。尿素分解酵素であるウレアーゼの阻害剤をまくとアンモニア揮散を抑制できるもののコストがかかります。農地あたりの一酸化二窒素の発生量は世界平均よりも少なく、それはオキシソルの排水性がよいことと蒸発散が大きいために一酸化二窒素が生成しやすい嫌気条件になりにくいからと解釈していました。

政策面では、統計などの基礎情報や下水設備の不足が課題とのことです。南米の農地は世界の農地の11%(2010年)に相当し、コーヒーとサトウキビの生産量は世界の半分以上を占めます。2030年には農地からのアンモニア揮散が世界の40%以上に達するとの試算を紹介し、南米での食料生産に伴う窒素負荷は今後ますます大きな問題になるとの懸念が示されました。

アフリカ:

国際熱帯農業研究所(IITA)の Cargele Masso 博士より、窒素不足の典型としてサブサハラアフリカ(サハラ砂漠より南側の地域)の事情が紹介されました。農家にとって肥料はそもそも高価すぎて手が出せません。産業面ではインフラストラクチャ―の不足と輸送コストの高さがネックです。科学面(とくに農学)では、肥培管理の悪さによる低収量の克服が必須です。コストのかからない生物的窒素固定の利用が有効であり、たとえば、窒素固定細菌と共生するラッカセイなどマメ科作物を栽培ローテーションに取り込むことや窒素固定菌を含むコーティングを施した種子をまくなどの技術があります。政策面では、効果的な補助金、品質基準の確立、小規模農家の教育、融資の取り付け、輸送インフラの構築、収益性を担保しつつ持続可能な土地利用、土地の長期的な保有、そして、排水処理の整備など多くの課題があげられました。サブサハラアフリカは窒素だけでなくリンやカリウムを含めて世界でもっとも肥料が不足している地域です。窒素施肥の目標である 50 kg N/haをどの国も達成できていません。最高の南アフリカでも 45 kg N/haであり、大半が 10 kg N/ha以下で、ニジェールやマリはほぼゼロです。このように農地には窒素が足りないのに、アフリカ最大の湖であるビクトリア湖の一部は富栄養化しているという異常な事態が生じています。生活排水も一因と思われますが、不適切な農地管理が浸食を引き起こし、湖に流れ込む農地土壌が富栄養化や水質汚染をもたらしているのです。

アジア:

Deli Chen 博士(オーストラリア)、Tapan Adhyas 博士(インド)、および Fusuo Zhang 博士(中国)から話題提供がありました。

オーストラリアはアジアなのかと突っ込みが入りましたけれど、今回の地域区分の中でオーストラリアともっともつながりが強い地域はアジアでしょう。オーストラリアの主産物はコムギ、ワタ、ウシ、およびヒツジで、生産物の75%が輸出向けです。窒素利用効率 (投入した窒素肥料が生産物に留まる割合;家畜の場合は飼料を経由して) は、コムギとワタで50〜80%、酪農で30〜40%、牛肉や羊肉で50%とのことでした。家畜の窒素利用効率がずいぶん高いと感心したところ、むしろ日本の窒素利用効率が低すぎると言われました。一見成功しているオーストラリアの農業ですが、自由市場、農業生産への補助金なし、グレートバリアリーフのような一部地域を除き環境保全への法規制なし、そして、降水の多少が作物生産を強く左右するという不安定要因があります。2006年の大干ばつではコムギの不作により日本にも大きな混乱が生じました。食料生産に伴う窒素負荷は大きく、その実態の解明が必要です。また、施肥量の決定を支援するシステム、科学に基づく窒素負荷の判断指標 (たとえば、窒素フットプリント*2)の開発、そして、緩効(かんこう)性肥料の有効活用が重要とのことでした。

インド国内の各地方では窒素・リン肥料の使用状況が大きく異なるそうです。とくに西側では沿岸域の富栄養化が問題になっています。食料生産を維持しつつ、窒素利用効率の向上と環境への窒素負荷の削減を達成するための意識改革が必要と主張していました。窒素利用効率の向上には作物の遺伝子型/表現型の双方の有効活用が重要であること、また、インドで発生する一酸化二窒素の75%は肥料由来であり、硝化抑制剤を用いた発生抑制が効果的であると述べました。インドでは国内の窒素アセスメントを準備中であり、さらに、ベンガル湾で始めた多国間プロジェクトを取り掛かりとして、周辺国を合わせた南アジアの窒素アセスメントも視野に入れているそうです。

中国では農地への過剰な窒素施肥が問題です。たとえば、水田では日本の約3倍です。なぜそんなにたくさんまくのでしょうか。それが政策だからです。生産増大による食料安全保障という政策の下、窒素肥料の製造と使用に補助金が設けられています。また、農家への施肥指導が不十分なことも一因です。過剰施肥の80%を占める小規模農家(生産全体の20%)への対策がとくに重要とのことです。とある実験では、農家への指導で施肥量を18%減らせ、科学者が実地で指導を行うと35%減らせたものの、指導後はじわじわと元の水準に戻ってしまったそうです。環境の現状は悪く、富栄養化、大気汚染、土壌酸性化が深刻化しています。たとえば、1980年代から2000年代の20年間で土壌pH が 0.3〜0.8 低下しました。環境の改善には、正しい政策、地域ごとの施肥の最適化、効率的な施肥技術、堆肥や有機物の再利用、緩効性肥料の活用、および土壌の質の改善が必要とのことです。具体的な政策として、肥料製造業者への補助金が廃止される見込みだと紹介がありました。肥料が大量に製造されればまきたくなるのが人情ですから、これはかなり効果があるでしょう。また、農家への補助金を価格保証から窒素利用効率保証に切り替えていくことも提言しているそうです。ただし、環境保全のみでは政府は動かず、生産性の向上が必ず求められます。中国ではダイズもトウモロコシも輸入が増えているそうです。その方が安いからです。中国の国内生産では化学肥料や農薬の投入量が多くコストがかさむことも効いているかも知れません。「だれが中国を養うのか?」というレスター・ブラウン博士の著作がありましたけれど、約14億人の人口を擁する中国が食料輸入に強くシフトすると、日本の食料政策にも大きな影響が及ぶでしょう。

*2 窒素フットプリント:フットプリントは「足跡」を意味します。ここでは、ある主体(個人、機関、あるいは国)の活動がどれだけの窒素負荷をもたらしているのかをあらわします。個人の場合は、日々の食品の選択やエネルギー利用のあり方が窒素フットプリントに反映されます。窒素問題の認知度を高めるツールとして、また、ライフスタイルの見直しによる窒素負荷の削減を評価可能な指標として、窒素フットプリントへの関心が高まりつつあります。詳細は こちら(http://www.n-print.org/) をご覧ください。

欧州:

ドイツの Wilfried Hermann 氏の農場では、冬コムギ、ライムギ、オオムギ、ナタネ、ビーツ、トウモロコシ、エンドウマメなどさまざまな作物を栽培しています。ドイツでは高収量を目標に最適な施肥量を決定する支援サービスが普及しています。たとえば、冬コムギでは 160〜220 kg N/haを2〜4回に分けて施肥します。大規模農家では窒素関連センサーや全地球測位システム(GPS)を用いた施肥量可変式の施肥技術が浸透しているそうです。ただし、土地を借りれば高くつき、化学肥料も高いそうです。窒素施肥にはさまざまな法規制があり、施肥を禁じる水質保護エリア、河川から一定距離(たとえば 5 m)以上離すこと、有機肥料の制限、秋季の施肥は冬作物のみに限定などが定められているそうです。

Jan Willem Erisman 博士と Oene Oenema 博士からは欧州連合(EU)全体の状況について報告がありました。EU 27か国では農業が窒素負荷の主因であり、化学肥料や堆肥の施用量は地図化され、余剰窒素量の推計も行われています。諸対策の結果、人為的な窒素投入と環境への窒素負荷の発生は1980年ごろに頭打ちとなり、2000年にはかなり削減できたそうです(窒素負荷では農業由来のアンモニアとエネルギー消費由来の窒素酸化物の双方)。諸対策に要する費用とその効果の解析を常に行っていることが重要です。ただし、EUは一様ではありません。状況が改善したとはいえ、さらなる改善が必要な国と、とくに変化はないが変化する必要がない国があります。それを承知でまとめると、EUの窒素利用効率は作物で52%、畜産物で20%、農業全体として32%とのことでした。欧州は世界にさきがけて窒素問題に取り組んできたことから、窒素管理システムは円熟の域にあります。つまり、政府の関与は減って農家および産業が自発的に取り組むようになり、科学では窒素管理の研究が減りつつあるそうです。それもあって欧州の研究者は国際研究を志向するのでしょう。

Till Spranger 博士と Marco Bonetti 氏からは行政面の話題提供がありました。EUでは、国連欧州経済委員会の長距離越境大気汚染条約の議定書群に代表されるように、環境保全に関する実に多くの法規制があります。たとえば、水質に関しては水政策枠組み指令、海洋戦略枠組み指令、都市排水処理指令、および硝酸塩指令があり、大気質に関しては産業発生指令など産業分野の規制、交通分野の規制、大気質枠組み指令、国別排出量上限指令があります。大気質では今後も新ヨーテボリ議定書(2020年以降)や国別排出量削減義務指令(2030年以降)などの規制強化が計画されているそうです。施肥や自然保護に関する規制もあります。そして、各国独自の規制もかかります。ここまで縛りが多いと費用対効果の総合評価が不可欠です。つまり、単独規制あるいは複数規制の組合せの効果は対策費用に見合うものであるのか、という冷静な評価とその結果のフィードバックです。やりっ放しではいけません。

化学産業:

BASF の Markus Schmid 博士より、作物生産の窒素利用効率を高め、窒素負荷を一貫的に減らす製品群の紹介がありました。たとえば、肥料として尿素を施用すると最初にアンモニアが発生し、その一部が硝化によって硝酸となります。硝酸の一部は脱窒によって最終的に分子窒素になります。ただし、硝化の副産物および脱窒の中間産物として一酸化二窒素が発生します。これらの窒素負荷を各段階の阻害剤で減らします。つまり、ウレアーゼ阻害剤でアンモニア生成を抑制し、硝化抑制剤で硝酸生成を抑制します。ほかにも、カビ由来の一酸化二窒素の発生を抑える殺菌剤、接種材料としての窒素固定菌、有機肥料の肥効を高める添加剤の紹介がありました。さすがハーバー・ボッシュ法の発祥地だけあって、農業における一貫した窒素管理への矜持(きょうじ)を感じました。

国際的な取組み:

INI の代表である Mark Sutton 博士より、窒素問題に関するさまざまな国際プログラムや国際プロジェクトの紹介がありました。たとえ個々の規模が限定的でも連携して集まれば重みを増すとし、それを転がることで大きくなっていく雪玉になぞらえていました。雪国育ちの私には分かりやすい例えです。窒素に関する国際的な取組みは、とくにここ近年で加速しています。以下に、おもな取組みをまとめます。詳細はリンク情報を参照ください。

集会の2日目の午前は各地域に分かれてのワークショップでした。私はアジアグループに参加しました。イギリス人である Mark Sutton 博士もアジアに関心があったのか、アジアグループに参加していました。議論は食料生産に限定するというルールのため、個人的に日本の重要な課題と認識している食料・飼料の輸入依存性や食品ロスを取り上げられなかったのは残念でしたが、私からは耕畜連携 (たとえば、作物残渣を飼料や敷料(しきりょう)として家畜生産に、家畜排せつ物を有機肥料として作物生産に、という循環利用) の促進と環境保全型農業 (とくに化学肥料の減肥) の重要性を指摘しました。また、水を張って嫌気化する水田では脱窒が促進されることから、水田は硝酸態窒素の除去能が高く、しかも一酸化二窒素の発生が少ない、これは畑とは大きく異なる重要な利点なのだと強調しておきました。しかし、どうも欧米の方々にはこの話がよく伝わらないようです。ひと夏ぐらい水田での研究を経験するとよいのかも知れません。

ワークショップ(アジアグループ)のようす(写真)

写真3 ワークショップ(アジアグループ)

ワークショップのまとめ(アフリカグループより)(写真)

写真4 ワークショップのまとめ(アフリカグループより)

さて、堅い話ばかりでは疲れますね。Fireside Chat とは「炉辺での雑談」です。会場は普通の会議室でしたから、「炉辺はどこだい?」とからかう参加者もいました。しかし、そのタイトルに違わず、懇親会はそんな雰囲気の暖炉の間で催されました。暖炉は本物ではなくガスをそれらしく燃やすものでしたけれど。懇親会のテーマは 「ワインとチョコレート」。アペリティフに続き5種類のワインとそれぞれに合う(と司会者が主張していた)チョコレートが振る舞われました。とある白ワインには日本産の抹茶チョコを合わせてきました。最後に出てきた BASF 150周年記念ボトルの赤ワインがとくに美味でした。開催地一帯はドイツワインの産地なのですが、ドイツは赤ワイン作りには向かないようで、この記念ボトルはポルトガル産なのでした。

集会2日目の午後は私にとっての主目的であったINMS(国際窒素管理システム)の会合でした。その後は皆でフランクフルトに移動し、いかにもドイツらしいレストランで晩餐(ばんさん)となりました。伝統的な肉料理の盛り合わせをシェアすることに決め、ビールを頼むと、うちではワインを飲めと断られてしまいました。冗談かと思えば本当にビールがないのです。ワインのほかには珍妙(ゴホン)な味のアップルワインしかありません。晩餐はとても楽しかったのですけれど、ホテルに戻ったあとに同じ気分の人たちとビールを飲み直しました。当然です。

フランクフルトでの晩餐(写真)

写真5 フランクフルトでの晩餐(開始前)

ワークショップのまとめ(アフリカグループより)(写真)

写真6 肉のプレート
(オランダ、ブラジル、ブルンジ、日本の4人で平らげました)

翌日は帰国便までの時間をフランクフルトの散策にあてました。レーマー (その名のとおりローマ軍の駐屯から始まったとされるフランクフルト旧市街の中心部) は長い歴史を感じさせるたたずまいでした。しかし、この一帯は第二次世界大戦の空襲で徹底的に破壊された場所です。まだ冷たい春風に吹かれながら考え込んでしまいました。窒素の獲得がまさにそうだったのですが、資源をめぐる競争が戦争にいたるわれわれヒトの営みとは何なのでしょう。

フランクフルト旧中心部レーマー(写真)

写真7 フランクフルト旧中心部レーマー

マイン川と新旧ランドマーク(バルトロメウス大聖堂と摩天楼群)(写真)

写真8 マイン川と新旧ランドマーク
(バルトロメウス大聖堂と摩天楼群)

(物質循環研究領域 林 健太郎)

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