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農業と環境 No.181 (2015年5月1日)
国立研究開発法人農業環境技術研究所

農環研研究職員に日本農薬学会論文賞

農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域の元木 裕 研究員、清家伸康 主任研究員、大谷 卓 有機化学物質研究領域長らの共著論文が、平成27年日本農薬学会論文賞を受賞しました。

この賞は、日本農薬学会の会誌に掲載された報文の中から、農薬の科学・技術の面で優れた研究論文に授与し表彰するものです。

受賞論文の概要は以下のとおりです。

Effects of organic carbon quality on the sorption behavior of pesticides in Japanese soils
(土壌有機炭素の質の違いが農薬の土壌吸着に及ぼす影響)

元木 裕、岩船 敬、清家 伸康、大谷 卓、浅野 眞希
Journal of Pesticide Science, 39 (2), 105-114 (2014)

土壌吸着は農薬の環境動態を把握する上で重要な指標の一つであり、その強弱を表す土壌吸着係数 (Kd) は、農薬による地下水汚染や水田から河川への農薬の流出量を予測する数理モデルに用いられています。

非イオン性農薬の土壌吸着には、土壌中の有機炭素が重要な役割を担っており、Kd値と有機炭素含量の間に正の相関関係が成り立つことが知られています。しかし、Kd値を有機炭素含量で除して補正した土壌吸着定数 (Koc) は土壌間で大きな変動を示すことから、有機炭素の“量”だけではなく“質”に着目する必要があると考えました。

そこで本研究では、Kocの変動要因を有機炭素の“質”、すなわち化学組成の観点から解析するため、供試土壌を固体13C NMRで分析しました。その結果、土壌間で最も大きなばらつきを示した炭素組成が芳香族炭素であり、各土壌の芳香族炭素の割合とKoc値の間には有意な正の相関関係が認められました。また、芳香族炭素の割合が高い土壌では、農薬の分子構造の違い(分子の平面性および芳香環の有無)によって土壌吸着が大きく変動し、その傾向は活性炭およびグラファイトカーボンに対する農薬の吸着と同様であることが明らかになりました。以上より、農薬の土壌吸着の変動要因として土壌中の芳香族炭素、特にブラックカーボン(黒色炭素)が関与している可能性が示されました。

この研究で、これまで明らかにされてこなかった日本土壌におけるKocの変動要因を、有機炭素の“質”の違いに着目して解析したことが学会で評価されました。

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