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農業と環境 No.185 (2015年9月1日)
国立研究開発法人農業環境技術研究所

第3回 農牧林統合システム世界会議(7月 ブラジル) 参加報告

2015年7月13日から17日まで、ブラジルの首都ブラジリアにおいて第3回農林牧統合システム世界会議( WCCLF, World congress on integrated crop-livestock-forest systems ) が開催されました。この会議に農業環境技術研究所から岸本(物質循環研究領域 主任研究員)と白戸(農業環境インベントリーセンター 上席研究員)が出席したので、会議のようすを報告します。

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写真 会場となったコンベンションセンターと会議のようす

農牧林統合システムとは、アグロフォレストリーなどのように、林地の下に牧草を植えて牛を放牧する、あるいは作物と牧草を輪作し、作物収穫後に牛を放牧するなど、同じ土地から異なる種類の生産物を得る農法を指しています。この会議は、そのような農法に関心を持つ研究者が集まって最新の研究成果を共有し議論することを目的としています。口頭発表が約70、ポスター発表が約350、参加者は500人を超えたとのことでした。会議は英語で行われましたが、開催国ブラジルからの参加者が多いため、ポルトガル語でのブラジル人向けのセッションもありました。南米での開催ということもあり、アジア地域からの参加者は非常に少なく、日本からの参加者は私たち2名だけでした。

発表の多くは、各地の成功事例の紹介や、そのメリットに関するものでしたが、生産性や経済性だけでなく、土壌への炭素貯留や温室効果ガス発生の緩和、さらには生物多様性の保全など、環境保全や持続性の観点から農法を評価するものも多くありました。

アグロフォレストリーなどの統合システムは、どちらかというと熱帯諸国でさかんですが、日本ではそれほど普及しているとは言えません。教科書で知っているだけという人も多いと思います。この状況は米国などでも同様のようですが、EU が大々的にプロジェクトを開始したという発表があり、欧米の温帯先進国でも重視され始めていることが印象に残りました。また、同じ土地に樹木と牧草や作物が共存する事例だけでなく、近接する土地で複数の品目が別々に生産されている場合も地域レベルの統合システムとみなすという発表もあり、日本における里山や耕畜連携、地産地消なども広義の農牧林統合システムといえることに気づきました。

農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(GRA)が共催したセッション「農牧林統合システムにおける温室効果ガスの実用的な定量法」が開かれ、白戸が口頭発表 「土壌炭素、メタン、一酸化二窒素の全国シミュレーションによる温暖化緩和ポテンシャルの推定」 を、岸本がポスター発表 「日本の黒ボク土の野菜畑における豚ぷん堆肥の連用が一酸化二窒素の発生に及ぼす影響」を行いました。このセッションには、土壌炭素貯留や温室効果ガスに関心を持つ研究者が多数参加し、活発な議論が行われました。農牧林統合システムには、生産性、経済性、持続性など、さまざまな可能性が秘められています。しかし、まだ研究事例が少ないため、メリットを定量的に示すためにはこれからもデータの蓄積が求められます。

開催期間中に行われたフィールド見学では、ブラジルのセラード(サバンナ)の典型な景観とともに、いくつかの農林牧統合の現場を訪れました。教科書の写真でしか知らなかったものの実例を見ることができ、すばらしい体験となりました。

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写真 フィールド見学でのスナップ写真。中央は植林地の下で放牧される牛。

ブラジリアは1960年に計画的に建設された人口的な都市で、ホテル、行政機関、居住区などがはっきりと区別されているため生活感がなく、今まで訪れたどの街とも違う、特殊な雰囲気を持つところでした。国会議事堂や大聖堂など主要な公共建築物は独特の未来的なデザインで作られており、世界遺産にも登録されている街並みをジョギングなどしながら楽しむことができました。

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写真 ブラジリア市内のスナップ写真

国際土壌年の展示コーナーなど(写真)

今年2015年は国連が定めた「国際土壌年」であるため、この会議でも特別コーナーでの展示やステッカーの配布など、国際土壌年のPRが行われました。

白戸康人 (農業環境インベントリーセンター)
岸本文紅 (物質循環研究領域)

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