前号へ 総目次 総索引 検索 研究所 次号へ (since 2000.05.01)

情報:農業と環境
No.41 2003.9.1

No.41

・世界の環境問題と国内の農業環境問題の流れ(付表)

・農業環境技術研究所案内(11):古書 その2
      「農家益(のうかえき)」・「書言故事(しょげんこじ)」

・サイエンスキャンプ2003が開催された

・シンガポール:森林伐採に続く野生生物の破局的な絶滅

・イングランドの休耕地が農業と生態に及ぼす影響

・本の紹介 127:土壌の神秘−ガイアを癒す人びと−、
      ピーター・トムプキンズ、クリストファー・バード著、
      新井昭廣訳、春秋社(1998)

・本の紹介 128:地球の水が危ない、
      高橋 裕著、岩波新書(2003)

・本の紹介 129:バカの壁、養老孟司著、新潮社(2003)

・資料の紹介:驚異的なシアナミド新説を考える、
      石灰窒素だより、No.138(2003)

・資料の紹介:循環型社会特別委員会報告、
      「真の循環型社会を求めて」、
      日本学術会議循環型社会特別委員会(2003)

・資料の紹介:循環型社会白書のあらまし、
      官報資料版3664号(2003)

・研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画
     「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006)の決定
      −その5−


 
 

世界の環境問題と国内の農業環境問題の流れ(付表)
 
 
 世界の環境問題は、1962年に発行されたレイチェル・カーソンの名著「沈黙の春」に始まるといっても過言ではないだろう。その後、1970年にOECD(経済協力開発機構)の環境委員会が、さらに1972年にはUNEP(国連環境計画)が設立された。1982年の国連環境計画管理理事会特別会合では、世界の環境の保全と改善を訴えた「ナイロビ宣言」が採択された。
 
 また、オゾン層保護のための「ウイーン条約」が、1985年に締結された。1989年には、有害廃棄物の国境を越える移動および処分の規制に関する「バーゼル条約」ができた。さらに1990年には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、第一次報告書を作成し地球温暖化の問題を提起した。続いて1993年には、OECDに「農業と環境」合同作業部会が設置されるに至った。
 
 1992年の「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」を契機に、「持続可能な開発」が世界中のキーワードになった。この地球サミットでは、持続可能な開発に向けた行動計画である「アジェンダ21」が採択されるとともに、「気候変動枠組み条約」、「生物多様性保全条約」および「森林原則声明」が採択された。
 
 1996年には、カーソンの志を継いだシーア・コルボーンらが「奪われし未来」を世に問うた。これは、われわれ人類が造った化学物質そのものが、食物連鎖を通してわれわれの身体を蝕(むしば)み、さらにその影響が世代を越える環境問題に発展しているということを指摘した書であった。
 
 その後、1997年には温暖化防止京都会議が開催され、温暖化の問題は年を経るたびに大きな潮流となっている。また、ダイオキシン、組換え体作物、カドミウムなど様々な環境問題が浮上し、21世紀を迎えることになる。
 
 21世紀初めの2001年には、「POPsに関するストックホルム条約」が締結された。また「持続可能な開発−ヨハネスブルグ世界サミット」が、10年ぶりの2002年に開催された。2003年には「第3回世界水フォーラム」が開催され、新たに世界の水枯渇の問題が広く認識されるところになった。
 
 このような世界の環境問題の流れに、国内の農業環境研究はどのような対応をしてきたのであろうか。この資料は、その疑問に答えるためにまとめたものである。環境研究を推進するうえで、この資料が何らかの参考になれば幸いである。
 

 
 付表
農業環境問題と研究の流れ
 


国際

国内

農業環境技術研究所
 

2003(平15)

 

・第3回世界水フォーラム(3月)

 

・内閣府に食品安全委員会設置(7月)
・遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律成立(6月)
・自然再生推進法施行(1月)

・環境研究機関連絡会成果発表会「環境研究の連携をめざして」(7月)
・日中韓国際ワークショップ「東アジアの農業生態系における物質循環と環境影響評価」(3月)

 

2002(平14)

 

・持続可能な開発ヨハネスブルグ 世界サミット(WSSD2002) (8-9月)

 

・バイオテクノロジー戦略大綱(12月)
・農薬取締法改正(12月)
・米政策改革大綱(12月)
・中央環境審議会 遺伝子改変生物の生物多様性影響防止に関する中間答申(9月)
・京都議定書批准(6月)
・地球温暖化対策推進法改正(6月)
・土壌汚染対策法(5月)
・生物多様性国家戦略改訂(3月)
・地球温暖化対策推進大綱改訂(3月)

・中国科学院土壌科学研究所とのMOU(7月)
・農業環境技術研究所研究成果発表会(4月)


 

2001(平13)

 

・COP6再開会合(7月)〜COP7開催,議定書実施ルール合意(10-11 月)
・POPsに関するストックホルム条約(5月)
・IPCC 地球温暖化第3次評価報告書


 

・BSE感染牛を初めて確認(9月)
・食品リサイクル法 施行(4月)
・新科学技術基本計画(3月)
・中央省庁再編(1月)
 環境省 発足
 内閣府に総合科学技術会議 設置

・環境研究機関連絡会発足(10月)
・韓国農村振興庁農業科学技術院とのMOU(10月)
・独立行政法人農業環境技術研究所 設立(4月)
・農林水産省農業環境技術研究所 廃止(3月)

2000(平12)

 

・CODEXバイテク応用食品特別部会設置
・バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書採択(1月)
・WTO農業交渉で農業の多面的機能の論議


 

・加工食品への未認可GM混入(10-11月)
・ダイオキシン類環境基準(7月)
・循環型社会形成推進基本法(6月)
・食料・農業・農村基本計画(3月)
・有機JASマーク制定(3月)
・農水省 遺伝子組換え農作物環境安全性検討専門委員会設置(2月)

・環境研究三所連絡会発足(12月)
・環境化学物質分析施設完成
・公式ホームページに「情報:農業と環境」掲載開始(5月)


 

1999(平11)

 

・CODEXオーガニック農業基準合意
・ベルギー ダイオキシン汚染事件
・Btトウモロコシのオオカバマダラへの影響の論文
・世界人口60億人
・OECDが農業の多面的機能の検討作業開始


 

・農林水産研究基本目標(11月)
・東海村JCO臨界事故(9月)
・農業環境3法(持続農業法,家畜排泄物法,肥料取締法改正)(7月)
・ダイオキシン類対策特別措置法(7月)
・食料・農業・農村基本法(7月)
・中央省庁等改革関連法(7月)
・農作物ダイオキシン汚染報道(2月)

・独立行政法人 農業環境技術研究所準備委員会(11月)
・農作物中放射性物質の緊急調査(10月)
・農業環境技術研究所推進方策委員会(3月)
・農業環境技術研究所将来方向検討会(1月)


 

1998(平10)

 

・WHO ダイオキシンTDI見直し
・COP4 ブエノスアイレス行動計画


 

・地球温暖化対策推進法(10月)
・食料・農業・農村基本問題調査会 答申
・農政改革大綱
・地球温暖化対策推進大綱(6月)
・中央省庁等改革基本法(6月)


 

1997(平9)

 

・温暖化防止京都会議(COP3)
 京都議定書採択
・OECD 農業環境指標の枠組みできる


 

・環境保全型農業推進憲章
・環境影響評価法
・地力増進基本指針 改正
・環境ホルモン 中間報告
・地下水の水質汚濁に係る環境基準


 

1996(平8)

 

・コルボーンら「奪われし未来」
・世界食料サミット
・遺伝子組換え作物の商業生産開始
・APN(アジア太平洋地球変動研究ネットワーク) 発足

・有機農産物・特別栽培農産物表示ガイドライン(12月)
・水質汚濁防止法 改正
・大気汚染防止法 改正
・農水省研究基本目標
・科学技術基本計画

 

・OECD農業環境評価指標策定に向けたプロジェクト研究を開始
・研究基本計画 策定


 

1995(平7)

 

・先進国のフロン,臭化メチル全廃
・IPCC第2次評価報告
・世界貿易機構(WTO)発足
・環境分野に初のノーベル賞

・環境保全型農業総合推進事業
・農業基本法研究会
・食糧管理法廃止,新食糧法施行
・科学技術基本法施行
・生物多様性国家戦略

・公式ホームページ開設

 

1994(平6)

 

・気候変動枠組み条約発効
・砂漠化対処条約

・環境基本計画決定
・環境保全型農業推進本部 設置


 

1993(平5)

 

・OECD 「農業と環境」合同作業部会設置,農業環境指標検討開始
・ウルグアイ・ラウンド農業合意


 

・アジェンダ21行動計画
・環境基本法
・大冷害,米輸入部分開放
・有機農産物表示制度
・特定農山村法
・窒素、リンの水質汚濁防止法排出基準
・生物多様性条約批准


 

1992(平4)

 

・リオデジャネイロ地球環境サミット(国連環境開発会議)
 アジェンダ21採択
 リオ宣言
 森林保全の原則声明
 生物多様性条約
 気候変動枠組条約

・農水省環境保全型農業対策室
・農林水産省新政策公表 (環境保全型)


 


 

1991(平3)

 


 

・土壌の汚染に係る環境基準
・地球環境モニタリング計画
・レッドデータブック
・通産省 公害資源研究所を資源環境技術総合研究所に改組

・遺伝子組換え植物隔離ほ場を日本で初めて設置

 

1990(平2)

 

・IPCC 第1次評価報告書
・シャロン・ローン 「オゾン・クライシス」


 

・農林水産基本目標
・環境庁 国立公害研究所を国立環境研究所に改組
・地球温暖化防止行動計画
・地球科学技術基本計画

・地球環境研究チーム設置
・研究基本計画 策定


 

1989(平元)

 

・CGIAR 「持続可能な農業生産」
・有害廃棄物規制バーゼル条約
・北極にオゾンホール
・特定フロン全廃ヘルシンキ宣言

・農水省有機農業対策室
・農林水産分野組換え体利用指針策定


 


 

1988(昭63)

 

・環境と農業EC委員会
・IPCC(気候変動政府間パネル)設置,IGBP発足
・窒素酸化物排出抑制 ソフィア議定書
・米 LISA研究プロジェクト開始

・オゾン層保護法

 

・情報システム研究室と生物情報計測研究室を新設

 

1987(昭62)

 

・WCED報告 「地球の未来を守るために」
・オゾン層破壊物質モントリオール議定書
・世界人口50億人


 

・絶滅野生動植物譲渡規制法
・特別栽培米制度
・農林省が組換え体安全性評価のプロジェクト開始
・科学技術会議答申「国立試験研究機関の中長期的あり方について」

・遺伝子組換え体安全性評価研究を開始

 

1986(昭61)
 

・チェルノブイリ原発事故


 

・チェルノブイリ放射能汚染緊急調査

1985(昭60)

 

・FAO 熱帯林行動計画
・オゾン層保護ウイーン条約
・ヘルシンキ議定書


 

・研究基本計画 策定

 

1984(昭59)

 

・環境と開発に関する委員会(WCED) 発足

 

・湖沼水質保全特別措置法
・世界湖沼環境会議開催
・農水省バイテク室設置
・地力増進法


 

1983(昭58)

 


 

・農林水産研究基本目標
・農業技術研究所 廃止

 

・農林水産省 農業環境技術研究所 設立(12月)

1982(昭57)

 

・UNEP特別会議ナイロビ宣言
・南極でオゾンホール発見
・遺伝子組換え植物の作成

・緑資源の維持・培養と環境保全の論議

 


 

1981(昭56)

 

 

 

1980(昭55)

 

・米政府調査報告「西暦2000年の地球」(地球温暖化・種の消滅を警告)

 

・過疎地域振興特別措置法
・ワシントン条約,ラムサール条約加入
・農業技術研究所ほか11試験研究機関が筑波農林研究団地に移転


 

1979(昭54)

 

・スリーマイル島原発事故
・世界気候会議(WMO)温室効果による温暖化警告

・科学技術庁が組換えDNA実験指針



 

1978(昭53)
 


 

・農林省が農林水産省に改称


 

1977(昭52)
 

・砂漠化防止行動計画
 

・気象衛星ひまわり1号打ち上げ


 

1976(昭51)
 

・セベソダイオキシン汚染事件


 


 

1975(昭50)

 

・ラムサール条約発効
・アシロマ会議でDNA実験自主規制の合意



・母乳から残留農薬検出
・有吉佐和子 「複合汚染」
(PCB・水銀等汚染問題深刻化)


 

1974(昭49)

 

・世界人口会議
・世界食糧会議
・ローランドら フロンによるオゾン層破壊の可能性を発表
・国連砂漠化防止会議
・世界人口40億人

・環境庁 国立公害研究所設置
・生産緑地法


 


 

1973(昭48)
 

・組換えDNA実験法の確立


 


 

1972(昭47)

 

・ストックホルム人間環境宣言
・ローマ・クラブ「成長の限界」
・国連環境計画(UNEP)設立
・地球観測衛星ランドサット1号打ち上げ

・自然環境保全法
・PCB生産中止


 


 

1971(昭46)

 

・ラムサール条約採択

 

・水質汚濁に係る環境基準
・環境庁発足
・BHC・DDT販売禁止
・PCB環境汚染問題化


 

1970(昭45)

 

・OECD 環境委員会設立

 

・水質汚濁防止法
・海洋汚染防止法
・農用地土壌汚染防止法
(光化学スモッグ被害深刻化)


 

1960年代
(昭35〜44)


 

・レイチェル・カーソン 「沈黙の春」 (1962)
・世界人口30億人 (1960)

(緑の革命 (1960〜70年代))

 

・稲作転換対策開始 (1969)
・大気汚染防止法 (1968)
・カネミ油症事件 (1968)
・公害対策基本法 (1967)
・園芸・畜産拡大 (1960年代前半)
・OECD 正式加入 (1964)
・農業基本法 (1961)


 

1950年代
(昭25〜34)


 


 

・降下放射性核種分析研究開始(1957)
・PCB生産開始(1954)
・水俣病発生 (1953)
・PCB輸入開始 (1952)
・農林省 農業技術研究所 設置 (1950)


 

1940年代
(昭15〜24)

 


 

・BHC農薬登録 (1949)
・DDT農薬登録 (1948)

 


 
 
 
 

農業環境技術研究所案内(11):古書 その2
農家益(のうかえき)・書言故事(しょげんこじ)

 
 
(注:本節は、Webで表示出来ない文字が含まれていますので、[PDF]版も提供しています。)
[PDF] ファイルは、Acrobat Reader 5.0 以降で御覧下さい。)
 
 「情報:農業と環境No.40」では、当所に保存されている古書を数多く紹介し、その中のいくつかについて簡単な解説をした。今回は、「古書 その2」と題して、さらにふたつの古書を紹介する。
 
農家益(のうかえき)
 次の5冊が保存されている。
1)農家益:天・地・人、大藏永常、享和2年(1802)
2)農家益:後編、乾坤、大藏永常、文化7年(1810)
3)農家益:續編、乾坤、大藏永常、嘉永7年(1854)
 
 著者の大蔵永常は、宮崎安貞、佐藤信渕とともに江戸時代の三大農学者の一人に数えられている。明和5年(1768)に日田郡隈町(大分県日田市隈2丁目)に生まれ、安政7年(万延元年:1860)に江戸で没した。行年93。遺髪が願正寺(日田市亀山町)に埋葬された。法名は釈大海信士である。通称は、幼いとき亀太郎、長じて徳兵衛、喜内。字は猛純。亀翁、愛知園主人、黄葉園主人と号した。あるときは、日田喜太夫とも称した。35歳になって、大蔵氏の家の字である永を用いて永常と名乗った。
 
 大蔵永常は、「農」に執念を燃やした男で、享和2年(1802)に苦心の作品「農家益」3巻を刊行した。永常35歳のときである。為政者に副業の利を説き、櫨(はぜ)の栽培や製蝋(ろう)について力説した。永常は農学者として有名になったが、勉学の必要を感じ、大坂にいた蘭学者橋本宗吉について植物学や生理学などを学んだ。
 
 オランダから輸入された顕微鏡を使って、稲の花弁を調べ、雌しべ雄しべのあることを知り、その著作の中で、植物の雌雄について正しい知識を紹介した。また西洋の化学知識を基にして、肥料について科学的に解説した「農家肥培論」の再版と、「農家益後編」、「豊稼録」を刊行した。
 
 永常の著作は57年間に35種にのぼる。文章は平易で、多くのさし絵があり、内容が科学的であるといわれる。異彩を放つ著書は、「農具便利論」であり、彼の著作の集大成は「広益国産考」である。本書は彼の処女出版で、ハゼの木を栽培し、その実から蝋燭(ろうそく)を製造する方法が記されている。
 
書言故事(しょげんこじ)
 次の12巻が所蔵されている。
 ●漢書:書言故事、巻之1〜12、附目録、胡継宗集・陳玩直觧、天順8年(1458)4冊(1帙)、和装本
 
 本書は中国の類書である。古来の有名な故事成語を集め、その目を十二支に分類し、出典を示し解釈を加えたものである。例えば、「白玉楼」とは? 文人墨客が死後に行くというあの世にある楼閣。
故事:中国唐代の詩人李賀の臨終の際、天の使いが現れて、天帝が白玉楼を完成させ、李賀を召してその記を書かせることになったと告げた。
 
 人物:李賀(りが)中国の詩人、790〜816、福昌昌谷の人。字(あざな)は長吉。表現は奇抜で「鬼才」と呼ばれた。多く、宮廷生活を題材にした。27歳で夭逝(ようせい)した。「昌谷集」がある。
 
 
 

サイエンスキャンプ2003が開催された
 
 
 サイエンスキャンプ2003が当所において、平成14年8月19日から21日の期間に開催された。キャンプの趣旨などを以下に紹介する。
 
1.趣旨
 サイエンスキャンプは、科学技術創造立国にふさわしい創造性豊かな青少年を育てるために、研究機関のもつ学習資源としてのポテンシャルを最大限に活用した「創造的科学技術体験合宿プログラム」である。この事業は(財)日本科学技術振興財団が主催し、関係研究機関が協力して平成7年から実施されている。
 
 本年度は27機関がそれぞれの研究機関の特徴を活かして、実習・実験を主体とした科学技術体験学習、研究者・技術者との対話、参加者同士の交流を行う。農林水産関係での受け入れは9機関である。農業環境技術研究所は、平成9年からこのキャンプに協力している。
 
2.農業環境技術研究所における実施内容
 環境問題は身近なところから地球規模まで様々な分野で生じている。農業の分野においても、環境の変化によって農業生産に影響が及んでいることはもとより、農業生産にともなって派生する環境への影響が問題になっている。
 
 農業環境技術研究所は、将来にわたって安全な食べ物を生産していくため、土・水・大気を健全な形で保全し、植物や昆虫と共生する農業を目指した研究を行っている。今回の「サイエンスキャンプ2003」では、「田畑やその周りの昆虫を調べてみよう」、「環境浄化を目指した微生物の遺伝子操作」および「微量の農薬を簡単に測ってみよう」と題して3つのコースを準備した。これらのコースで、研究者がどのようにして環境問題に取り組んでいるかを体験してもらった。
 
1)プログラム
(1)Aコース:「田畑やその周りの昆虫を調べてみよう」
 農地の周りにある林地やため池、あぜ道などには思いのほか多くの昆虫たちが住んでいる。これらの環境は農業とともに長年にわたって維持されてきたもので、そこに住む虫たちの多くもこれらの環境に適応して暮らしてきている。どんな環境にどんな昆虫がいるのか、実際にいろいろな方法で虫を採集し、名前を調べて、身近にある多様な昆虫の世界を覗いてもらった。
●あぜ道やため池、林地などにいる昆虫を採集した。
●採集した昆虫の標本を作製した。
●採集した昆虫を分類し、名前を調べた。
 
(2)Bコース:「環境浄化を目指した微生物の遺伝子操作」
 土に棲(す)む微生物の中には、生物の死がいや落ち葉といった自然の営みから出てくるものはもちろん、人間が作り出した有害な物質をも、えさにして分解してしまう微生物がいる。そのような有用な微生物を分離して、積極的に環境修復に利用しようとする研究が現在行われている。その際には、微生物から遺伝子を取り出して調べたり、加工したりする。このコースでは、こうした研究の重要な手段となる遺伝子操作の実際を体験してもらった。
●微生物から遺伝物質DNAを取り出した。
●DNAを切ったり、はり付けたりした。
●加工したDNAを微生物に入れた。
 
(3)Cコース:「微量の農薬を簡単に測ってみよう」
 農作物の病気、害虫、雑草の害を防ぐため農薬が使用されている。ところが、これらの農薬が川や湖などに流れ出し、そこに生息する野生生物に害を及ぼしていることが心配されている。そのため、川や湖の農薬濃度の測定が重要になっている。農薬は、非常に微量なため、難しい分析技術が必要であったが、近年、迅速で簡易な分析法(抗原抗体法)が開発された。そこで、この方法を用いて水の中の農薬を測定してもらった。
●農薬の濃度を測定して、分析法の原理を理解した。
●水の中の農薬濃度の実態を調べた。
 
2)参加者
Aコース    
  大野 淳也(おおの じゅんや) 立教新座高等学校 1年 男 埼玉県
  野田 和希(のだ かずき) 東洋大学附属牛久高等学校 1年 男 茨城県
  松下 友来(まつした ともき) 和洋九段女子高等学校 2年 女 千葉県

 
望月 孝祐(もちづき たかひろ) 平塚農業高等学校初声分校 3年 男 神奈川県
Bコース    
  新井 久美子(あらい くみこ) 和光国際高等学校 2年 女 埼玉県
  須佐 圭宏(すさ よしひろ) 浅野高等学校 2年 男 神奈川県
  戸部 飛未(とべ あすみ) つくば秀英高等学校 1年 女 千葉県
  宮本 如奈(みやもと ゆきな) 農芸高等学校 2年 女 大阪府

Cコース    
  榎本  賢(えのもと さとし) いずみ高等学校 3年 男 埼玉県
  岡田 和樹(おかだ かずき) 忠海高等学校 2年 男 広島県
  阪田 梨乃(さかた りの) 立命館高等学校 1年 女 京都府
  芝田 有香(しばた ゆか) 守山高等学校 1年 女 滋賀県
 
日本科学技術振興財団事務局及びアドバイザー
  稲垣 裕介(いながき ゆうすけ) (財)日本科学技術振興財団振興部主任
  見田 幸子(みた さちこ) 八王子北高等学校教諭
 
 
3)各コースの講師
Aコース講師: 安田 耕司
 
(農業環境インベントリーセンター昆虫分類研究室:研究室長)

 
吉松 慎一
 
(農業環境インベントリーセンター昆虫分類研究室:主任研究官)

 
中谷 至伸
 
(農業環境インベントリーセンター昆虫分類研究室:研究員)
     
Bコース講師: 藤井  毅
 
(化学環境部有機化学物質研究グループ土壌微生物利用ユニット:研究リーダー)
     
Cコース講師: 石井 康雄
 
(企画調整部:専門調査員)
 

 
石原  悟
 
(化学環境部有機化学物質研究グループ農薬動態評価ユニット:研究員)

 
渡邉 栄喜
 
(環境化学分析センター環境化学物質分析研究室:研究員)
 
4)期日: 平成15年8月19日(火)午後1時〜8月21日(木)午後3時(2泊3日)
 
5)問い合わせ先:
農業環境技術研究所: 〒305−8604 茨城県つくば市観音台3−1−3
  Tel:0298−38−8197(情報資料課広報係)
  Fax:0298−38−8191
 
 
 

シンガポール:森林伐採に続く野生生物の破局的な絶滅
 
Catastrophic extinctions follow deforestation in Singapore
B.W. Brook, N.S. Sodhi and K.L. Ng, Nature, 424, 420-423 (2003)
 
 B.W. Brook たちは、東南アジアでは野生動植物の最大5分の1が、22世紀以内に姿を消す可能性があると報告している。地域の生物の絶滅にブレーキをかけるには、大がかりな生物保全のための対策が必要だと、彼らは訴えている。
 
 地球上の陸生生物の多様性を保持するうえで、湿潤地帯は重要な役目を果たしている。生物の生息地域がこのまま減少し続ければ、これらの地域における絶滅率は、近いうちに壊滅的な段階に至ると予測される。しかし、これを実際に証明できる信頼性のあるデータが欠如しているという理由で、生物減少の度合いや速度の推定値については、さまざまな見解がある。
 
 この論文は、183年間で540kmに及ぶ生物生息地域の95%以上が消失したシンガポールで、陸生および淡水生の広範な生物分類群に起こった局所的な絶滅についての報告である。実際の報告と推測上の絶滅率がともに高いのは、とくに森林生物である。絶滅率が最大級(34〜87%)となったのは、チョウ、魚類、鳥類、ほ乳類である。維管束植物やナナフシ類、十脚類、両生類、は虫類では前述の分類群に比べて観察された絶滅率は総じて少なかったが、推定上の消失率は高い場合が多かった(5〜80%)。
 
 シンガポールの森林保護区は、国土のわずか0.25%にすぎないが、現存する在来生物多様性の50%以上がここに生息している。校正した種−領域モデルを使って、観察上および推定上の局所的絶滅率を外挿して推定値とした。その結果、現在の東南アジアで空前の速さで起こっている生息地域の破壊によって、今後100年間で地域の個体群の13〜42%が消失することが示唆された。そのうち、少なくとも半分は地球上からの種の消滅を意味する。
 
 
 

イングランドの休耕地が農業と生態に及ぼす影響
 
Agronomic and ecological costs and benefits of set-aside in England
L.G. Firbank et al.
Agriculture, Ecosystems and Environment, 95, 73-85 (2003)
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、今回は英国で実施された休耕政策の農業的、生態的影響の調査に関する論文の一部を紹介する。
 
要 約
 
 欧州共同体の共通な農業政策の一環として、1990年代のなかばにイングランド(英国本島のうちスコットランドとウェールズを除く部分)の耕地の約11%が休耕地にされた。この計画では、1年間および長期間の両方の休耕が認められた。休耕地の植生でもっとも一般的だったのは、自然に復活した植生で、次いで非食用の栽培作物と、播種された被覆植物が多かった。休耕地の管理が農業と生態に及ぼす影響を、農家に対するアンケート調査と、植物、無脊椎動物、および繁殖鳥類の現地調査によって調べた。調査は200の休耕地で実施し、その半分は輪作中の休耕地、もう半分は長期間の休耕地とした。さらに詳細な調査を、作物の病気、植生の変化および鳥類の繁殖について実施した。
 
 休耕地での植物の種多様性は、イングランド東部よりも西部で高かった。そして、長期間作付けを休止して自然に植生が復活した休耕地では、年とともに草地性の植物が植物群落の中で優占するようになった。うどんこ病とセプトリア菌葉斑点病の感染率の連続的な変化が、輪作中の休耕地に隣接する穀物ほ場の中で観察された。有害な無脊椎動物は、休耕地のタイプにかかわらず、隣接する休耕地よりも作物ほ場で多かった。調査対象とした鳥は、どのグループも冬作の穀物ほ場でもっとも少なく、輪作中の休耕地でとくに多かった。
 
 休耕地(とくに輪作中の1年間の休耕地)は、鳥類の繁殖にとって、広い面積にわたる好適な生息地となっており、その農村地域での、鳥類に不利益となるような環境変化を、農業に大きな問題をもたらすことなく補償する働きをしていたと考えられる。休耕に代わるどのような計画でも、農村地域における鳥類への利益が維持されるように、対象とする全体面積を十分に広くすることが重要である。
 
 
 

本の紹介 127:土壌の神秘−ガイアを癒す人びと−
ピーター・トムプキンズ、クリストファー・バード著
新井昭廣訳、春秋社(1998)
ISBN4-393-74122-6

 
 
 著者の一人のピーター・トムプキンズは、イギリス、フランス、イタリア、スイスで教育を受け、ハーバード、コロンビア、ソルボンヌ大学で学び、卒業後は新聞社や放送局で広く活躍した。クリストファー・バードは、ハーバード大学で生物学の学士号を取得後、東洋哲学、東洋史などを学ぶ。また、ハワイ大学で人類学を学び、ソビエト文化にも詳しい。訳者の新井昭廣は、京都大学で宗教学を学んでいる。
 
 以下に示した目次を見れば全体の構成が想像できるが、ここでは、序論の概要を述べて本の紹介に代える。序論の冒頭に、1912年のノーベル医学賞受賞者であるアレキシス・カレルの著書「人間−この未知なるもの」の中の警告が引用されている。いわく、「土壌が人間生活全般の基礎なのであるから、私たちが近代的農業経済学のやり方によって崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。生き物はすべて土壌の肥沃度(地力)に応じて健康か不健康になる。すべての食物は、直接的であれ間接的であれ、土壌から生じてくるからである。」
 
 著者は、これらの内容を支援する医学的なデータを、ロヨラ大学の生化学・有機化学のメルキオーレ・デッカーズの調査やカリフォルニア大学医学部の免疫学のジョゼフ・ワイスマンの調査から抽出する。
 
 そこで、19世紀の半ばから土壌に入り込む化学肥料・染料・農薬などの化学物質の例が列挙される。例えば、ユスタフ・フォン・リービッヒの化学肥料。ウイリアム・ヘンリー・パーキンの染料。フリードリッヒ・フォン・ケクレのベンゼン環をもつ化学物質。フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュのアンモニア。極めつきは、パウル・ミュラーのDDT。その延長上に、クロルデン、ヘプタクロル、ディルドリン、アルドリン、エンドリンといったDDTと同様の塩化炭素系の殺虫剤と、パラチオンやマラチオンといった有機リン酸塩系の殺虫剤があった。
 
 一方これに対して、化学薬品による土壌の汚染に対抗する考え方として、有機農業などの活動の例が示される。有機農業運動の創始者のアルバート・ハワード卿の「土壌と健康」。イーブ・バルフォア夫人の「生きている土壌」。有機農業に対する化学的支持を簡潔かつ荘重な言葉で語ったミズーリ大学土壌学科長のウイリアム・アルブレクト。レイチェル・カーソンの「沈黙の春」。イタリアの科学者でブリュッセル世界博覧会で化学賞を受賞したアメリゴ・モスカの調査結果など。
 
 序論のおわりは、次のように締めくくられる。「ちょっとした努力で、腐敗と毒薬と汚染による破滅から地球を救うことが可能なのだ。エデンの園は永久に失われたわけではない。エデンの園をよみがえらせる秘密は、あなたがたの土壌の、地表からわずか数インチの深さのところに埋もれているのである。」
 
序論
アレキシス・カレル博士の警告/汚染された食物が病を引き起こす/化学時代の幕開け/染料、毒ガス、農薬/「有機農法」運動の創始者アルバート卿/有機農業を科学的に支持したアルブレクト博士/告発される近代農業
 
第1章◎豊饒の角
シュタイナー農法との出会い/微生物の役割/シュタイナー式調製剤
第2章◎生命の鼓動
調製剤五〇〇号の作り方/マリア・トゥーンの樽堆肥/宇宙の諸力が与える影響/生命力学的堆肥の山の作り方
第3章◎月の光
キンバートン米国初の生命力学農場/天体が植物に影響を与える惑星と金属とのつながり/よみがえる古代の占星術
第4章◎黄金の生ゴミ
生命力学農法の使徒プァイファー/土壌を破壊する近代農業/バクテリアによる生ゴミの変容/晩年のプァイファー/調製剤に生涯を捧げた女性
第5章◎ミクロコスモス
バクテリアの偉大な働き/光合成―生命史上最も重要かつ唯一の代謝革新/ミミズが文明の基礎を作った/新大陸に渡ったミミズ/ミミズが土壌を肥沃化する/ミミズの奇妙な習性/ミミズを無視する米国農務省
第6章◎地球の裏側での奇跡
オーストラリアに生命力学農法を導入したポドリンスキー/ポドリンスキー農場訪問/腐植質豊かな土壌/牛の角と攪拌の秘密/調製剤五〇〇号に「宇宙の力」を入れる/トレヴァー・ハッチのプーウォング農場/ファリー・グリーンウッドの農場/BD米を作るソーリー・マクデューガル/マスコミに取り上げられるポドリンスキー/自動攪拌機/スティーヴンズ兄弟/オーストラリアの風土/バリー・エイハーン
第7章◎やればできる
アメリカ農業の心臓部へ/フレッド・キルシェンマンの歩み/有機農法への取り組み―成功と挫折/輪作システムを確立する/化学薬品が表土を台なしにする/有機農法に踏み切れない農場主たち―化学農法の罠/馬鹿げた農業政策/キルシェンマンのBD農場へ/有機農法から生命力学農法へ/BD噴霧液の真価/政治家への働きかけ/農民と都会人とのギャップ
第8章◎地上の天国
ロバート・マッカリソンの発見/この世の楽園フンザ/フンザの人びとは病気知らず/フンザの土壌/フンザの農業/健康の秘密―氷河乳
第9章◎生命の渦
「生きている」水/天才科学者パトリック・フラナガン/「パワースポット」セドナ/水の奇妙な特性/水に影響を与える結晶体/渦の力/渦の宇宙的特性/水に宇宙的エネルギーを取り込む/完璧な渦を作り出す装置/フンザ水の効果/シュタイナー的攪拌の意味/内破こそ生命の基盤/水に歌いかける農夫
第10章◎キレート化のはさみ
ロシアの土壌学/大学と肥料会社の癒着/地衣類とミネラル――キレート化のプロセス/古代インカの農業技術/岩や鉄を溶かす植物/土壌中のバクテリアによるキレート化
第11章◎ソニック・ブルーム――音波栽培
音波でオレンジ収穫量が増大/牛はソニック・ブルーム飼料が好き/ソニック・ブルームで土壌も改善/気孔に着目したドン・カールソン/気孔を開かせる音楽/鳥の鳴き声を研究する/植物はハードロックが嫌い/超植物の誕生/植物は人間の願いに応えるか/夢の家庭菜園
第12章◎生き残るための種子
トウモロコシに歌いかけるホピの古老/古い種子からの呼びかけ/恐るべきハイブリッド種/コングロマリットの支配下に入る種子産業/遺伝子工学の興隆/種子救済家ケント・ウィーリー/自然受粉種のたくましさ/「園芸種子目録」の刊行/種子保存センター建設へ/種子保存家たちのネットワーク
第13章◎雑草―土壌の保護者
ウェス・ジャクソンの転身/「雑草」の歴史/共生する多年生植物/近代農業への挑戦/雑草の効用/食用となる雑草/雑草が教えてくれること
第14章◎温室内のつらら
地球温暖化論と寒冷化論/差し迫る新たな氷河期/CIAの報告書/寒冷化がもたらすもの/死につつある地中海/塵埃による異常気象
第15章◎生命を救う岩粉
土壌の再ミネラル化が地球を救う/先駆者ヘンゼル/脱ミネラル化で死にゆく森/熱帯雨林の消滅が引き起こすもの/ミネラルが微生物を育てる/生命の循環―原形質の旅/根毛による細胞摂取の驚異的プロセス/破滅はまだ回避できる
第16章◎森の中の生と死
ヴァルトシュテルベン―森林枯死/東欧の森の悲惨な状況/ハッツフェルト伯爵の活動/森を救う岩粉/岩粉の有効性のさらなる証拠/製薬業界の反発/岩粉の応用
第17章◎かぐわしき土壌
「アゾマイト」の発見/土壌のミネラルバランスを保つアゾマイト/アゾマイトは動物にも効果的/微量元素は生命の鍵/コロイドのもつ活力/昆虫は健康な植物を食べない
第18章◎バイオマスならできる
バイオマス研究に乗り出すアメリカ政府/植物から代替エネルギーを/石油会社による妨害/「石油植物」/エネルギーを浪費するアメリカ人/木を植えつづけること/藍藻植物は最高の栄養物/健康と栄養の革命に向けて
第19章◎火による浄化
インドからの使者/牛糞を燃やす儀式/「奇跡をもたらす灰」/火で大気を浄化する/使者ヴァサントの予言/東欧で注目されるアグニホートラ
第20章◎自然への同調
シュタイナーのネズミ駆除法/昆虫と赤外線/ジオデシック・ドームに住むキャラハン博士/元素には知覚力がある/若き日のキャラハン/蛾はなぜ炎に飛び込むのか/特定の光と匂いに反応する蛾/無線アンテナと蛾の触角/素晴らしき自然のアンテナ/昆虫間の電磁波交信/赤外線とフェロモン/革新的な害虫処理法/赤外線分光計が古代インドの知恵を確証する/先駆者ティンダル
第21章◎エネルギーの塔
宇宙エネルギーを受信する石塔/ラウンド・タワーは常磁性のアンテナ/自然との同調法を知っていたケルト人/ラウンド・タワーを農業に活用する/マヤ人の進歩的農法
第22章◎宇宙栽培
ガレン・ヒエロニムスの「宇宙パイプ」/電磁スペクトル外に存在する「エロプティック・エネルギー」/土壌を健康にする器械/宇宙エネルギーのさまざまな効果/精霊の助け/レイ・ライン上に宇宙パイプを置く/宇宙パイプは創造的エネルギーを放=送する
第23章◎理想の菜園ペレランドラ
精霊と交信する女性/デーヴァ――自然の精霊/精霊との交信法/奇跡の菜園/精霊に導かれて肥沃な土壌を作る/昆虫たちとのコミュニケーション/昆虫に対する攻撃的態度をなくす/昆虫は菜園の一部/人間・自然・精霊の共=創造的関係
エピローグ
モスクワのオカルト研究所/超感覚的知覚者クドリャショーヴァ/天性のヒーラー/物質にヒーリング・パワーを注ぎ込む/一万羽以上のひよこを癒す/畑の悲哀をわが身に引き受ける/念力でコンピュータを直す/意図と愛
 
補遺A:東方からの光/補遺B:百聞は一見に如かず/補遺C:マーク大将のための三つのクォーク/補遺D:シュタイナーと人智学/補遺E:惑星の力/補遺F:製法と用法
 
訳者あとがき/参考文献
 
 
 

本の紹介 128:地球の水が危ない
高橋 裕著、岩波新書(2003)
ISBN4-00-430827-5

 
 
 8月1日は「水の日」である。この日から一週間を「水の週間」と呼ぶ。水の消費量が年間で最も多いこの月の初めに、水の貴重さを考え、節水の意識を高めてもらうという週間である。「国連水の日」もある。これは、3月22日である。1992年12月22日の第47回国連総会本会議で決議された。水資源の保全、開発やアジェンダ21の勧告の実施に関して普及啓発活動を行うことが提唱されている。
 
 水については、当所の「情報:農業と環境」のNo.34とNo.38で、それぞれ「水不足と地下水汚染」と「この国の水問題」と題してすでにまとめた。この本を読まれるとき、「情報:農業と環境」も参照されると幸いである。
 
 本書は、「序」「1章:地球環境と水の危機」、「2章:紛争の絶えない国際河川・国際湖」、「3章:世界の水問題と日本人」および「4章:アジアの水問題と日本」からなる。1章では、地球の水危機が量的にも質的にも、さらに地表水でも地下水でも起こっていることが解説される。2章では、河川をめぐる国際紛争の実態とその背景、それぞれの立場からこの難問に取り組んでいる人々の努力と苦悩が紹介される。続いて3章では、日本人と水の歴史的な関わりが論じられる。4章では、水をめぐる国際的動向をふまえた上で、モンスーン・アジアにおける地球の水危機に占める重大さを考慮して、日本の歴史的使命が提言される。目次は以下の通りである。
 
 序  地球の水が危ない
 
I  地球環境と水の危機
 1 水需要の増加と将来予測
 2 深刻な水不足と水汚染
 3 地下水の危機
 4 湖沼の危機
 5 洪水災害の激化
 
II  紛争の絶えない国際河川・国際湖
 1 地球の全陸地の半分近くは国際河川流域
 2 中近東河川の紛争
 3 上下流対立が深刻なナイル川
 4 アジアの国際河川
 5 ドナウ川の環境と開発 −スロヴァキアとハンガリーの対立−
 6 南北アメリカの国際湖・国際河川
 
III 世界の水問題と日本人
 1 日本は大量の水を輸入している
 2 日本の第二次世界大戦後の水開発
 3 水循環の急激な変化
 4 総合治水から流域治水へ
 5 水の値段と日本人の意識
 
IV  アジアの水問題と日本
 1 地球の水危機への世界の対応
 2 なぜモンスーン・アジアか
 3 モンスーン・アジアと日本
 4 アジアにおける日本の責務
 
 あとがき
 
 
 

本の紹介 129:バカの壁
養老孟司著、新潮社(2003)
ISBN4-10-610003-7
 
 
 等閑。夏休み。短い夏とはいえ酷暑の砌(みぎり)。暑さを払拭すべく、昨年の夏の「情報:農業と環境」のNo.29の「本の紹介 85:海馬−脳は疲れない−」に引き続いて、再び「脳」に関する本を紹介する。題して「バカの壁」。暑いと、専門の本よりこの種の本の方が「脳」に適しているのか?
 
 本の題名に「バカ」が見られる本は、ゴマンとある。勢古浩爾著「まれに見るバカ」、呉智英著「バカにつける薬」、小谷野敦著「バカのための読書術」、吉野敬介著「やっぱりおまえはバカじゃない」、酒井冬雪著「バカ・ゲット」、田口ランディ著「バカな男ほど愛おしい」などなど。しかしこの本は、そんじょそこらの「バカ」本とは違う脳の専門家が書いた「バカ」本なのだ。
 
 世の中には、唯神論、唯物論、唯幻論、唯脳論がある。本書の著者は、その唯脳論の創始者である。人間の脳に5万年前から神はいたから、いまでもいる。それを幻想と呼ぼうが何と呼ぼうが、ヒトという種が、神の概念を抱えて生きてきたことは間違いない。神の存在は、いわばヒトの属性である。いわゆる神秘的体験も同じことである。神秘体験とは、脳の機能である。と、神とヒトの脳の関係をいとも簡単に解き明かす著者が書いた本なのだ。さらにこの著者は、「脳化社会」の進行をさまざまな形で指摘してきた哲学者でもある。
 
 「バカの壁」の一つ。一日の三分の一、眠っている無意識の時間も間違いなく生きていくために必要な時間であることを現代人は忘れている。無意識に十分な時間を当てることの重要性が強調される。身体を学習させることをないがしろにしてきた。ようするに現代人は、最も身近であるはずの自分の身体の扱い方がわからなくなっている。脳と身体の関連性が忘れられている。
 
 「下手の考え、休むに似たり」も壁の一つ。情報の入力を外部からではなく、自給自足して、脳内でグルグル回しするのを「下手の考え、休むに似たり」と言うのだ。
 
 万物は流転するごとく、「私は私」ではなく、私は日々刻々変化している。逆に流転しないものは、実は「情報」であることに気づかない「壁」。人間と情報の「あべこべ」の認識というのが面白いし、きわめて重要な認識だ。情報は絶対変わらないが、私は絶対死ぬ。
 
 「わかっている」と思い込んでいるための「バカの壁」。知りたくないことに関しては、自主的に情報を遮断してしまうことから来る壁。自分は客観的であると信じていることから来る壁。科学を信じ込みすぎることの壁。「バカの壁」は、実にいろいろなところに存在する。思い当たる節が山積みされている。
 
 結局、著者は現代社会を解析しようとしている。目次を見ただけでも解るように、様々な社会現象が語られる。天才イチローの脳。若者のキレる脳。でもしか先生。オタクの脳。かと思えば、「個性尊重」主義。オウム真理教の身体。「話せばわかる」の嘘。こうした個々人が形成する現代社会の行くべき方向は何かと問う。目から鱗が落ちっぱなしになる。
 
 他にも多くのことが語られている。西郷隆盛は、「小さく打てば小さく響く、大きく打てば大きく響く」鐘のようだという評価がある。この本はまさにそれだ。浅く読めば浅く理解できるが、深く読めばその深さは深淵をのぞくような不気味さがある。人類の未来を左右する凄味がある。読み手の能力にみごとに反応するような本だ。秋に入る前の一夜に一読をお進めする。目次を見るだけでも愉快になる最近まれにみる傑作。
 
 まえがき
 
第1章 「バカの壁」とは何か
「話せばわかる」は大嘘/「わかっている」という怖さ/知識と常識は違う/現実とは何か/NHKは神か/科学の怪しさ/科学には反証が必要/確実なこととは何か
第2章 脳の中の係数
脳の中の入出力/脳内の一次方程式/虫と百円玉/無限大は原理主義/感情の係数/適応性は係数次第
第3章 「個性を伸ばせ」という欺瞞
共通了解と強制了解/個性ゆたかな精神病患者/マニュアル人間/「個性」を発揮すると/松井、イチロー、中田
第4章 万物流転、情報不変
私は私、ではない/自己の情報化/『平家物語』と『方丈記』/「君子豹変」は悪口か/「知る」と「死ぬ」/「朝に道を聞かば・・・」/武士に二言はない/ケニアの歌/共通意識のタイムラグ/個性より大切なもの/意識と言葉/脳内の「リンゴ活動」/theとaの違い/日本語の定冠詞/神を考えるとき/脳内の自給自足/偶像の誕生/「超人」の誕生/現代人プラスα
第5章 無意識・身体・共同体
「身体」を忘れた日本人/オウム真理教の身体/軍隊と身体/身体との付き合い方/身体と学習/文武両道/大人は不健康/脳の中の身体/クビを切る/共同体の崩壊/機能主義と共同体/亡国の共同体/理想の共同体/人生の意味/苦痛の意味/忘れられた無意識/無意識の発見/熟睡する学生/三分の一は無意識/左右バラバラ/「あべこべ」のツケ
第6章 バカの脳
賢い脳、バカな脳/記憶の達人/脳のモデル/ニューラル・ネット/意外に鈍い脳の神経/方向判断の仕組み/暗算の仕組み/イチローの秘密/ピカソの秘密/脳の操作/キレる脳/衝動殺人犯と連続殺人犯/犯罪者の脳を調べよ/オタクの脳
 
第7章 教育の怪しさ
インチキ自然教育/でもしか先生/「退学」の本当の意味/俺を見習え/東大のバカ学生/死体はなぜ隠される/身体を動かせ/育てにくい子供/赤ん坊の脳調査
 
第8章 一元論を超えて
合理化の末路/カーストはワークシェアリング/オバサンは元気/欲をどう抑制するか/欲望としての兵器/経済の欲/実の経済/虚の経済を切り捨てよ/神より人間/百姓の強さ/カトリックとプロテスタント/人生は家康型/人間の常識
 
 
 

資料の紹介:驚異的なシアナミド新説を考える
越野正義著、石灰窒素だより、No.138(2003)

 
 
 シアナミドに関して新しい発見があった。これまでの知見を根底からくつがえす発見である。当所の生物環境安全部の植生研究グループの化学生態ユニットが、植物体内でシアナミドが生成されることを発表した。マメ科植物のヘアリーベッチにシアナミドが集積し、それが殺草成分になっているという現象である。
 
 この発見の経過と証明の詳細については、1)藤井義晴:シアナミドは天然物である、石灰窒素だより、12-14No.138 (2003) 、2)Kamo, T., S. Hiradate and Y. Fujii: First isolation of natural cyanamide as a possible allelochemical from hairy vetch Vicia villosa, Journal of Chemical Ecology. 29(2), 275-283 (2003) を参照されたい。
 
 この資料の著者の越野氏は、肥料学の大家である。この大家をして腰が抜けるほど驚かせたシアナミド新説とは何であるのか。この資料を精読いただければ、その理由が明白になる。それだけでは紹介として不親切と思い、著者の文章の一部を借用し資料の紹介をする。
 
 著者の驚きは、次のような歴史的事実から始まる。
 「石灰窒素は、世界で最初に空中窒素を固定してつくられた窒素肥料である。石灰窒素の製造は、ドイツのフランクらが1898年に実験室的に成功し、1901年にはすでに肥料としての利用が研究されはじめた。それで、一昨年、石灰窒素生誕100年の記念行事が開かれた。フランクとカローによる工業化は1906年であり、日本での工業生産は1908年、日本窒素肥料会社水俣工場で開始された。それほど歴史のある肥料である。それが今になって、シアナミドの合成、分解についての知見が、根底からくつがえされたのであるから、驚くのも無理のないこととご理解ねがいたい。」
 
 その後、シアナミドが分解する過程の定説が詳しく述べられる。
 「石灰窒素の主成分はカルシウムシアナミドである。これがどのように変化して、植物が吸収できるアンモニウムイオン、または硝酸イオン(以下、簡単にアンモニウム、硝酸と記載)になるかであるが、その反応はつぎの段階を経ていると考えられていた。
 
 (1)カルシウムシアナミドが水中で解離し、水酸化カルシウムと遊離のシアナミドを生成する。(2)シアナミドは加水分解し、尿素になる。(3)尿素は加水分解し、アンモニウムと水になる。(4)アンモニウムは硝酸化成作用により硝酸になる。
 
 この分解反応のうち、(1)は単純な化学反応、(3)は微生物(または植物体内にもある)にあるウレアーゼの作用、(4)は微生物(アンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌)による反応(硝酸化成作用)、である。(3)、(4)については多くの研究があり、温度、水分などの影響も明らかになっている。
 
 問題は(2)の尿素化の段階であるが、これについて川島の本には、レーニスとウルピアニの研究として、土壌膠質物(コロイド)の表面作用によりおこなわれる、とある。さらに、主として分解に関与するコロイド物質は、中性腐植質、鉄・アンモニウムおよびマンガンのヒドロゲル、アルミノケイ酸ヒドロゲル、抱水ケイ酸塩ゲルなどである。この反応は非常に急激におこなわれ、殺菌した土壌に石灰窒素を添加すると、尿素の集積が容易に検出できる。また、土壌を強熱するか、あるいは酸類かアルカリ類で処理すると、シアナミドから尿素に変化する力が失われる。これに前記のコロイド物質を添加すれば、再び尿素化の作用が回復する、とある。」
 
 このことから、「教科書は間違いか」という項目がたてられる。「尿素化段階ではほぼ100年間、生物の関与は考えられていなかったのである。触媒さえあれば自動的に迅速にこの化学反応が進行することは、シアナミドの化学ポテンシャルがかなり高いことを反映している。ポテンシャルが高い物質を合成するには多量のエネルギーが必要であり、シアナミドが植物体内に蓄積するとは想像もしなかった。
 
 シアナミドが植物体内で生成することは、何らかの酵素反応があることを示している(藤井リーダーによると、最近シアナミドの生合成に関与する酵素が発見されているとのこと)。酵素反応は多くは可逆的であり、合成できれば同時に分解もしている可能性がある。川島の本をよく読むと、「レーニスによると、バクテリアはシアナミドを直接アンモニアに変化させることはないが、ある種の糸状菌はシアナミドを尿素に変化させるのみでなく、さらにアンモニアに分解する。すなわち、シアナミドを直接アンモニアに分解する力がある」と書かれている。
 
 バクテリアにはないが、糸状菌にはシアナミド分解酵素系が存在することを示唆するのであろうか。ただし、シアナミドを尿素に変化させるのは、主として土壌コロイド物質が関与するところであるとも述べているから、これまでの教科書の記述が必ずしも間違いとまではいえないだろう。」
 
 そこで著者は、「なにが合成のためのエネルギーか」という項目のなかで、現象を興味深げに語る。「植物体内での合成経路が、尿素化の単純な逆反応なのかは不明である。高エネルギーを要する合成反応を進行させるためのエネルギー源とどのようにリンクしているのかもわからない。また、ヘアリーベッチ以外にどのような植物にこの酵素系があるのか、遺伝子はどうか、またその遺伝子をほかの植物に移せるのかなど、考えると興味は尽きない。
 
 植物がシアナミドを多量に蓄積するのなら、それを肥料の製造に使えないかと聞かれそうである。しかし、シアナミドを合成するには窒素源が必要であり、それは結局、根から吸収する窒素、すなわち施肥窒素である。肥料なしで肥料をつくることはできないのである。ただヘアリーベッチはマメ科植物であり、空中窒素を固定する(長野畜産試験場のデータ〈1996〉では9sN/10aを固定)。この固定窒素を利用すれば収支的には窒素は増えるが、固定のためには植物はエネルギーを消費するし、また窒素固定にシアナミドが有利なのかもわからない。」
 
 以下は、「消費者の反応はどうか」、「多彩な効果」、「環境保全の論理が優先」、「多機能の評価が重要」の項目で、石灰窒素と二日酔いの話、シアナミドの効用の事例、石灰窒素と環境保全、石灰窒素のもつ多面的機能などが語られる。肥料学の泰斗としての著者の経験と知識が読みとれる好資料である。
 
 
 

資料の紹介:循環型社会特別委員会報告
真の循環型社会を求めて
日本学術会議 循環型社会特別委員会 (2003)

 
 
 この資料は、われわれが求めている「持続可能な社会」を「真の循環型社会」と定義し、その具体像とそれに移行するために行うべき社会改革の枠組について検討したものである。
 
 大量の廃棄物の処理や資源の枯渇に対処するためには、生産や消費を循環型にする必要がある。ひいては、そのことが持続可能な社会の確立につながるとの考え(循環型社会形成推進基本法)から発想された現行の「循環型社会」を、さらに俯瞰的に検討したものである。具体的には、現代社会を地球史と人類史の中に位置づけることにより、持続可能な社会の具体像(真の循環型社会)を描き、どのような枠組で社会改革をすすめるべきかを検討したものである。そのためには、私たちの営みを省エネルギー化し、循環型のものにし、人類と地球環境を持続可能な方向へ共進化する必要がある。
 
 この資料の概要は、次のようにまとめられている。
 二酸化炭素や廃棄物・有害物質の排出を削減して真の循環型社会を構築するためには、大量生産・大量消費・大量廃棄に象徴される都市的社会システムを一層改善するとともに、都市を取り巻く環境の健全化が必要である。
 
 都市的システムの改善とは、(廃棄物や有害物質、二酸化炭素等の排出を最小にするため)省エネルギーの原則の下で廃棄物の発生抑制Reduce、再使用Reuse、再資源化Recycle、製品の長寿命化Rejuvenescence、部品交換等による回生Retrofit等、循環型の技術開発をさらに進めることにより現行の循環型社会システムを深化させ、将来は生産過程でのマテリアルリース、消費過程でのレンタルおよびリース利用、食品等のバイオマス循環等を骨格とした「省エネルギー・グリーン社会」を構築することである。また、資源・エネルギー面では地下資源や化石燃料の投入をできる限り減らし、自然エネルギー、再生可能エネルギーの利用を最大限に高めることである。さらに、資源生産性の向上、グリーンケミストリーの構築、バイオマス利用の促進、ライフスタイルの転換等、工業、土木、建築、農業・食品産業、消費生活、貿易等の各部門で省エネルギー循環型に向けての課題の克服に努める必要がある。(巨大都市問題については早急に研究体制を固める必要がある。)
 
 省エネルギー・グリーン社会の構築には、それにインセンティブを与える経済制度や法制度の整備も必要である。一方で、息の長い教育により価値観の転換を図ること、地球倫理や世代間倫理等、循環型社会倫理を確立し、こころ豊かな生活を尊ぶ社会を目指さなければならない。私たちの生活を取り巻く自然の循環を健全なものにし、森林・自然域や農村の多面的機能が十分発揮される環境を取り戻すことも大切である。さらに、世界の国や地域の多様性の認識のもとに、循環型社会の世界的構築を目指さなければならない。目次と関係者は以下のとおりである。
 
目次
 
I  はじめに
 
II (序論)真の循環型社会の形成に向けて
1.都市の発達と現行の“循環型社会”
2.真の循環型社会への道 ―人類と地球環境系との共進化―
 
III (本論)真の循環型社会の形成に必要な方策
1.真の循環型社会構築の前提
2.都市的システムの改善
 2.1 循環型社会システムの深化
 2.2 エネルギー問題の重要性
 2.3 各部分システムの改善
1)工業  2)土木・建築  3)農業・食品産業  4)消費生活  5)バイオマス循環  6)貿易  7)巨大都市問題
3.都市社会を取り巻く環境の健全化
4.経済システムの改善
5.法制度、教育及び倫理面からの循環型社会の支援
6.循環型社会と科学技術
 6.1 循環型社会の科学技術、産業技術とその移転
 6.2 循環型社会の世界的構築
 6.3 循環型社会に関する俯瞰的研究の必要性
参考図1 真の循環型社会を求めて
参考図2 省エネルギー・グリーン社会システム
参考文献
 
IV  各論
  片岡 暁夫 循環型社会と人口問題
  外園 豊基 歴史にみる循環型社会
  江頭 憲治郎 循環型社会と法制度
  宮坂 富之助 「循環型社会」形成への課題
     ―消費生活におけるライフスタイルの視点から―
  田中 啓一 循環型社会と都市環境
  貫  隆夫 循環型社会の構築と企業経営
  入倉 孝次郎 循環型社会に対する防災科学からの視点
  村橋 俊一 循環型社会とグリーンケミストリー
  冨浦 梓 循環型社会と材料
  中村 崇 資源生産性を基にした近未来の循環型社会構築に向けて
  太田 猛彦 都市と森林・自然
     ―循環型社会における二つの視点―
  熊澤 喜久雄 循環型社会と環境保全型農業
  松田 藤四郎 循環型社会形成に向けての都市と農村との連携
  田中 平三 循環型社会に対する公衆衛生学的視点
  藤村 重文 ライフスタイルと医療
 
V  話題提供
  厨川 道雄 資源枯渇・地球温暖化対策技術とLCA
  上野 民夫 生物資源とポスト石油化学の産業科学

 

 
 ―生物生産を基盤とする持続・循環型社会の形成をめざして―
  大塚 直 循環型諸立法と今後の課題
  鴨下 重彦 少子社会と循環型社会
  茅  陽一 循環型社会へ向けて
  陽  捷行 窒素・炭素・リンの循環と環境
  大橋 照枝 環境マーケティング戦略
     ―エコロジーとエコノミーの調和―
  谷口 旭 海洋における生物生産の特性一循環型生産系の典型一
  古崎 新太郎 循環型社会構築に向けての化学工学からの提案
  梶原 康二・関 寿彰
    東京都における環境基本計画と環境行政の展開について
    東京都における廃棄物行政の展開について
  中里 実 環境税の法的検討
  林  良嗣 交通と環境持続性
 
(付) 循環型社会特別委員会審議日程
 
日本学術会議「循環型社会」特別委員会
この報告は、第18期日本学術会議「循環型社会」特別委員会の審議結果を取りまとめて発表するものである。
 
委員会メンバー
委員長
 
熊澤喜久雄 (第6部会員、東京大学名誉教授)
 
幹事 江頭憲治郎 (第2部会員、東京大学大学院法学政治学研究科教授)
幹事
 
太田猛彦 (第6部会員、東京農業大学地域環境科学部教授)
委員 片岡暁夫 (第1部会員、国士舘大学体育学部教授、筑波大学名誉教授)
委員 外園豊基 (第1部会員、早稲田大学教育学部教授)
委員 宮坂富之助 (第2部会員、早稲田大学名誉教授)
委員 田中啓一 (第3部会員、日本大学経済学部教授)
委員 貫 隆夫 (第3部会員、大東文化大学環境創造学部教授)
委員 入倉孝次郎 (第4部会員、京都大学防災研究所教授)
委員 村橋俊一 (第4部会員、岡山理科大学工学部客員教授)
委員 冨浦 梓 (第5部会員、新日本製鐵(株)顧問)
委員
 
中村 崇
 
(リサイクル工学専門委員会委員長、東北大学多元物質科学研究所教授)
委員 松田藤四郎 (第6部会員、東京農業大学理事長)
委員 田中平三 (第7部会員、国立健康・栄養研究所理事長)
委員 藤村重文 (第7部会員、東北厚生年金病院院長、東北大学名誉教授)
 
 
 

資料の紹介:循環型社会白書のあらまし
官報資料版3664号、平成15年8月6日

 
 
 循環型社会白書は、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)第14条に基づき、毎年政府が国会に報告しているものです。
 
 今回の白書(平成15年版循環型社会白書)は平成13年に第1回の報告がなされてから3回目のものであり、その構成は次のとおりです。
 
 白書では、「平成14年度循環型社会の形成の状況に関する年次報告」として、循環資源の発生、循環的利用及び処分の状況並びに平成14年度に政府が循環型社会の形成に関して講じた施策の状況を記述しています。また、「平成15年度において講じようとする循環型社会の形成に関する施策」として、循環資源の発生、循環的利用及び処分の状況を考慮して平成15年度に講じようとする施策について記述しています。
 
 循環型社会白書の概要は次のとおりです。
 
序章 循環型社会への道筋―「循環型社会形成推進基本計画」について―
 第1節 はじめに
  1 循環型社会形成推進基本法について
  2 循環型社会形成推進基本計画について
  3 循環型社会基本計画の構成
  4 現状と課題
 第2節 目指すべき社会の姿
  1 循環型社会のイメージ―三つのシナリオ―
  2 自然の循環を取り戻すための経済社会の循環の実現
  3 暮らしに対する意識と行動の変化
  4 ものづくりなどに対する意識と行動の変化
  5 循環型社会形成へ向けた各主体の活動の活発化・システムの高度化
 第3節 定量的な目標の設定
  1 数値目標の設定
  2 物質フロー目標
  3 取組目標
 第4節 各主体の取組
  1 国の取組
  (1)法的基盤の整備
  (2)その他の取組
  2 各主体の取組
 第5節 まとめ
  1 計画の効果的実施
  2 持続可能な生産・消費形態への転換 ―真に豊かな社会へ向けて―
 
第1章 廃棄物等の発生、循環的な利用及び処分の状況
 第1節 我が国の物質フロー
  1 我が国の物質フロー
  (1)我が国の物質収支の概観と問題点
  (2)我が国における循環的な利用の概観
  2 廃棄物の排出量
  (1)一般廃棄物(ごみ)の処理の状況
  (2)産業廃棄物の処理の状況
  3 循環的な利用の現状
 第2節 一般廃棄物
  1 一般廃棄物(ごみ)
  2 一般廃棄物(し尿)
 第3節 産業廃棄物
  1 産業廃棄物
  2 大都市圏における産業廃棄物の広域移動
 第4節 廃棄物関連情報
  1 最終処分場の残余容量と残余年数の推移
  2 不法投棄の現状
  3 特別管理廃棄物
  4 ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の処理体制の構築
  5 ダイオキシン類の排出抑制
  6 BSE廃棄物処理
  7 有害廃棄物の越境移動
 
第2章 循環型社会の形成に向けた国の取組
 第1節 施策の基本理念
  1 排出者責任
  2 拡大生産者責任
 第2節 循環型社会の形成に向けた法制度の施行状況
  1 循環型社会形成推進基本法(循環型社会基本法)
  2 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)
  3 資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)
  4 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律
    (容器包装リサイクル法)
  5 特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)
  6 使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)
  7 建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)
  8 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)
  9 国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)
  10 ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法
    (PCB特別措置法)
 第3節 循環型社会を形成する基盤整備
  1 財政措置等
  2 循環型社会ビジネスの振興
  3 経済的手法の活用
  (1)ごみ(一般廃棄物)処理手数料の徴収
  (2)デポジット制度(預託払戻制度)
  (3)廃棄物に関する税制等
  4 教育及び学習の振興、広報活動の充実、民間活動の支援及び人材の育成
  5 調査の実施・科学技術の振興
  6 施設整備
  7 環境の保全の支障の防止、除去等
  8 その他の政府の取組
 第4節 循環型社会の形成と地球環境問題
  1 廃棄物と温暖化対策
  2 国際的な取組
 
第3章 循環型社会の形成に向けた各主体の取組
 第1節 国民、民間団体等の取組事例
 第2節 産業界の取組事例 ―日本経済団体連合会環境自主行動計画―
 第3節 地方公共団体の取組事例
 
○平成15年度において講じようとする循環型社会形成に関する施策
 
第1章 概説
第2章 循環型社会の形成に向けた国の取組
 第1節 循環型社会の形成に向けた法制度の施行について
 第2節 循環型社会を形成する基盤整備
 第3節 循環型社会の形成と地球環境問題
 
 
 

研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画
「欧州研究圏の統合、強化」(2002−2006)の決定
−その5−

 
 
 EU(欧州連合)は、20026月に欧州共同体研究・技術開発第6次枠組み計画(2002-2006)を決定した。さらに、この枠組み計画に示された「欧州共同体の研究の集中と統合」と「欧州研究圏の基盤の強化」について、欧州委員会による間接的な推進戦略を具体的に定めた「個別計画」が20029月に採択され、実施されている。
 
 ここでは、欧州官報に掲載された文書(OJ L 294, 20021029, 1-43ページ)、"Council Decision of 30 September 2002 adopting a specific programme for research, technological development and demonstration: 'Integrating and strengthening the European Research Area' (2002-2006)"(2002/834/EC) (研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006)を採択する2002930日の欧州連合理事会の決定):
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:294:0001:0043:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
から、最後の部分(附則1「科学技術的な目的と活動の概要」のうち「研究の優先テーマ領域」以外の部分、附則2「予算額の内訳」、附則3「計画の実施方法」)を仮訳して紹介する。仮訳するに当たって、不明な用語については、参考になる資料をウェブサイトから検索し、それらを基に訳した。これらの用語には*印を付け、参照した資料の中から、いくつかの資料を掲載した。また仮訳した内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 
 なお、この決定の本文、および附則(個別計画)の前の部分は、「情報:農業と環境」の第37号(20035月)から第40号(20038月)まで:
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn037.html#03714
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn038.html#03815
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn039.html#03913
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn040.html#04008
に紹介されているので、あわせてご覧いただきたい。
 
官報 L 29429/10/2002 P.0001-0043
研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画
「欧州研究圏の統合、強化」(
2002-2006年)を採択する
2002930日の理事会決定
(部分)
 
.. 広範な研究分野を対象とする個別の活動
 
 この標題のもとでの活動は、テーマ別優先領域の研究を補完し、次のような項目で構成される:
 
政策を支援し、EUの科学技術的ニーズを先取りする;
 
中小企業のための個別の研究活動;
 
個別の国際協力活動。
 
... 政策支援と科学技術的ニーズの先取り
 
 これらの活動は、枠組み計画2002-2006年の全体構成の中で、異なった役割をもっている。これらの活動には、欧州共同体研究の基本目標に欠かすことができず、しかもテーマ別優先項目の中だけでは不十分な広範囲にわたるニーズを対象とした研究を、効率的に柔軟に実施することを確保するために、共通の実施の取り決めと、欠かすことができない限界規模(critical mass*1を必要とする。これらの活動には、次のような特定の目的がある:
 
現在の加盟国はもとより加盟予定・候補国の利益に関係する欧州共同体政策の策定と実施を支援し、それらの効果を監視する;
 
欧州の活動が、知識の最先端や新たな市場において、有利な態勢を創り出したり、欧州社会が直面している重要な問題を先取りする可能性からみて適切である場合には、とくに学際的、複合領域の研究分野を含む新しい科学技術的な問題とその可能性を探究する。
 
 これらの活動の共通的な特徴は、主要な関係者(必要に応じて:政策担当者、産業のユーザーグループ、最先端の研究集団など)のニーズと見解を率直に考慮する複数年度計画によって実施するということである。これらの活動は、本計画期間中に実行される柔軟な計画作成制度と併用して実施する。これによって、特定されたニーズに合致し、上記の目的に該当する個別の優先項目が決定される。
 
 このように決定された優先項目は、本計画の他の部分の目的から出た優先項目と一緒に個別計画*2のための活動プログラムに記入し、定期的に更新する。この結果、明らかにされた個別優先項目の活動に関する予算が実施期間を通して追加配分される。
 
 欧州委員会がこの活動の決定作業を行うが、EU内と本枠組み計画に関連する国々の関係集団の広範な協議に応えて認められた提案に基づいて、組み入れるべき課題を決定する。
 
 34000万ユーロの第1期の配分が、現在、特定されたニーズに基づいて決定され、以下のような特定の研究活動に割り当てられることになる; 残りの21500万ユーロは、個別計画の実施期間中に配分され、この中で「政策の支援と科学技術的ニーズの先取り」を扱うために不可欠な柔軟性を保つという要求を十分に考慮する。
 

*1: http://www.recruit.co.jp/cgi-bin/rperl5.pl/tmd/ja/ref/ref_vocabulary.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn037.html#03714 の第1条参照

 
(i) 政策志向の研究
 
 この項目の活動は、とくに次のことを支援する:
 
共通農業政策(CAP)と共通漁業政策(CFP);
 
持続可能な開発、とくに、第6次環境行動計画で提示したものを含む環境にかかわる欧州共同体政策の目的; エネルギー(グリーンペーパー「エネルギー供給の安全保障のための欧州戦略に向けて」); および運輸(欧州運輸政策に関する白書);
 
他の欧州共同体政策、つまり、保健衛生(とくに公衆衛生)、地域開発、貿易、開発援助、域内市場と競争力、社会政策と雇用、教育研修と文化、男女格差の解消(gender equality*1、消費者保護、自由・安全・司法領域の確立*2、拡大支援政策をはじめとする対外関係、および必要な統計的手法とツールなど;
 
経済政策、e欧州ばかりでなく情報社会、そして事業などについて、欧州理事会が示した政策方針に基づく欧州共同体政策の目的。
 
 これらには、欧州共同体政策のニーズとして必要な場合には、前標準化の研究、測定さらに検査を含めることができる。さまざまな政策領域間の関連を考慮する。
 

*1: http://homepage.mac.com/shukran/gdwstp/gender.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)    のp.2参照
*2: http://www.fsinet.or.jp/~yuji-o/eu/council/tampere.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://web.onetel.net.uk/~yoichiro/japanese_lecture_EU.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
のアムステルダム条約の項

 
複数年度計画の作成
 
 これらの活動についての複数年度計画の作成においては、関連の政策にかかわる各科学委員会の意見を考慮に入れる。計画の作成は、さまざまな欧州委員会部局によって構成される利用者グループの協力を得て実施し、必要に応じて、高いレベルの科学者と産業専門家から構成される独立した諮問組織に依頼することもある。利用者グループは、組み入れるべき課題について推奨された提案を、次の基準に基づいて評価する:
準備中の法案やその政策の最終期限に結びつくことなど、政策の立案と発展への貢献;
EUの競争力*1、科学技術基盤の強化、および候補国の効果的な統合を含む欧州研究圏の実現に貢献する研究課題の可能性;
欧州の付加価値*1(とくに加盟国が関連分野で実施する研究を考慮する);
提案された研究テーマと研究手法の科学的な妥当性と実行の可能性;
これらの活動と、欧州共同体政策を支援する共同研究センターの直接行動との間の仕事の適切な仕分けと相乗効果の確実性。
 

*1:  (対応するページが見つかりません。2012年8月)

 
 緊急で不測の研究を必要とするような危機が万一起きたなら、同じ評価基準に基づく緊急処置の手段を用いて、プログラムの作成を変更することがある。
 
第1期の研究優先項目
 
 緊急のニーズに応える政策志向の研究優先項目は、関連科学委員会の助言を適宜、取り入れ、欧州委員会の政策部局が作成した課題の提案だけでなく、欧州理事会の会合の一連の結論で出されたような欧州連合の広範な目的も根拠にしている。
 
 この優先項目は、さまざまな政策要求と科学的情報との間の相乗効果を最大限に活用し、またテーマ別優先項目を横断し、補完的構成になるように、次のような行動方針でグループ化される:
 
欧州の天然資源の持続可能な管理。この項目の研究は、とくに共通農業政策と共通漁業政策の近代化、持続可能性、および林業を含む農村開発の振興にかかわる政策要求に応える。次のことに重点をおく:
 
農村地帯の持続可能な開発と振興を確かなものにするための多面的機能など、農業と林業の近代化と持続可能性;
 
持続可能な農林業管理のためのツールと評価法;
 
たとえば、水産養殖業を基盤とした生産システムといった、漁業政策の近代化と持続可能性;
 
口蹄疫や豚コレラのような動物疾病に関する研究やマーカー・ワクチン*1の開発など、動物の保健衛生と福祉を改善するための新たな、環境により一層配慮した生産方法;
 
環境評価(化学物質の影響を含む土、水、空気、騒音);
 
とくに、環境法を履行するための効果的かつ低コストの技術に関する評価など、政策決定を支援するための環境技術の評価。
 

*1: http://lin.lin.go.jp/alic/week/2002/nov/555eu.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/prion/pf116.htm    の第4節
    http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/cholera/technical.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月) のQ9

 
欧州の人々に健康、安全と機会を提供する。この項目の研究は、とくに将来の社会政策問題、公衆衛生と消費者保護、および自由、安全と司法の領域の創設など、欧州社会アジェンダ*1の実施に関係する政策要求に応える。次のことに重点をおく:
 
健康の決定要因*2、および質の高い持続可能な衛生保健(health care*3サービスと年金システムの対応(とくに高齢化と人口変化という面において);
 
疾病の予防*4と新たな希少感染症への対応に貢献する疫学、アレルギー、安全な血液と臓器提供のための手順、非動物実験法*5など、公衆衛生問題
 
環境問題が健康に与える影響(仕事中の保安とリスクアセスメントの方法、および人々への自然災害リスクの軽減など);
 
社会的に不利な人や障害者(handicapped/disabled people*6にかかわる生活の質の問題(平等な利用施設など);
 
違法な入国や人身売買など、移住と難民流入の根底にある要因の比較研究;
 
犯罪の傾向と原因を予知し、犯罪防止政策の有効性を評価する方法を向上させる;
 
違法薬物使用に関連する新たな問題についての評価;
 
(バイオセキュリティー*7とテロリスト攻撃によるリスクに備えた保護など)市民防護(civil protection*8に関連する問題と危機管理。
 

*1: http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/lisboa_strategy.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.jil.go.jp/kaigaitopic/2002_05/italyP01.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.nier.go.jp/homepage/syakai/01/h11/rejime/11shuji-b/b-kiuchi.htm (対応するページが見つかりません。2011年5月)
の4,健康教育についての国際的認識の項
*3: http://www.rotary.or.jp/data/yougo.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*4: http://rnnnews.jp/category/pg/print.php?ch=33
*5: http://www.oecdtokyo.org/theme/envi/2002/20020321testingmethod.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*6: http://wwwsoc.nii.ac.jp/ppsaj/pdf/journal/pdf1999/1999-01-006.pdf (対応するページが見つかりません。2015年5月)
社会的不利な生命の項
    http://www.arsvi.com/0w/no01/19980625.htm
    http://www8.ocn.ne.jp/~yamaki/disability02.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
 : http://rnnnews.jp/category/pg/print.php?ch=62
*7: http://www.adthree.com/jalam/societies-j/jalam/No19.htm (対応するページが見つかりません。2011年5月)
の3.実験動物施設とバイオセキュリティーの項
*8: http://www.drc-jpn.org/AR-6J/tooyama-j02.htm (対応するページが見つかりません。2011年5月)

 
これまでよりも拡大化され、さらに統合化された欧州連合の経済力と結束を強化する。この項目の研究は、とくに、拡大、グローバリゼーション、および欧州と他の国々との貿易の面から、欧州経済の競争力、活力および統合にかかわる一連の政策ニーズに応える。次のことに重点をおく:
 
欧州の統合、持続可能な開発、競争力および貿易政策(経済の発展と結束を評価する方法の向上など)の強化;
 
持続可能な輸送とエネルギーシステムの実績を経済、環境、社会的に評価するツール、指標および操作パラメータの開発;
 
輸送のための地球規模の安全保障の分析と検証システムおよび移動システムにおける事故リスクと安全性に関する研究;
 
中長期の持続可能性のための革新的な政策の予測と開発;
 
情報社会問題(デジタル資産の管理と保護*1と情報社会への包括的利用など);
 
文化遺産の保護および関連する保全戦略;
 
欧州統計の質、利用のしやすさ、およびその普及の向上。
 

*1: http://s-web.sfc.keio.ac.jp/intap-public/data/ipsj_vol43-no7/ipsj5.pdf (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
 さまざまな政策領域に共通の研究問題を扱う場合、とくに、政策に関連する統計と指標の開発において、人口構成の変化や測定とその影響の評価、しかもさらに広範囲な研究問題を扱う場合には、協調した取り組みを確保する。政策立案者は、政策志向の研究の成果に関して、適切で時機を得た情報を持つ必要もある。
 
(ii) 新たな科学技術的問題と可能性を探求する研究
 
 この項目の研究は、欧州共同体研究の正当な範囲内に入るが、とくにこの研究は非常に学際的で複合的な領域またはそのいずれかの領域なので、テーマ別優先領域を横断したり、その領域外にある新たな領域のニーズに応じている。この研究は予期しない重要な発展にも応じる。EUの全域から資源をまとめることによって、この研究は、その道を開き、あるいは新たな科学技術的発展を生み出し、欧州の研究が先導的な地位になることを目的にしている。この研究は学界と産業との間の考え方の流れを刺激し、機能的な知識基盤社会への推進力のために、欧州の研究資産をさらに活用できるようにする。
 
最初は、次の活動領域を支援する:
 
欧州社会に非常に重要な新たなリスクや問題を示すかもしれない新たな発見や新しく観察された現象を評価する研究と、それらへの適切な対応を解明する研究。
 
知識の先端領域で、しかも未来技術に関する研究、とくに非常に革新的で、しかも高い技術的リスクに呼応して必要となる超領域分野*1の研究。
 

*1: http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/17htm/1766-1z.html#2-1-3 (最新のURLに修正しました。2010年5月)
213 内在的契機:学術の状況と自己革新の胎動 の項

 
 活動は、重大な産業的、社会的な影響、あるいはより長期的な欧州の研究能力の発展に、かなりの可能性がある新しい考え方を受け入れる。提案は、研究の優秀さ、将来の影響に対する可能性、およびこれらの領域のなかで最も重要なものをとくに革新性に基づいて評価する。
 
複数年度計画の作成
 
 上記の分類の中で、この計画の実施期間中に重視する個別課題があれば、この項目の下で実施中の研究活動を考慮しながら、将来の社会的、産業的、経済的な影響についての緊急性や可能性に基づき、複数年度の計画作成を使って選定される。提案された課題の評価は、高い水準の科学者と産業専門家で構成する独立した諮問組織の支援で実施され、次の基準を取り入れる:
 
技術革新、EUの競争力、科学技術基盤の強化、候補国の効果的統合化を含む欧州研究圏の実現のために提案した研究課題の貢献の可能性;
 
提案された研究テーマと研究手法の科学的妥当性および適時性。
 
 緊急で不測の研究を必要とするような危機が万一起きたなら、プログラムの作成は、同じ評価基準に基づく緊急処置の手段を用いて変更することがある。技術予測調査*1は、優先項目を設定する方法の情報を提供することにも貢献をすることができる。
 

*1: http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/technology/science/science_1.html#2-4 (対応するページが見つかりません。2010年5月)
の(4)技術予測「Foresight」の項
    http://www.fcrc.titech.ac.jp/publish/dissertation/gb.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
の(1)産学共同研究関連施策の項
    http://www.foresight.gov.uk/

 
(iii) 実施
 
 活動計画の提案募集を行う前に、とくに新たな科学技術分野を探究している領域では、関心があるか否かを必要に応じて求める。これらは基本的に、次のような形態を取る。
 
概して制限規模のある特定の目標を定めた研究プロジェクトは、対象とすべきニーズにふさわしい規模をもった協力によって実施される;
 
協調行動、そして加盟国、候補国および他の協定国の今の能力を動員することによって目的を達成することが可能な場合には、国の段階で実施する研究活動をネットワーク化する。
 
 確かに、十分な根拠がある場合、つまり追求する目的がこの方法でうまく達成できる場合には、優良ネットワーク*1と統合プロジェクト*1を限定して利用することができる。提案は、独立した専門家が評価した後、委員会が選定する。個別の支援行動は、これらの活動を実施するためにも利用される。
 

*1: http://it.jeita.or.jp/infosys/f-office/paris0205/paris0205.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
の第6次フレームワーク計画案の全体像の項

 
... 中小企業に関係する横断的研究活動
 
目的
 
 中小企業(SMEs)は、欧州の競争力*1と雇用の創出において重要な役割を果たしている。これは欧州の企業の中で、中小企業が圧倒的に多いだけでなく、中小企業が新たな市場、とくに技術の先端、活力そして変化の源であるからである。中小企業は、異業種の集団であるけれども、欧州の域内市場の完成、常に技術革新を行い、技術進歩に適応しなければならないため、ますます競争力を高めることが突きつけられている。そのうえ、中小企業数の増加は、新販路とビジネスチャンスを求めて国際化を必要としており、またそれを望んでいる。
 

*1: (対応するページが見つかりません。2012年8月)

 
 中小企業は、ほとんどの場合、優良ネットワーク、統合プロジェクトおよび特定の目標を定めた研究プロジェクトの中の優先テーマ領域のもとで行われる活動に参加することになる。さらに、団体研究、協同研究に関する行動形態の中に中小企業のための特別の制度が用意されている。これらは、新技術を受け入れる能力を持っているが、研究機能が制限されている中小企業の広範な集団が主に関係している。だが、協同研究の制度では、革新的な中小企業と大学や研究センターとの協力も可能である。
 
 全体的にみれば、中小企業の横断的活動のほかに、この計画の7つのテーマ別優先項目に関連する予算の15%以上が中小企業に配分される。
 
(i) 団体研究
 
 団体研究(collective research)は、中小企業の広範な集団の知識基盤を拡大するために企業アソシエーション(industria associations*1や企業グループ(industry groupings)に代わって研究技術開発(RTD)の実施者が引き受ける研究の形態である。これによって、競争力の全体的な水準を高める。団体研究は、充実したプロジェクトを数年間にわたって欧州ベースで実施するので、産業界の重要な部門の技術的ニーズを扱う効率的な方法である。
 
 この方策は、多くの加盟国の現行の制度に基づいて、企業グループが欧州の段階で多数の中小企業に共通する研究ニーズを特定し、開始することを可能にすることが目的である。この方策は、すべての産業部門について欧州全体の技術水準を向上させなければならない。この方策は、異なる国々の企業グループを相互に結びつけることによって、しかもプロジェクト調整者の責任を高めた大規模プロジェクトに出資することによって、欧州研究圏の目的に沿って団体研究の領域を構築することに貢献する。
団体研究プロジェクトは、たとえば、次のことを対象にすることが可能である:
 
共通の問題/課題に取り組むことを目的とした研究(例えば、法的規制、環境パフォーマンス(environmental performance*2
 
前標準化研究(欧州基準と標準についての科学的根拠を提供するための研究);
 
特定部門の技術的基盤を強化するための研究;
 
−「技術的ツール」の開発(たとえば診断法、機器の安全性)。
 
 プロジェクトは、明確に定義された指針に基づいて、欧州の段階で設立した企業アソシエーションや他のグループによって、あるいは欧州諸国で設立した2つ以上の国内企業アソシエーション/グループによって管理される。中小企業の利益を代表する欧州経済利益グループ(European Economic Interest Groups)も対象となる。各プロジェクトに関連する中小企業の「中核グループ」は、研究の概念設計段階(definition phase*3から、得られた成果の普及までの進ちょくを監視する。
 

*1: http://www.inhcc.org/i06/ (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://jicr.roukyou.gr.jp/hakken/2000/08/tomizawa.html
*2: http://www.besow.com/14_yogo.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
http://business2.plala.or.jp/ishioka/main/730simin/733kankyou/iso/standard/14050.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/pdf/020213_5_10.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
の(3)スケジュールの項

 
 課題を特定し、提案を採択するには、2段階の方法が想定される(提案概要を募集、そして第1回目の評価で選定された提案を完全な提案にした後、提案の中から評価、選定する)。出資の額と団体研究プロジェクトの契約上の取り決めは、団体研究の目的に依存する:
 
ある特定の産業分野の競争力を強化することを目的とするプロジェクトは、対象となる合計費用の50%まで、欧州共同体の拠出金から給付が受けられる。この場合には、契約関係者(企業グループ)が、成果を所有する;
 
説得力のある立法上の内容あるいは「公共の福祉」の内容をもつプロジェクト(環境保護、公衆衛生の増進など)は、さらに多くの資金援助が得られる。この場合には、研究成果を欧州全体に普及することを重視する。
 
 どの場合においても、たとえば特別な研修とデモンストレーション(「受け渡し」)行動によって、中小企業の間に成果の普及があると思われる。
 
(ii) 協同研究
 
 協同研究は、特定の問題やニーズをもつ複数の国々からの一部の中小企業が、必要とする研究をRTD実施者に外部委託し、成果の所有権は保持するという制度である。プロジェクトは、比較的短期で、関係する中小企業の特定のニーズと問題に基づいて、あらゆる研究課題や分野に取り組むことができる。中小企業ではない他の企業と最終利用者は、中心的役割をもたず、またこの成果の利用に制限があるという条件で、協同研究プロジェクトに参画できる。
 
 これらの活動は、革新的で先端技術をもつ中小企業が研究センターや大学と協力して研究を行うこともできる。
 
 協同研究は、提案の公募によって行われる。
 
 中小企業の参画の可能性についての情報と助言が、欧州委員会が設置する申請窓口を通して、また国内窓口(National Contact Points)機関を利用することによって、確保される。この活動は、加盟国と協定国における中小企業の国内窓口専用ネットワークと協調することにも責任があり、優良ネットワークと統合プロジェクトを含む本枠組み計画の参加についての情報と支援を地域と国の段階で中小企業に提供する。経済技術の情報活動ならびに「研究と技術革新」の項目の下で実施される技術革新支援サービスとの緊密な協調は、予想される手段と活動のすべてから中小企業が恩恵を受けることを確実にする。
 
... 国際協力を支援する個別の方策
 
 本枠組み計画のもとで実施される国際協力活動の全体的な目的は、欧州以外の国々のために欧州研究圏の開放を促進することである。これらの活動は、開放手続きに対する本枠組み計画独自の貢献であり、この活動には欧州共同体と加盟国による共同の取り組みが必要である。
 
 この項目における、活動には、次の特別の目的がある:
 
世界中の他の地域にある知識や専門知識を利用するため、EUと本枠組み計画に関連する国々の欧州の研究者、事業および研究組織を支援する。
 
知識の範囲を広げ、あるいは、たとえば健康と環境に関して、主要な地球規模の問題を解決させるために国際的規模で行う研究構想に関して、欧州が緊密であり、首尾一貫した参加を確実にさせる。
 
欧州共同体の対外政策と開発援助政策の実施に対して、科学技術分野で支援する。
 
 第三国(third-country*1の研究者と機関の参加のために、7つのテーマ別優先項目の活動を利用できるようにすることに加えて、国際協力活動は個別の活動の形態をとる。
 
 欧州共同体の対外政策と開発援助政策の支援を実施する場合には、これらの個別活動は、3グループの国々が関係する: 西バルカン諸国を含む地中海の第三国、ロシアと他のNIS諸国、そして発展途上国。
 
 これらの活動は、これらの国々が利用できる優良ネットワークと統合プロジェクトへの、研究者と機関の参加を補完するような方法で、しかも研究のテーマや国々によって変えることができる方法で実施される。
 
 この活動分野の研究優先項目は、これらの国の固有の経済的、社会的ニーズはもとより、さまざまなグループの国々との欧州共同体の政治的協力にかかわる関心と目的に基づいて定められる。
 
 そのために、とくに次のことが対象になる:
 
発展途上国の場合は、保健衛生と公衆衛生、食料確保および資源の合理的開発の問題。
 
地中海の第三国*2の場合は、欧州−地中海パートナーシップ*3の発展を支持して、文化的遺産の保護はもちろん、環境問題、保健衛生と水問題。持続可能な農村開発の面を、適切な場合、十分に考慮に入れる。さらに、西バルカン諸国の場合、地域の安定性を支持して、環境、保健衛生および農業、工業の施設への戦争の影響を償うことかかわる問題。
 
ロシアと他のNIS諸国の場合は、研究技術開発の可能性の安定化、工業生産システムの変更にかかわる問題、環境と保健衛生の保護および関係する安全性の側面。
 
 これらの活動は、限定された規模の研究技術開発ならびにデモンストレーションプロジェクト、国内の取り組みを協調する行動、そして必要な場合には、特定の支援方策によって実施される。
 
 ロシアや他のNIS諸国との協力活動は、とくに 欧州共同体と加盟国が共同で設置した組織INTAS*4を介して実施される。
 
 3つの場合すべてについて、地方の研究システムを強化、安定、開発あるいは適応させることが極めて重要な目的である。
 
 したがって、本枠組み計画の活動は、地中海の第三国の場合はMEDA*5計画、ロシアと他のNIS諸国の場合はTacis計画*5、発展途上国の場合はEDF(欧州開発基金)*6ALA*5(ラテンアメリカおよびアジア)基金など、金融手段を用いて行う活動によって協調と相補性を強化することに努める。これらの活動は、研究のための人的資源、研究施設および技術革新と研究成果の活用にかかわる能力の各国における発展を促進させることができる。
 

*1: http://rnnnews.jp/indepth/pg/view.php?ch=010
*2: http://www.investing-in-europe.com/jp/histo_5.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
3の (3) 地中海、アフリカ、中南米 の項
*3: http://jpn.cec.eu.int/japanese/europe-mag/1997_0910/buttonsp16.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*4: http://w-baikal.nies.go.jp/bicer/bicernews/NEWS8069.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
 ウラン・ウデ会議報告の項
*5: http://www.uknow.or.jp/be/ukview/eu/eu04.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*6: http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2003/06/01africa.html

 
. 欧州研究圏の基盤強化
 
 欧州研究圏の確立は、国、地域および欧州の段階で実施される研究と技術革新の活動ならびに政策の一貫性と協調を強化することにかかっている。
 
 この分野における欧州共同体活動の目的は、欧州の組織の間はもとより、国、地域の段階で行われる計画の協調と共同行動を促進し、支援することであり、これによって整合性のある政策の開発に必要な共通の知識基盤の発展を促進する。この活動は、テーマ別優先領域を含むすべての科学技術領域で実施する。
 
.. 活動の協調のための支援
 
国内活動の協調
 
 目的は、共通の重要な関心領域において、数カ国で開始する新計画を促進、支援し、新計画の実施の協調、研究成果の相互開示と相互利用を通して、各国の既存の活動との間の相乗効果を発展させるだけでなく、共同活動についても設定、実施する。
 
 これに関係する活動は、国、地域の段階で開始する計画あるいは計画の一部、手段、企画あるいは他の新計画として了解され、研究技術開発業務、研究能力の開発および技術革新の促進を支援するための公的資金の供給を伴わなければならない。この活動は、国または地域の段階の公的機関や研究機関によって、あるいは、欧州の協力枠組み、とくに欧州科学基金*1の協力機構であるEUROCORESEuropean Science Foundation Collaborative Research Programmes Scheme*2を通して行うこともできる。
 

*1: http://www.euinjapan.jp/media/magazine/magazine1999/99_03_04_html/ (最新のURLに修正しました。2012年8月)
(欧州委員会代表部)
    http://www8.cao.go.jp/cstp/project/export/Reports/h12/honbun-all.pdf 
(内閣府)
    http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/odinfo/abbreviation.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.nerc.ac.uk/international/esf.shtml (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www3.jetro.go.jp/ma/tigergate/info/techinfo/pdf/449/449.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
15ページ (ジェトロ)

 
 積み上げ方式による協調活動を促進するための取り組みは、次のような領域で、横断的領域や学問分野など、科学技術の全分野で実施される:
 
保健衛生: 重要な年齢層の保健衛生; 主要な疾患と障害(ガン、糖尿病と糖尿病関連疾患、神経系の変性疾患、精神疾患、心臓血管疾患、肝炎、アレルギー、視覚障害、感染症など)、希少疾患; 代替医療*1、つまり非通常医療*2 および開発途上国における貧困と連結している主要な疾患; 緩和ケア*3 必要とされる活動は、たとえば、研究と比較調査の協調、欧州データベースと学際ネットワークの開発、実地臨床*4の情報交換と治験*5の協調を通して実施される。
 
バイオテクノロジー: 保健医療と食品を除く応用。
 
環境: 都市環境(持続可能な都市開発と、たとえばエコサイト構想を含む文化遺産など); 海洋環境と土地/土壌管理; 地震リスク。
 
エネルギー: 新型発電所(「ゼロに近い排出」)、エネルギーの貯蔵、輸送および配給。
 

*1: http://www.nsknet.or.jp/~nagasato/daitai.html
    http://www.page.sannet.ne.jp/onai/Oversea.html#OCAM
*2: http://camunet.gr.jp/whatscam/whats01.html (対応するページが見つかりません。2011年1月)
*3: http://www.bekkoame.ne.jp/~ta5111oz/hospice/palliative1.html
    http://www.naika.or.jp/manual/46.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*4: http://www.rad-ar.or.jp/english_old/ekigaku/kankou/pdf/Yekigaku.pdf (対応するページが見つかりません。2011年5月)
*5: http://www.chikennavi.net/faq/chiken.htm

 
 欧州共同体は、次のことを支援することによって、国と地域の活動と計画をネットワーク化する新計画を促進し、支援する:
 
相互開放を含む個別活動の協調;
 
共同活動の準備と管理。
 
 この目的のため、欧州共同体は:
 
提案の公募(評価は年2回)に応募した中から、選ばれた提案を支持する。適切な場合には、提案の募集の前に、参加の意向があるか否かの募集が公告される。
 
提案には、戦略上役立つ調査と設計、研究集団と技術革新集団との協議、提案の共同募集とピアレビュー*1委員会、情報と成果の交換や普及、計画の監視と評価、人的交流などが該当する。
 
提案は、次の面をとくに考慮して評価する: 動員*2される研究資源の範囲、科学技術的妥当性と影響、欧州規模での研究資源の利用について期待される改善、そして、適切な場合には、技術革新の促進への貢献。
 

*1: http://www.mmc.funabashi.chiba.jp/safety/files/5_1.pdf (最新のURLに修正しました。2010年5月)
    http://www.icot.or.jp/FTS/REPORTS/H10-reports/AITEC9903Re1_Folder/AITEC9905R1-ch2-2.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(米国NSF)
    http://www.fed.or.jp/fedmeeting/nrpd2002/NR10_kalbe_prog.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
3ページ (欧州委員会FET)
*2: http://www2.kokugakuin.ac.jp/~ogiso/research/sio76.html

 
次の関係者に関連する情報を供給するために、簡単にアクセスでき、使いやすく、定期的に更新される統合情報システムを開発する:
 
政策立案者と計画管理者: 国と地域の研究計画、手段、協調の機会を特定することを促進するために着手、企画した研究活動、ネットワーク化あるいは共同新計画に関する情報;
 
研究集団: 研究集団が参加可能な国、地域の計画、あるいは共同計画に関する情報。
 
欧州の段階での協調
 
 目的は、この枠組み計画によって行われる欧州共同体の行動と他の欧州科学協力組織のその行動との間の相補性と相乗効果を高めるだけでなく、これらの組織間についても相補性と相乗効果を高めることである。協調と協働を強化することによって、欧州のさまざまな協力の枠組みは、欧州の研究の取り組みの全体的な一貫性と欧州研究圏の確立にこれまでよりもさらに効果的に貢献することになる。
国際活動への欧州共同体の参加は、十分な理由がある場合、支援される。
 
他の欧州協力枠組において実施される科学技術協力の活動
 
欧州科学技術研究協力(COST*1は長年にわたる積み上げ方式の仕組みであり、さまざまな領域において各国の資金による科学者および研究チームの間の協調と交流を促進している。COSTが政府間の役割を果し、欧州研究圏の研究調整に費用対効果の高い貢献を確保し続けるために、その管理協定を新たな状況に適応させなければならない。これには、この計画のもとで財政支援を受けられる適切な組織をCOST加盟国が設立する必要がある。
 
欧州科学財団、COSTおよびこの枠組み計画の活動の間の協調を強化することは、共通の関心の領域においても求められる。
 
ユーレカ(EUREKA*2との協調は、とくに、テーマ別優先領域における資金調達の戦略的統一性と相補性を向上させるために強化されることになる。共同の情報通信の行動も、必要に応じて組織化されることになる。
 

*1: http://www.euinjapan.jp/media/magazine/magazine1999/99_03_04_html/ (最新のURLに修正しました。2012年8月)
(欧州委員会代表部、1999)
    http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa199401/hpaa199401_2_028.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)
(3) EUの科学技術政策の項
    http://www3.jetro.go.jp/ma/tigergate/info/techinfo/pdf/449/449.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(JETRO報告書、2003/8、第3章)
*2: http://www-cger.nies.go.jp/cger-j/db/info/org/eureka.htm (対応するページが見つかりません。2011年5月)
(国環研データベース)
    http://www3.jetro.go.jp/ma/tigergate/info/techinfo/pdf/449/449.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(JETRO報告書、2003/8、第4)
    http://jpn.cec.eu.int/japanese/eu-relations/3-12-3.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
専門化した欧州科学協力組織の協働と共同構想
 
欧州合同素粒子原子核研究機構(CERN*1、欧州宇宙機関(ESA*2、欧州南天天文台(ESO*3、欧州北天天文台(ENO*4、ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL*5、欧州放射光施設(ESRF*6、ラウエ・ランジュバン研究所(ILL*7など、課題別の欧州組織に関して、欧州共同体は、とくに、共通の関心問題について、共同の取り組みと行動の発展を通して、各組織の活動間、および欧州共同体の行動との間の統一性と相乗効果を強化することを目的とする具体的な構想を促進、支援する。
 

*1: http://ew.hitachi-system.co.jp/w/CERN.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/pr/yogo/c.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(外務省)
*2: http://www.nasda.go.jp/press/1999/07/esa_990707_j.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www3.jetro.go.jp/ma/tigergate/info/techinfo/pdf/449/449.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(JETRO3ページ)
*3: http://www.minorbody.org/people/nikkei_sekiguchi.html (対応するページが見つかりません。2011年5月)
    http://www.astroarts.co.jp/news/2003/01/23cdf-s/index-j.shtml
*4: http://www.iac.es/gabinete/obnorte/norte1.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*5: http://www-cger.nies.go.jp/cger-j/db/info/acro/e.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.ccifj.or.jp/lm/nihongo/238/news2.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*6: http://www.shokabo.co.jp/sp_Xray/familiar/spring/spring1.htm   (最新のURLに修正しました。2010年5月)
(大型放射光施設の解説)
    http://www.inv.co.jp/~yoshio/DW/Ryaku/RyakuE.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*7: https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/kagaku/chusei/ibaraki-bl/naniga/documents/hokoku.pdf (最新のURLに修正しました。2015年5月)
21ページ

 
.. 研究と技術革新に関する政策の一貫性のある発展
 
 この領域で行なう活動の目的は、国、地域および欧州共同体の政策担当者に政策を策定するのに役立つ知識と決定支援ツールを提供するのはもとより、共通の関心事項の課題と領域を早期に特定することによって、欧州における研究と技術革新に関する政策の一貫性のある発展を促進することである。
 
 このために実施する活動は、次の領域で行われることになる:
 
分析と調査; 予測、統計と科学技術指標に関する研究
 
これらの活動には、欧州研究圏の実現に関連して、科学技術活動および研究と技術革新に関する政策についての、調査、分析および予測活動が含まれる。
 
予測に関する活動には、とくに、予測分析の利用者と製作者のためのテーマ別の対話型プラットホーム*1と知識基盤の開発、方法論に関する優良規範(good practice)の活用だけでなく欧州の科学技術の中長期シナリオの作成も含まれる。
 
指標に関する研究には、研究と技術革新のいろいろな側面や経済ならびに社会に及ぼすそれらの影響を考慮して、たとえば加盟国と地域の科学技術の成績を比較するために、適切にそろえた指標をさらに開発することが含まれる。
 

*1: http://www.ecrp.org/topic-s/platform/plat-rp.html#r1.1 (対応するページが見つかりません。2015年5月)

 
国、地域および欧州の段階の研究新政策のベンチマーキング*1
 
2000年に始まった国の研究技術開発政策をベンチマークするための第1期の活動は、2002年の半ばで終了する。この活動を考慮して、次回のベンチマーキング期間の方法(指標含め)を変更し、活動をEUや協定国に加盟する段階でこれらの国々で開始し、あちこちに拡大し、しかも他のテーマを組み入れて適用範囲を拡張する。加盟国および研究関係組織との緊密な協働で、ベストプラクティス(best practices*2の適用の普及とモニタリングに特別な配慮を払う。
 
技術革新の領域において、進行中のベンチマーキングの活動(欧州での技術革新政策に関する情報収集、「技術革新の実績表」の開発および政策担当者の「テーマ別クラブ」による技術革新政策の「ピアレビュー」の組織)は、技術革新の関係者が関係するので、社会的面から、そして地域的面から、あちこちで開始すように適用範囲を拡張する。
 

*1: http://www.bekkoame.ne.jp/~kmakoto/EMS/ebm.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.d1.dion.ne.jp/~syunsyun/yougo2.html
*2: http://www.fispa.gr.jp/words/words_ja.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.d1.dion.ne.jp/~syunsyun/yougo2.html
    http://www.cmt.co.jp/07_InfoSrc/ERP/ENG/ERP_E01-a-c.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
欧州における優秀な科学技術の調査
 
優秀な科学技術の調査活動は、該当するテーマ数を増やすことと、実績を定期的に更新するという2つの指針によって、適用範囲を拡張する。
 
利用可能な情報を非常に広い範囲に普及させることばかりでなく、欧州における研究の取り組みの統合化を促進させる活動と、この調査を協調させることにも特別な配慮を払う。
 

: http://www.blackbox.co.jp/blackbox_fix0826/jiten/kana_ma1.html#17
:  (対応するページが見つかりません。2012年8月)

 
欧州における研究と技術革新のための規制と運営環境を改善する
 
ここでの目的は、規制と運営上の支障を点検・分析し、優良管理規範を特定、普及し、新たな方法の開発を促進することである。関係すると思われる領域のいくつかを次に示す: 知的所有権と工業所有権; 研究と技術革新にかかわる官と民の関係; 知識の活用と普及; 市場に出ている新製品あるいは新たなサービスの利用を統治する規定; 研究と技術革新への資金の供給、とくに民間部門からの投資を促進する機構。
 
附則II
予算額の内訳(見積もり額)
 

活動の種類

 

金額
(100万ユーロ)

欧州共同体の研究の集中と統合(1)

12,585  

研究の優先テーマ領域(2)

11,285  

健康のためのバイオサイエンス、ゲノミクスおよびバイオテクノロジー(3)
 −
先進的なゲノミクスと医療への応用
 −
重大疾患への取り組み
情報社会技術(4)
ナノテクノロジーとナノサイエンス、知識ベース多機能材料、
 および新たな製造プロセスとデバイス
航空と宇宙
食品の質と安全性
持続可能な開発、地球変動および生態系
 −
持続可能なエネルギーシステム
 −
持続可能な陸上・海上交通
 − 地球変動と生態系
知識基盤社会における市民と統治

 

2,255
1,100
1,155
3,625
  

1,300
1,075
 685
2,120
 810
 610
 700
 225

広範な分野を対象とする個別の活動

1,300

政策支援と科学技術的ニーズの先取り
中小企業に関係する横断的研究活動
国際協力を支える個別の方策(5)(6)

 555
 430
 315

欧州研究圏の基盤強化

 320

活動の協調のための支援(7)
整合性のある政策発展の支援

 270
   50

合計
 

12,905  
 
(1)
 
欧州共同体設立条約第169条に従った欧州議会と理事会の決定のもとで利用される予算額を含む。
(2) このうち15%以上を中小企業向けとする。
(3) うち400百万ユーロまでをガン関連研究に向ける。
(4)
 
うち100百万ユーロまでを汎欧州研究開発ネットワーク(Geant)とグリッドコンピューティングシステム(GRIDs)のさらなる開発に向ける。
(5)


 
この315百万ユーロは、発展途上諸国、地中海諸国、西バルカン諸国、およびロシアとNIS諸国を含む国際協力を支援する個別手段の資金となる。別に285百万ユーロが、テーマ別優先項目と広範囲の研究分野に対応する個別活動への他の国の参画のために使われるので、国際協力にあてられる総額は600百万ユーロとなる。
(6) このうち70%をINTASに使用する。
(7) このうち50百万ユーロ以上80百万ユーロ以下をCOSTに使用する
 
附則III
計画の実施方法
 
 個別計画を実施するために、また、欧州研究圏の創設に貢献するための研究、技術開発およびデモンストレーションの活動についての欧州共同体複数年度枠組み計画2002-2006年に関する欧州議会と理事会の決定(No1513/2002/EC)、企業、研究センターと大学の参加および研究成果の普及のための規定に関する規則(ECNo2321/2002に従って、欧州委員会は、さまざまな手段を用いる。
 
 各テーマ別優先領域について、新たな手段(統合プロジェクトと優良ネットワーク)は、限界規模、管理の簡略化および国の段階ですでに開始されている研究に対して欧州共同体研究が関与した欧州の付加価値*1の目的、さらにその上、研究能力の統合という目的を達成するための全体的な優先的方法として重要であることが認められている。
 
 しかし、プロジェクトの規模は、採否の判定の基準でなく、新たな手段の利用は中小企業と他の小さな事業体に保証される。
 
 新たな手段が、優先的方法として各テーマにおいて第6次枠組み計画の開始から利用され、適切と思われる場合には、特定の目標を定めたプロジェクトと協調行動の利用も継続する。
 
 欧州委員会は、上記の正式の手段の中で提示した評価基準に従って、提案を評価する。
 
 欧州共同体の拠出金が、上記の正式の手段に従って、また研究に対する国庫補助の欧州共同体の枠組みに従って与えられる。
 
 ある場合には、プロジェクトは、枠組み計画によって認められた協調融資(co-financing*2あるいは総合的な補助金の最高額を受ける場合、理事会規則(ECNo260/99 (1) に従って、構造基金からの追加拠出金を受け取ることができる。
 
 新加盟候補国の企業が参加する場合は、加盟前金融手段*3からの追加拠出金を同様の条件で受取ることが可能である。地中海や発展途上の国々からの組織が参加する場合は、MEDA計画の出資と欧州共同体の開発援助の財政的手段の出資が考えられる。
 
 計画を実施する際には、欧州委員会は技術援助を手段として用いることがある。2004年に、独立した専門家が第6枠組み計画実施中におけるこれら3種類の手段のそれぞれの有効性について評価を行うことになる。
 
 欧州共同体設立条約の第169171条のもとでの行動は、附則Iで提示した科学技術的目的に寄与し、条約第172条のもとで関連する決定に従って、個別計画によって財政支援を行うことができる。
 

(1)  OJ L 161 26.6.1999.
*1: http://www.nttdata.co.jp/event/report/usinsight/us_2001/pdf/usi_vol11.pdf (対応するページが見つかりません。2012年8月)
*2: http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/kouzou_s.html (対応するページが見つかりません。2012年8月) の構造基金の概要の項
*3: http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/kouzou_s.html (対応するページが見つかりません。2012年8月) 
V.加盟前援助(加盟候補国に対する支援)の項参照

 
. 新たな手段
 
.. 優良ネットワーク
 
 優良ネットワークは、枠組み計画の7つの優先テーマ領域において実施され、また十分な根拠がある場合、政策支援と科学技術ニーズの先取りの領域においても実施される。
 
 優良ネットワークの目的は、国と地域の段階で、現存する、あるいは新たな研究能力を欧州の段階で統合することによって、欧州共同体の優秀な科学技術を強化し、発展させることである。各ネットワークは、専門知識を一つの限界規模に集めることによって、特定領域における知識を進歩させることも目的とする。これらのネットワークは、大学、研究センター、中小企業を含む企業と科学技術組織の優れた能力の間の協力を促進する。関係する活動は、生産物*1、生産過程*1またはサービス*1の面からみて、あらかじめ定められた成績ではなく、長期の、複合領域の目的にむけて広く目標を定める。
 

*1: http://www.qm.mach.mie-u.ac.jp/qmdoc/mimi/iso/eigo.htm
    http://www.dnv.co.jp/pdf/iso14001kaku.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)     のp.4参照

 
 優良ネットワークは、専門知識についての限界規模と欧州の付加価値を達成するため、関連領域の研究能力と参加者の活動の一部、あるいは適切な場合にはすべてを含む活動についての共同計画によって実施される。活動についての共同計画は、研究能力の永続的な統合を達成するために必要な方法を開発することになる自立型優良バーチャルセンターの開設をめざしている。活動についての共同計画には、統合を目的とした活動だけでなく、ネットワーク以外で優秀さを拡大し、成果の普及にかかわる活動についても必然的に含まれる。
 
 この目的の遂行のために、ネットワークはそのため、次のことを実施する:
 
ネットワーク参加者によって統合された研究活動、
 
とくに次のことを含む統合の活動:
相補性を強化するための参加者の研究活動の変更、
電子情報と通信方法の開発と利用、および仮想の対話形式による作業法の開発、
短期、中期、長期の人的交流、ネットワークの他のメンバーのために、研究員ポストを設けること、またはメンバーの研修、
共同研究基盤施設の造成と利用および共有利用のための既存施設の改造、
生み出された知識の共同管理と活用および技術革新を促進するための行動。
 
適宜、次のことを含むネットワークの優秀性を普及する活動:
研究者の養成、
ネットワークの業績と知識の普及に関する情報伝達、
新たな技術の受け渡しを目的とした、中小企業の技術革新を支援するサービス、
ネットワークで実施した研究にかかわる科学や社会の諸問題の分析。
 
 (研究者の研修などの)活動のいくつかの実施の際に、ネットワークは、申請募集を公告することによって、周知を確実にするように努める。
 
 ネットワークの規模は、その分野と関係する問題によって異なる。一つの目安として、参加組織の数は6つ以上でなければならない。平均すると、財政面では、優良ネットワークへの欧州共同体の拠出金は年当たり数百万ユーロに相当する。
 
 ネットワークの提案は、次の要素から構成されなければならない:
 
活動についての共同計画の全体的な概要、ならびに研究活動、統合活動およびネットワークの優秀性を普及するための活動に分けた第1期の計画の内容、
参加組織の役割、活動の特定、統合する資源、
ネットワークの業務(活動の協調と運営)、
知識を普及するための計画と成果の活用の見通し。
 
 連携は、必要に応じ、最初の欧州共同体の拠出金の限度内で、参加者の入れ替えや、新たな参加者によって発展させることができる。ほとんどの場合、これは競争的な公募を通して行われることになる。
 
 活動の計画は、毎年更新され、一部の活動について、方針変更や、当初は予知することができなかった新たな活動を開始することが必要になるかもしれないが、その場合、新たな参加者を入れることも可能である。
欧州委員会は、たとえば既存のネットワークの統合的活動の拡大や新たな参加者の統合に対応するための追加拠出金を配分するための提案の募集を開始する。
 
 欧州共同体の資金面での貢献は、統合のための補助金の形式をとり、その額はすべての参加者が統合を提案する能力と資金の価値を比較して決定される。補助金は、活動についての共同計画を実施するために参加者が使用する資金を補足することになる。補助金はネットワークの連合の永続性を危うくするような財政的依存関係をつくらずに、統合を誘発する活動のために十分でなければならない。
 
.. 統合プロジェクト
 
 統合プロジェクトは、枠組み計画の7つの優先テーマ領域において実施され、十分な根拠がある場合には、政策を支援し、科学技術ニーズを先取りする研究領域も実施される。
 
 統合プロジェクトは、研究と技術開発の資源と能力についての限界規模を結集することによって、欧州共同体の競争力の勢いを高め、あるいは主要な社会ニーズに取り組むために設計されている。各統合プロジェクトは、明確に定められた科学技術的な目的が割り当てられ、たとえば生産物や、生産過程またはサービスに関して応用可能な具体的成果を得ることを目的にしなければならない。これらの目的に従って、各総合プロジェクトにはさらに長期の「危険を伴う」研究が含まれてもよい。
 
 統合プロジェクトは、行動を構成する要素を持った、整合性のとれた仲間で構成され、実施する課題によって、規模と構造が異なってもよく、各構成要素は共通の全体目的を達成するために必要な研究をさまざまな面で扱い、整合のとれた全体に作り上げ、しかも緊密に協調して実施する。これらは、欧州投資銀行とユーレカのような協働体制からの資金調達を含む、公的部門と民間部門の資金供給の効果のある流動化をむしろ必要とする全体的な資金調達計画に基づいて実施される。
 
 統合プロジェクトの関係で実施するすべての活動は、次に関する活動から成る「実行計画」の全体的枠組みの中で定められる:
 
研究、および、必要に応じて、技術開発とデモンストレーションまたは両者のいずれか、
技術革新を促進するための知識の管理、普及と移転、
関連する技術ならびにそれらの活用にかかわる要因の分析とアセスメント。
 
 その目的を追求するため、次にかかわる活動を含むこともできる:
 
研究者、学生、技術者および、とくに中小企業の産業経営者たちの研修、
とくに中小企業による、新技術の受け渡しのための支援、
情報通信とプロジェクトの中で実施される研究の科学的あるいは社会的側面に関する公衆との対話。
 
 一つの統合プロジェクトの活動の総額は、数百万ユーロから数千万ユーロの範囲の財政規模になるだろう。しかし、プロジェクト規模は採否の基準ではなく、新たな手段の利用が中小企業と他の小さな事業体に保証されている。
 
 統合プロジェクトの提案は、次の要素から構成されなければならない:
 
そのプロジェクトの科学技術的な目的、
さまざまな構成部分の結合*1を強調した、実行計画の概要と予定表、
実施の各段階とそれぞれで期待される成果、
コンソーシアムの中での参加者の役割とそれぞれの個別技能、
プロジェクトの組織化と管理、
知識の普及と成果の活用のための計画、
いろいろな資金とそれらの資金源を明らかにした財政的計画を含む、全体的な予算見積りとさまざまな活動の予算。
 

*1:  (対応するページが見つかりません。2011年1月)

 
 連携は、必要に応じ、最初の欧州共同体の拠出金の限度内で、参加者の入れ替えや、新たな参加者によって発展させることができる。ほとんど場合、これは競争的な募集の公開を通して行われることになる。
 
 実行計画は、毎年更新される。この更新には、いくつかの活動の方針変更や新たな活動の開始が必要になるかもしれない。後者の場合、欧州共同体からの追加資金が必要なとき、欧州委員会は、提案募集によって、新たな活動とそれらを実施する参加者を特定する。
 
 欧州共同体の拠出金は、予算に応じた補助金の形式をとり、そのプロジェクトを実施する参加者に充当する予算の比率で計算し、活動のタイプによって適合させる。
 
. その他の手段
 
.. 特定の目標を定めた研究プロジェクト
 
 特定の目標を定めた研究プロジェクトは、欧州の競争力を強化することを目的とする。焦点を鮮明にし、次の2つの形態のどちらか、または両者の形態をとる:
 
(a) 新たな生産物、生産過程やサービスを大幅に改善するか、または開発するための新たな知識を得るために、あるいは社会や欧州共同体政策の他のニーズを満たすために、設計した研究技術開発プロジェクト;
 
(b)経済的利益を提供する可能性があるが、すぐに商品化することができない新技術の実現性を実証するために設計されたデモンストレーションプロジェクト。
 
.. 中小企業のための団体研究プロジェクト
 
 科学技術の全分野で横断的に実施される、これらのプロジェクトは、共通の問題に直面している多数の中小企業にとって関心のある領域と問題に関して、企業アソシエーションや企業グループのために研究組織が実施する。
 
.. 中小企業の協同研究プロジェクト
 
 科学技術の全分野で横断的に実施される、これらのプロジェクトは、共通の関心のあるテーマに関していくつかの中小企業のために行われる。
 
.. 協調行動
 
 協調行動は、統合を強化することを目的に、ある階層の研究と技術革新の経営者が協調した新計画を促進し、支援する。これらの活動には、会議、会合の組織化、調査と人的交流の実行、優良規範の交流と普及、情報システムと専門家集団の立ち上げ、などの活動が該当し、さらに必要であれば、合同つまり共同の新計画を特定、組織および管理するための支援を含めることができる。
 
.. 特定の支援行動
 
 特定の支援行動は、この枠組み計画の実施を補完し、モニタリングと評価の活動など、将来の欧州共同体の研究技術開発政策の活動の準備を促進するために利用できる。とくに、この活動には、会議、研究会、学習と分析、高い水準の科学賞とコンクール、作業部会と専門家部会、運用支援と普及、情報通信の活動、あるいは、それぞれの場合において、適宜、これらの組み合わせが必要である。
 
 特定の支援行動は、中小企業、小さな研究チーム、新しく設置された遠隔地域の研究センターだけでなく、特に優良ネットワークと統合プロジェクトによって、優先テーマ領域の活動における候補国からのこれらの組織の参加を刺激、奨励、促進するために実施する。これらの行動の実施は、地方、地域および国の段階で加盟国と協定国が設立した国内窓口のネットワークをはじめとする、特定の情報と支援組織を当てにしており、そして枠組み計画の第5次から第6次への円滑な移行を確保することを目的にしている。
前の号へ ページの先頭へ 次の号へ
目次 索引 農業環境技術研究所