温暖化による陸域生態系の変動予測のための地球規模炭素循環モデル


[要 約]
 本モデルは,気候変動シナリオの下で地球規模の陸域生態系の炭素循環変化に関わる各種の予測・評価が可能なモデルである。CO2倍増が起こると熱帯林,温帯林の植生及び土壌の炭素蓄積量が顕著に増加することが本モデルにより予測された。
農業環境技術研究所 企画調整部 地球環境研究チーム
[部会名] 農業環境・地球環境
[専 門] 環境保全
[対 象]  
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
地球環境の変動に関して,IPCC95年報告書において,陸域生態系の炭素循環の推定には依然として不確実性が多いとされている。特に,植物・土壌への炭素蓄積量の検討が不足していると考えられる。そこで,陸域生態系(土壌及び植生)を巡る地球規模の炭素循環を,従来の知見に基づくモデリングを通して説明できるよう試み,地球温暖化に関わる予測や人為影響の評価に活用可能なモデルを得る。
[成果の内容・特徴]
  1. 本モデルにおいては,全球の陸域を緯度,経度,各1度のメッシュに切り,各メッシュごとに生態系の炭素交換過程をモデル化している。生態系は,光合成部位の「葉」,非光合成部位の「幹」,土壌は,炭素回転速度の速い「植物遺体」と回転速度の遅い「腐植質」,さらに,「大気」のブロックを設け,以上の5ブロック間を炭素が交換移動する(図1)。それらの炭素の交換移動は,環境条件(温度,降水量,大気CO2濃度:気象研究所大気海洋結合大循環モデル−MRI-CGCM−による)に左右される。
  2. 植生分布は,各メッシュにおいて,所与の気候条件の下でパラメータを変えることによって熱帯林,温帯林,北方林の3タイプの各炭素蓄積量を計算する。3タイプの炭素蓄積量を比較して最大の炭素蓄積量を持つタイプがそのメッシュを優占するとした。草原,無植生地は,それぞれ一定の蓄積量以下の時に出現するとした。土壌情報はFAO土壌図情報により,また,土壌水分量は,降水量と蒸発散量との収支による。
  3. 現在の植生分布等による検証を経た後,本モデルによるシミュレーションを行ったところ,表に示すとおり,CO2倍増により植生及び土壌の炭素蓄積量の増加が予測された。それは,主として温度上昇による熱帯林,温帯林の拡大(草原,植生なしの変化は微小,北方林は減少)による。また,温暖化により植生及び土壌の炭素蓄積量は増加し,表及び図2においてうかがえるとおり,熱帯林,温帯林の増加が顕著であった。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本モデルにより,気候変動シナリオの下で地球規模・地域(大陸,国など)規模の陸域生態系の変化に関わる各種の予測・評価が可能である。
    [成果の活用面・留意点]
  2. 本モデルに対する新知見の導入を今後も継続する予定である。
    [成果の活用面・留意点]


[その他]
研究課題名:陸域生態系の二酸化炭素動態の評価と予測・モデリングに関する研究
       −グローバル・カーボン・サイクル・モデルの開発−
予算区分 :環・地球環境(陸域生態系)
研究期間 :平成10年度(平成8〜10年)
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