水田作土に存在する137Csの滞留半減時間と溶脱率


[要 約]
 水田作土中の137Csの経年的濃度変化から,137Csの作土内滞留半減時間とその下層への溶脱率を算定した。それらの全国平均値は,溶脱と放射性壊変により減少する滞留半減時間は17年,溶脱のみにより減少する滞留半減時間は41年,溶脱率は1.7%となった。
  1996年時点における137Csの作土とその下層土への分布割合は約6:4と推定された。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境管理部 計測情報科 分析法研究室
[部会名] 農業環境・環境評価・管理
[専 門] 環境保全
[対 象] 水稲
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 水稲が137Csや90Srなどの放射性核種を経根的に吸収する深さは,土壌の種類や管理形態などにより異なるが,表層から鉛直方向に約20cmまでの作土が対象となる。したがって,これらの核種が作土中に留まる滞留時間や,作土からその下層への溶脱率を算定することは,土壌−米−人系における移行に関する計算モデルや被曝線量評価をおこなう上で重要である。
[成果の内容・特徴]
  1. 水田作土中の137Cs含量は観測初期の数年間は増加傾向を示し,1964年ごろを転機にそれ以後は減少傾向に転じている(図1)。そこで,このピークに相当する1964年を統計的処理上の「基準年」と定め,この年を基点とする「各種減少曲線」を求めるため次式を導入した。
    Y=Xe−λt
      ここで,Y:137Cs含量,X:基準年における137Cs含量,t:基準年以降の経過年数,λ:年間に対する減少係数。
  2. 137Csの分析値をそのまま計算に使って描いた減少曲線A(137Csの蓄積量の推移を表す)を図2に示す。次に,減少曲線Aの各点から放射能観測成績(気象庁)による137Cs 年間降下量を差し引いて求めた減少曲線B(溶脱と放射性壊変による減少を表す)を図3に示す。この減少曲線Bから算定した,水田作土中の137Csの「見かけの滞留半減時間」は,全国平均で 17.3年となった。
  3. さらに,減少曲線Bの各点を137Csの放射性壊変に伴う半減期(30.1年)の減衰補正をして得た減少曲線C(137Csの下層への溶脱のみによる減少を表す)を図3に示す。この減少曲線Cより算定した,水田作土中の137Csの「真の滞留半減時間」は,全国平均で40.7年となった。
  4. 減少曲線C(図3)から求めた,作土からその下層への137Csの年当たりの溶脱率は,全国平均で1.7%となった。
  5. 減少曲線C(図3)から1996年時点における作土とその下層土への137Csの分布割合を推定した結果,採取地点により著しく異なるが,平均で6(作土):4(下層土)となった。
[成果の活用面・留意点]
 これらの成果は,土壌−米−人系における137Csの移行に関する計算モデルや放射線被曝線量評価の基礎資料となる。

具体的データ


[その他]
研究課題名:土壌並びに農作物中の降下放射性核種の分析的研究
予算区分 :原子力
研究期間 :昭和32年〜
協力・分担:北海道,東北,北陸,秋田,新潟,石川,鳥取,宮城,茨城,埼玉,東京,山梨,
      大阪,岡山,福岡の各国公立農業試験場
発表論文等:1)駒村美佐子ほか:水田作土に存在する137Csの滞留半減時間,第33回理工学に
        おける同位元素発表会要旨集(1996)
      2)駒村美佐子ほか:水田および畑作土に存在する137Csの滞留半減時間,クロス
              オーバー研究(核種移行)シンポジウム報告集,日本原子力研究所(1999)
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