トウモロコシの光合成に活用される土壌から発生した二酸化炭素


[要 約]
 C4植物であるトウモロコシ群落において光合成に利用される二酸化炭素は,群落の下層では土壌呼吸由来,上層では大気由来のものが多いことを,安定同位体自然存在比(δ13C値)の分析によって明らかにした。トウモロコシ個体の光合成の32%に,土壌から放出された二酸化炭素が活用されている。
[担当研究単位]農業環境技術研究所 環境生物部 植生管理科 植生生態研究室
[部会名] 農業環境・地球環境
[専 門] 資源利用
[対 象] 牧草類
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 作物が光合成に利用する二酸化炭素の供給源は,大気中からの取り込みと土壌から放出されるものがあるが,農耕地におけるその動態に関して明らかにされていない。これは野外レベルで二酸化炭素の動きをとらえることの難しさによるものである。近年,同位体自然存在比(δ13C値,δ15N値など)の測定が,生態系における物質循環の解明に役立つといわれている。そこで安定同位体自然存在比を用いて,農耕地群落の二酸化炭素の動態を解明する。
[成果の内容・特徴]
  1. トウモロコシ群落内のCO2の動態を,質量分析計(MAT252),元素分析計(EA-1108),ガスクロマトグラフィー(HP5890)を用いて分析したところ,土壌呼吸由来のCO2は軽く(表1),大気由来のCO2は重かった(表2)。
  2. トウモロコシの葉身中のδ13C値は地表面に近い下層位において軽く,群落上層位で重かった(図1)。この特性を活用して,光合成に利用するCO2の供給源を土壌空気由来と大気由来に分離し,その割合を層位別に推定した。
  3. 個体当たりの葉身中の炭素量(図2)と土壌呼吸をCO2供給源とする層位別の割合(図3)とを層位別に掛合わせて加算すると,トウモロコシ群落の光合成に利用された土壌呼吸の寄与率が算出できる。この値は32%であり,土壌からのCO2の供給が作物生産に重要な役割を果たしている。
[成果の活用面・留意点]
  1. 二酸化炭素の増加における地球環境変動や農耕地群落の二酸化炭素の循環モデルに活用できるが,草型や草丈の異なる作物群落にこの値を準用することはできない。
  2. 安定同位体比は,測定に精密さが要求され,土壌有機物の種類,圃場周辺の大気環境(排気ガス,風速等)の影響も受けやすいので留意する。

具体的データ


[その他]
研究課題名:安定同位体分析を用いた農耕地生態系におけるCO2動態の解明とモデル化
予算区分 :特別研究員,経常
研究期間 :平成11年度(平成9〜11年度)
発表論文等:Contribution of soil respiration to total assimilation in corn field. 
      Soil Science Society of America, Annual Meeting. Salt Lake, USA. (1999)
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