アシベンゾラルSメチルによるナシの黒星病抵抗性誘導にはPGIPが密接に関与する


[要 約]
 病害抵抗性誘導剤であるアシベンゾラルSメチルによってナシの感受性品種'幸水'に黒星病抵抗性が誘導される過程で,ポリガラクツロナーゼ阻害たんぱく質(PGIP)遺伝子の転写量が抵抗性品種と同様増大し,抵抗性発現にはPGIPが密接に関与する。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 化学環境部 有機化学物質研究グループ 農薬影響軽減ユニット
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 植物の生体防御機能を活性化して各種病害に対する複合抵抗性を発現させる全身抵抗性誘導の分 子機構は,草本植物を中心に解明されつつある。しかし,殺菌剤使用回数が多いナシなど永年性作物における抵抗性誘導の研究事例は少ない。そこで,抵抗性誘導剤であるアシベンゾラルSメチル(ASM)によってナシに誘導される黒星病抵抗性機構の一端を明らかにする。  黒星病菌の感染にはナシのペクチン分解が重要であり,この菌からはペクチン分解酵素であるポリガラクツロナーゼ(PG)が単離、精製されている。また,黒星病抵抗性品種では菌糸が高頻度で変性,死滅し,PGの阻害は抵抗性品種で高いなどの知見がある。そこで,黒星病菌のPGとナシのPGIPの相互作用に着目する。
[成果の内容・特徴]
  1. 遺伝子の塩基配列からアミノ酸配列を推定すると,ニホンナシのPGIPも病害抵抗性遺伝子に特徴的なロイシンに富む繰り返し配列を持つことから,PGIPと抵抗性との関係が示唆される。
  2. 黒星病菌に対するナシの抵抗性品種'巾着'や非宿主であるセイヨウナシの'フレミッシュビューティー'では,黒星病菌の葉への接種によって,PGIP 遺伝子の転写量が増大する(図1)。また,ウェスタンブロッティングで調べたPGIP の蓄積量も増大する(図2,矢印で示したのがPGIP)。
  3. 感受性品種'幸水'に予めASMを散布してから黒星病菌を接種すると,PGIP 遺伝子の転写量が増大する(図3)。
  4. ASMは黒星病菌に対して抗菌活性を示さないにもかかわらず,黒星病菌の感受性品種'幸水'に全身抵抗性を誘導して黒星病の発生を抑制する。ASMは対照の殺菌剤ポリカーバメートやクレソキシムメチルと同様,圃場試験においても黒星病に対する防除効果を示す(図4)。
[成果の活用面・留意点]
  1. ASMはナシでは農薬登録がないので,試験研究目的以外には使用できない。

[その他]
 研究課題名 : 環境低負荷型農薬の創製を目指した全身抵抗性誘導機構の解明
        (新規資材による生体防御機能等の活性化機構の解明)
 予算区分  : 運営費交付金
 研究期間  : 2003年度(2003〜2005年度)
 研究担当者 : 石井英夫
 発表論文等 : 1)石井,今月の農業,47(10),13-18(2003)

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