農業環境に由来するセパシア菌群(Burkholderia cepacia complex)の遺伝子型


[要 約]
 農業環境由来のセパシア菌群(Burkholderia cepacia complex)は16S rDNAおよびrecA遺伝子のRFLP解析により遺伝子型(genomovar)I とIII-Bに類別される。また,ピロールニトリン生合成遺伝子(prnC)と伝染系統マーカー遺伝子(esmR)の片方または両方の遺伝子を持つ菌株が存在する。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 微生物・小動物研究グループ 微生物機能ユニット;
                  農業環境インベントリーセンター 微生物分類研究室
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 セパシア菌群(Burkholderia cepacia complex)は,各種土壌,河川などの幅広い環境に分布し,16S rDNA遺伝子およびrecA遺 伝子のRFLPパターンに基づき,これまで10以上の遺伝子型(genomovar)に類別されている。有害物質の分解能やピロールニトリンなどの抗生物質生産などの有用機能を有する系統は,環境修復や微生物農薬素材として農業環境等で利活用されている。一方,タマネギなどの植物病原菌として,またヒト日和見感染症の原因菌となる菌種や系統の存在も知られる。しかしながら,農業環境に由来するセパシア菌群についての情報は少なく,有用または有害な系統が混在するか否かは明らかでない。そこで植物根圏など,各種農業環境に由来するセパシア菌群について,遺伝子情報に基づく系統類別,および有用機能の検索を行うとともに,臨床由来菌株との比較により,病原性関連遺伝子の存在などに関する情報を蓄積することにより,農業環境におけるリスクアセスメントへの活用を図る。
[成果の内容・特徴]
  1. 日本産またはタイ産の植物病原菌または根圏生息菌として分離された農業環境由来の80% 以上の菌株はI型に,残りはIII-B型に判別される。これに対して,臨床由来株はII型以外の遺伝子型(I〜V型)に分布し,その過半数はIII-A型またはIII-B型である(表1)。
  2. 抗生物質ピロールニトリンの生合成関連遺伝子(prnC)に特異的なDNA断片は,農業環境由来菌株の多数からPCR法で増幅されるのに対して,臨床由来菌株では検出頻度が低い(図1)。
  3. ヒト由来のセパシア菌伝染系統(B. cepacia epidemic strain)に存在するマーカー遺伝子(esmR)は,特異的プライマーを用いたPCRによりIII-A および III-B型からのみ検出される(図2)。
  4. 農業環境由来菌株と臨床由来菌株におけるprnCの分布率は,それぞれ 86.5%および 25%であり,それらのほとんどは遺伝子型 Iに属する。これに対して,esmR遺伝子の分布率は,それぞれ11.6%および45.9 %であり,いずれもIII-A型またはIII-B型に属する(表2)。ほとんどの菌株においてprnCesmRの分布は,それぞれ偏在するが,農業環境由来菌株の5%以上で,両方の遺伝子を有するものが存在する。
[成果の活用面・留意点]
  1. 農業環境と臨床環境由来のセパシア菌群の遺伝子型判別により,農業環境における本群細菌の多様性解析および動態解明が可能となる。
  2. 微生物農薬や微生物肥料の素材として農業現場に導入される本群細菌のリスクアセスメントに活用できる。
  3. 本群細菌の有用機能を指標とした菌株の選抜においては,遺伝子型の判定とともにリスク関連遺伝子についても検索する必要がある。

[その他]
 研究課題名 : 農業生態系における人畜共通病原微生物の動態解明と環境リスクデータベースの作成
        (微生物及び植物の二次代謝物等が微生物の増殖に及ぼす影響の解析)
 予算区分  : 科研費[基盤研究B]
 研究期間  : 2004年度(2004〜2006年度)
 研究担当者 : 土屋健一,對馬誠也,古屋成人(九州大学)
 発表論文等 : 1)土屋ら,日植病報, 70(3),284 (2004)
               2)Tsuchiya, et al., Proceedings of 10th ICCC, 634 (2004)
               3)Seo and Tsuchiya, Letters in Applied Microbiology, 39, 413-419 (2004)

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