メタン発生の多い水田での畑転換は有効な温室効果ガス発生抑制技術である


[要 約]
 水田を転換畑とすることにより,メタン発生は無くなるが,亜酸化窒素発生が増加する。排水不良や遊離酸化鉄含量の低い土壌など,メタン発生量がわが国の平均値より多い水田では,畑転換は有効な温室効果ガス発生抑制技術である。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 地球環境部 温室効果ガスチーム
[分 類] 学術

[背景・ねらい]
 水田を排水して畑作物を栽培する転換畑では,土壌の理化学性や生物性が変化することから,温 室効果ガス発生特性が大きく変化すると考えられる。わが国における転換畑の面積は2002年現在で約74万ha(田の作付け延べ面積の約30%)を占めており,温室効果ガス発生インベントリーにおいて重要な位置を占めている。しかし,転換畑の温室効果ガス発生特性に関する知見は限られ,その発生量を定量的に評価した研究はない。そこで,自動開閉チャンバーを用いた連続モニタリングシステムを用いて,転換畑と連作水田においてメタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)フラックスの年間連続測定を行い,転換畑の温室効果ガス発生特性を評価する。
[成果の内容・特徴]
  1. 過去7年間にわたり水稲栽培を行っていた灰色低地土のライシメーター水田(各3x3 m,土壌厚1 m)を排水し,二種類の転換畑栽培(陸稲単作区および大豆-小麦二毛作区)を2年間行い,連作水田(水稲区)とあわせて,各2反復で自動モニタリングシステムにより,CH4およびN2Oフラックスの年間連続測定を行った。
  2. 水稲区でのCH4フラックスは,水稲栽培期間中の水管理に対応し,2003年の発生量は2002年の5.8倍であった。この主な原因は,2003年の中干しが遅れて湛水期間が長くなったことによるものと考えられた。一方,転換畑区では年間を通じて,CH4を吸収していた。(図1
  3. 転換畑区では,陸稲単作区および大豆-小麦二毛作区ともに,7月下旬〜8月下旬にN2Oの高い発生ピークが観測された。加えて,大豆-小麦二毛作区において,小麦の開花〜登熟期にもフラックスのピークが観測された。一方,水稲区からのN2Oフラックスはきわめて小さく,発生は非湛水期間と施肥および落水・再湛水に対応したものに限られていた。(図2
  4. CH4およびN2Oの年間発生量は,二酸化炭素等価量として,水稲区,陸稲単作区および大豆-小麦二毛作区で,それぞれ,100〜442,102〜110,および79〜146 g m-2であり,畑転換によるCH4発生の消失とN2O発生量の増大が著しかった(表1)。本研究で得られた水稲区からのCH4年間発生量はわが国の平均値(19.0±12.5 g m-2)よりも低かった。一方,転換畑からのN2Oの年間発生量は,わが国の測定値のなかでは,茶園を除けば比較的高い値であった。
  5. 以上の結果から,水田を畑転換することにより,CH4発生とN2O発生はトレードオフ関係になることが明らかになった。また,温室効果ガス発生削減の観点からは,水管理にともなう水田からのCH4発生量の削減が重要であり,排水不良や遊離酸化鉄含量の低い土壌など水田からのCH4発生が多い場合は,畑転換が有効な温室効果ガス発生抑制技術であることが示された。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本研究は,わが国の温室効果ガス排出量インベントリーの改訂に寄与するものであると同時に,水田からのCH4排出削減方策としての畑転換の有効性を示すものである。ただし,畑転換には,米の需給調整など,さまざまな営農上の理由のあることも考慮すべきである。
  2. 転換畑の温室効果ガス発生削減効果をより精緻化するために,さらに実測データを収集することが必要である。特に,野菜など,窒素施肥量の多い作物を栽培した場合のN2O発生量については注意が必要である。

[その他]
 研究課題名 : 栽培管理技術および土壌保全技術を利用した温室効果ガスの合理的排出削減技術
        の開発
        (農地の利用形態と温室効果ガス等の発生要因の関係解明及び発生抑制技術の開
        発)
 予算区分  : 環境研究[地球温暖化]
 研究期間  : 2004年度(2002〜2006年度)
 研究担当者 : 西村誠一,秋山博子,須藤重人,八木一行
 発表論文等 : 1)Nishimura et al., Global Biogeochem. Cycles, 18(2), GB2017, doi:10.1029/2003GB002207 (2004)
               2)西村ら,土肥要旨集,50, 199 (2004)

目次へ戻る