農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

主要研究成果 6

輸入港周辺の遺伝子組換えナタネは、
従来のナタネ生育地にしか生育していない

[要約]
遺伝子組換え体を含むセイヨウナタネの生育地を輸入港周辺で調査した結果、遺伝子組換えセイヨウナタネは、従来のセイヨウナタネ生育地にしか生育していないことが明らかになりました。
[背景と目的]
 原材料として輸入された遺伝子組換えセイヨウナタネ(以下、組換えナタネ)の生育が、主要な輸入港である茨城県鹿島港周辺で確認されています。組換えナタネは、カルタヘナ法に基づく生物多様性影響評価により、野生化して生育することも前提として、遺伝子組換えでないセイヨウナタネ(以下、非組換えナタネ)と差異が無いことから、生物多様性影響を生ずるおそれはないと判断されています。この評価は、畑やポット条件での調査試験に基づくものであるため、実際に輸入港周辺に生育した場合、組換えナタネが非組換えナタネより広い範囲に優占して生育するかどうかを明らかにするための調査を行いました。
[成果の内容]
 鹿島港周辺の主要道路沿いにおいて、原材料の陸揚げ地点を中心とした5kmの範囲で、セイヨウナタネが生育していた19地点を調査地として設けました(図1)。これらセイヨウナタネの生育地は、土壌が厚く生育できる面積が広い「空き地や水田畦」、土壌は厚いが生育できる面積が狭い「植栽帯や中央分離帯」、土壌は薄く面積も狭い「縁石沿い」に類別出来ました(図2)。多くの調査地点は、これらタイプの異なる複数の生育地が含まれていました(表1A)。
 生育していたナタネが組換えナタネかどうかを調べるため、各調査地点で葉を採取しました。日本に多く輸入されている組換えナタネは、除草剤グリホサート耐性と除草剤グルホシネート耐性の組換えナタネであることから、各々が持つ特有のタンパク質の有無を調べました。その結果、組換えナタネは非組換えナタネと同様に空き地や水田畦、植栽帯や中央分離帯、縁石沿いに生育し、多くの場合その個体数は非組換えナタネと同程度かあるいは少ないことが明らかとなりました(表1B)。
 以上のことから、輸入港において、組換えナタネは非組換えナタネの従来の生育地にしか生育していないことが明らかであり、組換えナタネが非組換えナタネより広い範囲に優占して生育することはないと考えられました。この結果は、実際に日本国内の輸入港において、野生化した組換えナタネの生育地の特性を示す唯一の知見であり、組換えナタネの生物多様性影響評価を裏付ける新たな知見です。
本研究は、農林水産省バイテク先端技術「組換え生物総合研究」による成果です。

リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクト

研究担当者:生物多様性研究領域 松尾和人、芝池博幸、吉村泰幸、水口亜樹

図表

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