農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

主要研究成果 10

チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤に対する
抵抗性発現要因

[要約]
チャノコカクモンハマキのオスは、メスの性フェロモン信号の成分であるZ11-テトラデセニルアセテート(Z11-14:Ac)を交信撹乱剤として使用し続けたことにより、しだいにZ11-14:Acがなくてもメスに引き寄せられるようになったことで、抵抗性を獲得したと考えました。
[背景と目的]
 環境にやさしい農薬として、昆虫の交尾行動を誘起する性フェロモンを利用した交信撹乱剤(以下、撹乱剤)が使用されています。しかし、Z11-14:Acを有効成分とするチャノコカクモンハマキ用の撹乱剤は、近年著しく効果が低下し、世界で最初の撹乱剤に対する抵抗性現象として1996年に報告されました。このような抵抗性を引き起こさない撹乱剤を開発するために、抵抗性発現要因の解明を目指しています。
[成果の内容]
  1. 抵抗性が報告された静岡県の茶園からハマキガを採集し、高濃度の撹乱剤(Z11-14:Ac)が存在する容器中で交尾できるものを選抜飼育して、抵抗性系統(R系統)を確立しました。約40世代以降、この系統は、強い抵抗性を安定して示しました(図1)。
  2. 性フェロモンに対する反応性を調査したところ、R系統のオスは、このハマキガの交尾行動の誘起に必須であるはずのZ11-14:Acを含まない性フェロモン源にも強く反応しました(図2)。
  3. 撹乱剤(Z11-14:Ac)の大気中での濃度が高くなると、メスが放出する性フェロモン信号は干渉されるため、オスがメスを発見するのが難しくなります。しかし、R系統のオスは、性フェロモン信号にZ11-14:Ac がなくても反応するので、撹乱剤の影響を受けにくくなっています。これが撹乱剤に対する抵抗性発現の一要因であると考えられます。

リサーチプロジェクト名:情報化学物質生態機能リサーチプロジェクト

研究担当者:生物多様性研究領域 杉江 元・田端 純

発表論文等:1)Tabata et al. (2007) Entomol. Exp. Appl. 122: 145-153.

図表

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