農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 10

窒素追肥によりイネがアンモニアを放出する

[要約]
水田に30kg N(窒素換算)ha-1の尿素を追肥するとアンモニアの顕著な揮散が起こりました。追肥により窒素がイネにとって一時的に過剰な状態になると、田面だけでなくイネもアンモニアの発生源となることを初めて明らかにしました。
[背景と目的]
農耕地に窒素肥料を施肥するとアンモニアが揮散する可能性があります。アンモニアの揮散は、肥料が無駄になるばかりでなく、揮散したアンモニアが大気中を運ばれて他の地域に負荷されることにより、陸域や水域の富栄養化や硝酸性窒素による水域の汚染など、様々な環境問題に関与します。そこで、水田への尿素の基肥および追肥に伴うアンモニアの揮散量、そして、アンモニアの発生に影響する要因を解明しました。
[成果の内容]
 水田への尿素の施肥に伴うアンモニアの揮散を調べました。田面とイネ(品種:日本晴)を覆う風洞を用いて大気−水田間のアンモニア交換フラックスを測定しました(図1)。
 代掻き時に基肥として50kg N ha-1を全層施肥(田面に肥料を散布したのち作土全層に混合する施肥法)した場合のアンモニアの揮散率は2.1%と低い値でした(表1)。これは、全層施肥により尿素を土に混ぜ込むとアンモニアの揮散を抑える効果があるためと考えられます。
 しかし、一度に多くの尿素を表面施肥(田面に肥料を散布したまま放置する施肥法)すると、水田のアンモニア性窒素が一時的に過剰となり揮散しやすくなります。追肥1回目(中干し前に窒素換算で30kg N ha-1 を表面施肥)に伴うアンモニアの揮散率が21%に達した一方、追肥2回目(出穂前に窒素換算で10kg N ha-1を表面施肥)に伴うアンモニアの揮散率は0.5%ときわめて低い値でした(表1)。
 イネは通常大気中のアンモニアを吸収するはたらきを示すものの、追肥の直後でアンモニアが過剰な条件では大気へとアンモニアを放出することがわかりました(図2)。
 これらの結果は、大気−水田間の窒素交換および窒素循環の広域評価に重要な知見を提供するとともに、追肥を少なくすることにより水田からのアンモニアの揮散を抑制できることを示しています。
リサーチプロジェクト名:炭素・窒素収支広域評価リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 林健太郎、西村誠一、八木一行
発表論文等:1) Hayashi et al., Soil Sci. Plant Nutr., 52(4): 545-555 (2006)
      2) Hayashi et al., Sci. Tot. Environ., 390(2-3): 486-495 (2008)

図表

図表

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