農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成19年度 (第24集)

主要研究成果 17

水田地帯では周辺環境によって生息する鳥類が異なる

[要約]
利根川流域の水田地帯で、湿地性、草地性、樹林性の鳥類の生息種数を調査し、周辺土地利用との関係を解析したところ、周囲1km2の土地利用によって、出現する鳥類種群が大きく異なることがわかりました。水田地帯で農業の変化が鳥類に及ぼす影響を検討する際には、水田周辺の環境に応じて鳥類相が異なることを考慮することが重要です。
[背景と目的]
水田とその周辺環境を含む水田地帯には、鳥類をはじめとする様々な生物が生息しています。しかし近年、土地利用や農業活動の変化がそこに生息する生物に対してマイナスの影響を及ぼすことが危ぐされています。ところが、水田が主体となる農村地域にどのような鳥類が生息するかについて、周辺環境を含め広域的に明らかにする調査は行われていませんでした。そこで水田地帯の環境と生息する鳥類との関係について調査・解析を行いました。
[成果の内容]
  1. 利根川流域の水田地帯から32の調査地区(1地区は約1km×1kmの方形)を選び、夏季(6月)と冬季(12月)に鳥類調査を行ったところ、全体で夏季に51種、冬季には73種の鳥類が確認されました。それらは生息地タイプ別に8グループに分けることができました。
  2. 8グループのうち、特に水田地帯において主要なグループである湿地性(夏季:ゴイサギなど11種、冬季:コチドリなど13種)、草地性(夏季:オオヨシキリなど3種、冬季:ホオジロなど6種)、樹林性(夏季:コゲラなど8種、冬季:エナガなど9種)の鳥類に注目して、各調査地区で出現した種数と環境との関係を回帰分析しました。夏季には、周囲1km2に水田が多い地区では湿地性鳥類が、林地が多い地区では樹林性鳥類が、土地利用の多様度が高い(水田、放棄田、樹林地等が偏りなく存在する)地区では草地性鳥類が、それぞれ多く確認されました(図1A)。一方、冬季には、周囲1km2に水域が多い地区で湿地性鳥類が、林地が多い地区で樹林性鳥類が、放棄田が多い地区で草地性鳥類が、それぞれ多く確認されました(図1B)。
  3. 以上の結果から、水田地帯では周辺土地利用の賦存状態により出現する鳥類種群が大きく異なることが分かりました。したがって、土地利用や農業活動の変化が水田地帯に生息する鳥類に及ぼす影響を検討する際には、同じ水田地帯でも周辺環境によって異なる鳥類種群を対象とする必要があります。
本研究の一部は、農林水産省委託プロジェクト研究「自然共生」、および、農林水産省「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」の「水田地域における生物生息ポテンシャル算定モデルの開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:水田生物多様性リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 天野達也、楠本良延、徳岡良則、山田晋(現:東京大院)、山本勝利

図表

図表

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