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主要研究成果 7

外来植物の侵入は土壌pHと有効態リン酸に関連している

[要約]
北関東の農地周辺の草本植物群落では、表層土壌のpHが高い場所や有効態リン酸の高い土壌で外来植物の侵入が頻発しています。調査地周辺の農地ではリン酸の蓄積や土壌pHの上昇が進行しており、これが農地周辺や耕作放棄地での外来植物の蔓延を助長していると考えられます。
[背景と目的]
近年、外来植物が蔓延することによって在来植物が生育場所を失い、日本固有の生態系が損なわれることが懸念されています。農地やその周辺でも、古くから維持されてきた生態系が急速に変化しつつあります。そこで、農地周辺に成立している草本群落を対象として、北関東に広く分布している黒ぼく土を中心に、外来植物の蔓延と土壌の化学特性との関係を調査しました。
[成果の内容]
 北関東に広く分布している台地上黒ボク土壌を中心に、畦畔、耕作放棄地、刈り取り草地を対象に122地点(乾性)で植生調査を実施したところ、これらの草本群落は大きく2つのタイプに分けられました。タイプIは外来植物が多く出現する植物群落で、セイタカアワダチソウやクズといった植物で特徴付けられました。タイプIIは外来植物がほとんど出現しない植物群落で、アズマネザサ、アキカラマツ、ワレモコウ、ツリガネニンジンといった植物で特徴付けられました(表1)。
 タイプIは、土壌pHが5.7以上あるいは有効態リン酸(BrayIIリン酸)が20mgP2O5100g-1乾土以上の土壌にその87%が出現していました。このような土壌特性は、この地域に広く分布する黒ぼく土(日本の統一的土壌分類体系第二次案2002:日本ペドロジー学会)において施肥等がなされていない表層土壌が示す典型的な化学特性と大きく異なっていました。逆に、従来からの土壌特性が維持されている場所(土壌pHが5.7以下かつ有効態リン酸が20mgP2O5100g-1乾土以下の土壌)では、タイプIIの植生が出現していました(図1)。
 また、室内栽培実験によって、外来植物であるセイタカアワダチソウやオオマツヨイグサは酸性土壌で著しく生育が抑制されるのに対して、在来植物であるススキ、クズ、イヌビエは酸性土壌でも生育障害を受けにくいことがわかりました(図2)。
 従来の自然土壌の化学特性が維持されている場所ではタイプIIの植物群落が出現しますが、施肥や基盤整備等によって土壌の化学特性が大きく改変されるとタイプIの植物群落が出現しやすくなると考えられます。調査地周辺の農地ではリン酸の蓄積や土壌pHの上昇が進行しており、これが農地周辺や耕作放棄地での外来植物の蔓延を助長していると考えられます。
本研究は文部科学省の科学技術振興調整費のプロジェクト研究「外来植物のリスク評価と蔓延防止策」による成果です。
リサーチプロジェクト名:外来生物生態影響リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 平舘俊太郎、楠本良延、森田沙綾香
発表論文等: 1) 平舘、圃場と土壌、39:30-38(2007)
2) 平舘ら、関東雑草研究会報、19:23-33(2008)

図表

図表

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