農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成21年度 (第26集)

主要成果 6

稲やナスのカドミウム集積は導管にカドミウムを輸送する能力に支配される

[要約]
稲の品種間およびナス属の作物種間で地上部のカドミウム濃度は大きく異なります。その集積の違いを決定する生理的要因を解析したところ、根に取り込まれたカドミウムを導管に輸送する能力の差異が決め手であることがわかりました。
[背景と目的]
カドミウム(Cd)は作物の根から吸収され、やがて茎葉や子実・果実に移行・蓄積されます。地上部のCd集積量は、作物種間のみならず、同じ作物種内の品種間でもかなり異なることが報告されています。しかしながら、その違いを決定づける生理的要因はこれまで解明されていません。そこで、主要作物である稲および野菜の中で汚染リスクの高いナスを用いて、地上部のCd集積に関わる要因を解析しました。
[成果の内容]
根の表皮に取り込まれたCd(通常は陽イオンの形)は、皮層や内皮等を通過したのち、中心柱にある導管を通して地上部へ運ばれます(図1)。Cdが表皮の根細胞へ取り込まれる入口と導管へ輸送される出口には、細胞膜に「トランスポーター」と呼ばれるタンパク質の運び屋があり、これによって細胞内外の出入りが可能になります。それゆえ、入口と出口のどちらか、もしくは両方が地上部のCd集積を左右する重要な要因と考えられます。
Cdの入口に相当する根細胞へのCd取り込み速度を評価したところ、稲の場合、高Cd集積品種のハバタキよりも低Cd集積品種のササニシキで高くなり(図2左上)、品種間の地上部集積とは全く逆の結果になりました。一方、Cdの出口に当たる導管へのCd輸送量は高Cd集積品種のハバタキで高いため(図2右上)、地上部Cd集積の稲品種間差は導管にCdを輸送する能力に支配されると考えました。
一方、ナスの場合には、トルバムビガー(ナス近縁の台木種)よりも栽培ナス(千両2号)でCd取り込み速度(図2左下)やCd輸送量(図2右下)が高いことがわかりました。しかし、より鮮明な違いが導管へのCd輸送量に認められることから、ナスも稲同様に導管にCdを輸送する能力の差異が決め手であると判断しました。
今後、根細胞から導管にCdを輸送する「トランスポーター」の遺伝子を単離することで、作物によるCd集積を遺伝的にコントロールする技術を開発したいと考えています。
本研究は生物系特定産業技術研究支援センターの新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業「食の安全を目指した作物のカドミウム低減の分子機構解明」による成果です。
リサーチプロジェクト名:重金属リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 石川覚、荒尾知人、森伸介、倉俣正人、安部匡、浦口晋平(現:東京大学)
発表論文等:1) Mori et al., Exp. Environ. Bot., 67: 127-132 (2009) 2) Mori et al ., Soil Sci. Plant Nutr., 55: 294-299 (2009) 3) Uraguchi et al., J. Exp. Bot., 60: 2677-2688 (2009)
図表 図表
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