農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

普及に移しうる成果 1

塩化鉄によるカドミウム汚染水田の実用的土壌洗浄技術

[要約]
汚染水田に塩化鉄を溶かした用水を入れて土壌とよく混合し、カドミウムを溶出させて排水することにより、土壌のカドミウム濃度を60〜80%、生産される玄米のカドミウム濃度を70〜90%低減する実規模のオンサイト土壌洗浄技術を確立しました。
[背景と目的]
米のカドミウム基準値が2011年2月に改正され、客土法に代わる汚染水田の修復法の開発が必要です。当研究グループで開発した塩化鉄を洗浄剤とした土壌洗浄法を改良し、カドミウム除去効率が高く、環境にやさしい実用的な土壌浄化技術を開発しました。
[成果の内容]
土壌洗浄は次の作業手順で行います。まず汚染水田に塩化鉄(III)を溶かした用水を引き入れて、土壌と水をよく混合します。次にカドミウムが溶け出した水を排水し、溶存するカドミウムを現場に設置した処理装置によって回収します。洗浄した水田は更に塩化鉄を含まない用水で2〜3回同様の処理を繰り返し、水田に残っているカドミウムや塩素を除去します(図1)。
洗浄水と土壌を混合する際には、作土層の攪拌効率を高め耕盤の破壊を最小限に食い止めるため、レベルセンサーなどでトラクターの作業深度を正確に管理し、水面から耕盤までの作土懸濁層の水深を40cm以上とすることで、土壌からのカドミウム除去効率が高まります(図2)。それにより、未処理の水田と比べ作土中のカドミウム濃度は60%-80%、生産される米のカドミウム濃度は70%-90%低減できます(図3)。洗浄処理後に土壌pHを矯正し、ミネラル補給して水稲を栽培すると、玄米処理はほとんど減少せず(図4)、食味や栄養分も大きく変化しません。
排水に含まれるカドミウムはアルカリ処理で沈降させることによりカドミウム濃度を環境基準値(0.01mg/L)の10分の1まで低下させることができます。また、農業排水路に放流する排水中の塩素イオン等の溶存成分は藻類、ミジンコ、魚類などを用いた影響評価で生態系に悪影響を及ぼさないことも確認しています。標準的な工費は10アールあたり約300万円と客土(300〜600万程度)と同等以下の水準です。
2011年2月末から、コメのカドミウム基準値は現行の1.0mg/kg未満から0.4mg/kg以下となります。本技術は新たな基準をクリアするための対策の一つとして期待されます。

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」および「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:重金属リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 牧野知之、前島勇治、赤羽幾子、荒尾知人、有機化学物質研究領域 永井孝志、堀尾剛、関谷尚紀(長野県農業試験場)、稲原誠(富山県農林水産総合技術センター)、茨木俊行(福岡県農業総合試験場)、竹田宏行(新潟県農業総合研究所・園芸研究センター)、高野博幸・神谷隆(太平洋セメント株式会社・中央研究所)
発表論文等:1) Makino et al., Environmental Pollution, 144: 2-10 (2006)
2) Makino et al., Chemosphere, 70: 1035-1043 (2008)
3) 牧野ら、特許411697号 (2008)


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