農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 2

土壌中におけるジフェニルアルシン酸の化学形態変化とイネへの移行

[要約]
土壌に添加されたジフェニルアルシン酸(DPAA)が,微生物の働きによってメチル化や脱フェニルにより形態変化する代謝経路を解明しました。イネはこれらのヒ素化合物を吸収しますが、玄米へ移行するのはDPAAとメチルフェニルアルシン酸の2種類のみでした。
[背景と目的]
茨城県旧神栖町では自然界には存在しないジフェニルアルシン酸関連有機ヒ素化合物が地下水及びコメなどから検出されていますが、環境中での化学形態変化や作物への取り込みについてははっきりとわかっていません。そこで、土壌中での化学形態変化とイネへの移行について研究を行いました。
[成果の内容]
茨城県神栖市から採取した水田土壌にジフェニルアルシン酸等のフェニルヒ素化合物を添加して培養試験と水稲栽培試験を行いました。「土壌及び作物中のフェニル置換ヒ素化合物の定量法(研究成果情報 第23集)」を用いて、土壌とイネに含まれるフェニルヒ素化合物を化学形態別に分別・定量しました。その結果、土壌に添加されたジフェニルアルシン酸(DPAA)は、メチル化や脱フェニル(フェニル基が外れる反応)によって経時的に化学形態が変化しましたが、その変化速度は畑条件下に比べ水田条件下の方が顕著に速いことが明らかとなりました(図1)。また、土壌中のDPAAは、主に微生物の働きによってメチル化や脱フェニルを受けながら、図2に示すような代謝経路で経時的に形態変化することが明らかとなりました。土壌にDPAA、フェニルアルソン酸(PAA)、メチルフェニルアルシン酸(MPAA)の3種類のフェニルヒ素化合物をそれぞれ添加し、イネを湛水条件で栽培した場合、収穫されたわらには5種類のフェニルヒ素化合物が検出されました。一方、玄米ではDPAAとMPAAの2種類のみ検出されました(表1)。
以上より、土壌中で化学形態変化したフェニルヒ素化合物の一部は、イネの根から吸収され、わらおよび玄米まで移行することがわかりました。これら一連の成果は、農業環境中におけるこれらの有害化学物質の動態解明につながり、そのリスク評価に大いに貢献することが期待されます。

本研究は環境省地球環境保全等試験研究「農耕地土壌における有機ヒ素化合物の動態と作物吸収に関する研究」による成果です。
リサーチプロジェクト名:重金属リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:土壌環境研究領域 前島勇治、荒尾知人、有機化学物質研究領域 馬場浩司
発表論文等:1) Maejima et al., Journal of Environmental Quality, 40: 76-82 (2011)
2) Arao et al., Environmental Science and Technology, 43: 1097-1101 (2009)
3) Baba et al., Analytical Chemistry, 80: 5768-5775 (2008)


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