農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 5

水田で使用する農薬の河川における濃度変化を予測し地図上に表示するシミュレーションモデルの開発

[要約]
水田で使用する農薬の物理化学性や環境条件などの情報を用いて、河川水中の農薬濃度を精度良く予測し、地図上に濃度分布を表示するシミュレーションモデル(GIS結合型PADDY-Largeモデル)を開発しました。
[背景と目的]
水田が多く分布する河川流域において、水稲の病害虫や雑草を防除するために使用される一部の農薬が、使用時期に合わせて河川水中から検出されています。しかし、農薬の検出濃度や期間は、その種類や河川流域により大きく異なります。そこで、水田で使用する農薬を対象とし、河川流域における時間的・空間的な濃度変化を地図上で容易に把握することができるシミュレーションモデルを開発しました。
[成果の内容]
  1. このモデルでは、水田一筆内での農薬の消長予測が基本となります。水田に施用された農薬が、その物理化学性(水溶解性、土壌吸着性、分解性など)と圃場条件(水収支、土壌の特性など)に従って田面水・土壌・植物体などに分布し、時間の経過とともに変化していく様子を、水の移動と農薬の挙動要因を用いてモデル化することで、田面水や土壌中での濃度変化や、水田外への流出量が計算されます(図1左)。
  2. 次に、河川流域に分布する水田を農業水利の観点から「耕区」、「農区」、「地区」、「広域」の4つのレベルに分類し、耕区からの水尻排水、農区内の支線排水路、地区内の幹線排水路、河川本川の順に農薬の濃度変化を計算します(図1右)。
  3. さらに、地理情報システム(GIS)により国土数値情報や航空写真などを用いて、流域特性(小流域界、水田の位置・面積、河川流路の位置・延長など)を解析し、この結果をモデルに反映させます。一例として、茨城県南部の水田地帯を流れる桜川の流域特性を示します(図2左上)。
  4. 桜川流域の水田において田植えの約1週間後に使用される除草剤メフェナセットを対象とし、農薬要覧による都道府県別出荷量を基に推定した流域内での使用量や使用時期を考慮することにより、開発したモデルで河川水中濃度を計算しました。桜川中流域における河川水中濃度の実測値と比べると、開発したモデルは一定期間内の検出濃度の変化を精度良く再現することができました(図2左下)。また、計算結果を地図上に表示することにより、河川流域での濃度分布が容易に把握でき、どの地域で河川水中の濃度が高くなるのかを評価できます(図2右)。
  5. GIS結合型PADDY-Largeモデルにより予測される濃度と、水生生物が影響を受ける濃度を比較することにより、水田使用農薬の河川生態系を対象としたリスク評価にも活用することができます(研究成果情報第25集、第26集)。

リサーチプロジェクト名:有機化学物質リスク管理リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 稲生圭哉、生態系計測研究領域 岩崎亘典、 有機化学物質研究領域 岩船敬、堀尾剛
発表論文等:1) 稲生圭哉、農業環境技術研究所報告、23: 27-76 (2004)
2) Inao. K. et al., J. Pestic. Sci. 34: 273-282 (2009)


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