農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 12

防風ネット・防風植生による交雑抑制効果を評価する数値モデル

[要約]
大気乱流拡散モデルを基礎として、風媒作物の花粉拡散による交雑率分布推定のための3次元数値モデルを開発しました。このモデルを利用して実際の気象条件下での花粉拡散のシミュレーションを行うことにより、防風施設による交雑抑制効果を評価できます。
[背景と目的]
風媒性の遺伝子組換え作物の花粉飛散による導入遺伝子の拡散を防止するため、防風ネットによって風速を抑制することが考えられます。しかし、農家圃場規模で防風ネットを利用する際、その抑制効果を評価することは困難です。そこで、防風ネットや防風植生による交雑抑制効果を評価する数値モデルの開発を行い、これらの防風施設の効果を検証しました。
[成果の内容]
大気ガス乱流拡散モデルを利用した、花粉粒子の拡散と防風効果のシミュレーションモデルに、花粉放出率の日変動と開花期間中の花粉の寿命を組み込むことにより、風媒作物の花粉の拡散による交雑率分布推定のための3次元数値モデルを開発しました。このモデルを利用することにより、花粉親と種子親の花粉拡散の状況に基づき、交雑率分布の数値シミュレーションができるようになりました。トウモロコシ試験区について行ったシミュレーションの結果は、花粉親からの距離に伴う交雑率の低下や、防風施設による交雑抑制効果をおおむね再現しており、モデルシミュレーションの有効性を確認できました(図1)。 さらに、風洞実験で得られた防風ネットの物理特性データを数値モデルに適用し、網目が異なる防風ネットの交雑抑制効果を比較した結果、網目1mmの防風ネットは2mmや4mmの防風ネットに比べ、効果的に交雑抑制ができることが明らかになりました(図2)。
このように、本数値モデルを利用することにより、防風ネットや防風植生による交雑抑制効果の評価ができ、風媒性遺伝子組換え作物と非組換え作物間での効率的な交雑抑制方法の策定に提言できます。また、このモデルは様々な地形や作物が混在する圃場にも適用でき、実際の気象条件下での花粉の長距離拡散による交雑率の評価や、開花期調整による交雑抑制効果の評価も可能です。

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」による成果です
リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 杜明遠、牛山朋来(現:(独)土木研究所)、米村正一郎、川島茂人(現:京都大学)、井上聡(現:(独)農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター)、生物多様性研究領域 芝池博幸
発表論文等:1) Ushiyama et al., Environ. Biosafety Res. 8: 183-202 (2009)
2) 牛山ら、農業気象、65、3、 273-281 (2009).
3) Ushiyama et al., MABE'09: 27-32 (2009)


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