農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成22年度 (第27集)

主要成果 16

コナガの天敵である寄生蜂コナガサムライコマユバチが寄主探索で利用する植物揮発性成分

[要約]
コナガの幼虫に寄生するコナガサムライコマユバチの雌は、コナガ幼虫が食害している最中のコマツナをその他のコマツナから識別することができます。食害を受けた時にだけ植物から多く放出される揮発性成分を解明し、寄生蜂がその成分を感知してコナガの存在する植物を発見していることを明らかにしました。
[背景と目的]
コナガ Plutella xylostella はアブラナ科作物の重要害虫です。農薬に対する抵抗性を発達させやすい本種を適切に管理する上で、寄生蜂等の天敵の活用が期待されています。近年、寄生蜂は寄主害虫が食害したときに植物が放出する揮発性成分を手掛かりにして寄主を探索していることが明らかになってきました(図1)。天敵誘引剤による天敵個体数評価や害虫防除技術の開発に向け、コナガサムライコマユバチ Cotesia vestalis がどのような植物由来の揮発性成分を寄主探索に利用しているのかを調べました。
[成果の内容]
  1. ポット植えのコマツナ株(健全株)と、コナガ幼虫に1日食害させた株(食害中株)、その後に幼虫を除いて1日放置した株(食害後株)を準備し、これらのうち二者間の選択実験で寄生蜂がどの株に好んで降り立つかを観察しました。その結果、寄生蜂は健全株よりも食害中株を(図2a)、健全株よりも食害後株を(図2b)、食害後株よりも食害中株を(図2c)好みました。従って、寄生蜂はコナガが食害中の株を健全な株や食害後の株から見分けていることが明らかになりました。
  2. 次に、植物の揮発性成分を捕集し、ガスクロマトグラフ−質量分析計で調べた結果、食害中にのみ多く放出される成分として“ベンジルシアニド”と“ジメチルトリスルフィド”を検出しました(図3)。両成分の放出量はコナガ除去後に減少しました。他の検出成分は食害に伴い増加しましたが、コナガ除去後に減少しませんでした(図3)。
  3. 化学的に合成された各成分を添えた株(処理株)と無処理の株(対照株)との間で選択実験を試みたところ、上記2成分の溶液を 10 mgl-1 の低濃度で添えた処理株は寄生蜂に好まれ、他の成分よりも高い誘引性を示しました(図4)。
  4. 食害中にのみ放出される2成分は、寄主が存在している植物を効率良く発見するために寄生蜂が利用している揮発性成分であるといえます。これら植物揮発性成分を用いることで寄生蜂の誘引が可能になると期待されます。今後、他の成分とも組み合わせてさらに強力な天敵誘引剤を開発し、その効果を圃場レベルで検証する必要があります。

本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金若手研究 (B)プロジェクト研究「揮発性物質を介したアブラナ科植物−植食者−捕食者間相互作用の導出機構の分子基盤」による成果です。
リサーチプロジェクト名:情報化学物質生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 釘宮聡一、田端純、下田武志((独)農業・食品産業技術総合研究機構中央農業研究センター)、高林純示(京都大学)
発表論文等:1) Kugimiya et al., Journal of Chemical Ecology, 36: 620-628 (2010)


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