農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

主要成果

九州では過去29 年間でコメ外観品質に影響する水稲登熟期間の日射環境が顕著に悪化した

[要約]
コメの外観品質低下の一因である水稲登熟期間の低日射について解析しました。その結果,品種の変化と気温上昇による登熟期間の短縮と早期化、季節的な降水量の増加により、九州における登熟期間の日射環境が顕著に悪化していることが明らかになりました。
[背景と目的]
登熟期間の低日射はコメの外観品質を低下させる一因ですが、過去に測器の変更があったために水稲登熟期間の日射量の長期変化の実態は良く分かっていません。そこで、長期間にわたる均質な日射量の推定値が得られる地域気候モデルを用いて,1979−2007年について九州の水稲登熟期間の日射環境の長期変化を明らかにしました。
[成果の内容]
九州における過去29 年間の水稲登熟期間(出穂日から収穫日までの期間)の平均および積算日射量、気圧配置、降水量分布の変化を地域気候モデルによって明らかにしました。
近年、栽培品種の変化と気温上昇により、全国的に登熟期間が短縮しており、とりわけ九州ではその傾向が顕著です(図1)。また、より高温・多照な盛夏に登熟時期が近づいています(図2)。このため、図2 の回帰直線に基づいて評価すると、1979 年に比べて2007年には九州の登熟期間の平均日射量は0.9 MJ m-2 d-1増加したものの、気温は2.1℃上昇し、登熟期間の積算日射量は以前に比べて168.7 MJ m-2(1979 年の22%)減少しました。
また、登熟期間が盛夏に近づいたため、西日本(特に九州)では1990 年代の登熟期間に比べて2000 年代には降水量が増加しています(図3)。これは、以前の登熟期間が9 月上旬から10 月下旬だったのに対して近年は8 月下旬から10 月上旬に移行しているため、太平洋高気圧の西側の張り出しが以前よりも強く、南から暖かく湿った空気の流入により西日本で雨が降りやすい天候であるためです。
すなわち、品種の変化と気温上昇による登熟期間の早期化・短期化に加えて、季節的な降水量の増加とそれに伴う日射量の減少が起こっており、九州のコメ外観品質の低下に寄与していることが示唆されました。これにより、これまで限られた地点で指摘されていた九州の水稲登熟期間における近年の寡照について広域での実態と要因が明らかになりました。今後、九州における栽培管理指針の設計に寄与するものと期待されます。

本研究は、環境省地球環境研究総合推進費「温暖化影響のためのマルチモデルアンサンブルとダウンスケーリングの研究」および農林水産省気候変動対応プロジェクト(農業適応)「気候変動の実態解明と気候シナリオの提示」による成果です。
リサーチプロジェクト名:食料生産変動予測リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 飯泉仁之直、西森基貴、宇野史睦(筑波大学)
発表論文等:1) Uno et al., J. Agric. Meteorol., 68: 69-76(2012)


図1 全国の水稲登熟期間の長期変化

図2 九州の出穂日・収穫日の長期変化と気温、日射量の季節変化

図3 1990年代と2000年代のそれぞれにおける九州の登熟期間の平均気圧と風向風速、降水量

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