農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成23年度 (第28集)

はじめに

農業環境技術研究所は、世界的に環境への関心が高まりつつあった昭和58年(1983年)に、国立の研究機関としては初めて「環境」を冠した研究所として設立されました。その後、平成13年(2001年)に独立行政法人化され、今日に至っています。この間、農業にとって環境問題はますます重要性、緊急性を増しており、農業環境研究に対するニーズは高まっています。
平成18〜22年の第2期中期目標期間においては、農業環境のリスクの評価と管理技術の開発に関する研究を重点的に推進し、行政や国民のニーズに応えてきました。特に、ダイオキシンを始めとする残留性有機汚染物質(POPs)やカドミウム等の無機化学物質、さらには放射性物質等による農作物汚染、遺伝子組換え作物や外来生物の農業環境影響、農業生産活動と生物多様性の保全との関係性、地球温暖化に代表される地球規模環境変動と農業活動との関係等に関する諸問題の解決に貢献してきました。
平成23年から始まった第3期中期目標期間では、農業生産における地球温暖化の影響の顕在化や、農作物や環境のリスクに関する社会の関心の高まりを受け、これまでに蓄積した知見や構築した国内外のネットワークを十分に活用し、かつ分野横断的に研究勢力を結集することにより、「地球規模環境変動と農業活動の相互作用に関する研究」、「農業生態系における生物多様性の変動機構及び生態機能の解明に関する研究」、「農業生態系における化学物質の動態とリスク低減に関する研究」の研究課題について重点的に研究開発を推進するとともに、農業環境研究を支える基盤的な研究として「農業環境インベントリーの高度化」を推進することとしています。
現代社会における科学の役割はきわめて大きくなっており、政府の幅広い政策決定に科学的知識が適切に用いられることが重要とされています。このため、第3期中期計画では、行政部局との緊密な連携の下で政策上の課題を適時適切に研究開発に反映させるとともに、得られた成果については、速やかに関係機関に提供することにより、我が国の農業環境に関する政策が合理的かつ効果的なものとなるために貢献することが明記されています。この研究成果情報は、「施策推進上の活用が期待される成果(主要研究成果)」と「主要成果」からなっていますが、このうち主要研究成果は、行政部局を含む第三者の意見を踏まえて選定されたものです。
3課題の主要研究成果のうち2課題は、放射性物質汚染に関連しています。東京電力福島第一原子力発電所の事故では、福島県を中心とした近隣の農地にも放射性物質が降下し、汚染を引き起こしています。農環研では事故発生以来、国や県からの依頼に応える形でこの問題の対応に当たってきました。土壌の実測値と空間線量率の値を元に作成した、農地土壌の放射性物質濃度分布図は、汚染実態の把握や対策の立案などに利用されています。また、1959年から継続してきた農業環境中の放射性物質長期モニタリングデータは、今回の事故以前のバックグラウンドとしてだけでなく、土壌からイネへの放射性セシウムの移行係数の算出等に活用されてきました。もう一つの主要研究成果であるカドミウム汚染水田の実用的土壌浄化技術は、農環研が開発したカドミウム汚染水田土壌を浄化(修復)するための2つの技術、ファイトレメディエーションと化学洗浄法を紹介しています。
23年度の代表的な成果をとりまとめた「主要成果」とあわせ、これらの知見や技術が各界、各方面で広く利用されることを切に願うものです。ご感想やご意見等賜れば幸甚です。

 平成24年3月

独立行政法人 農業環境技術研究所
理事長 宮下 C貴

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